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第21話 優先順位

 乾いた銃声。


 複数の金属が擦れる音。


 鼓膜に張り付く、電子音。


 そのすべてが、広場に反響し、不快に混ざり合う。


 美咲はサブマシンガンから、回復弾を込めたハンドガンへ持ち替えた。


 れんは外周を走り回り、湧いてくる小型を集めている。


 ナナはそこから漏れた小型を、的確に撃ち抜いていく。


 美咲は一瞬だけ、中央に佇むジャミングバグへ視線を向けた。


 ブラウン管テレビは、まだ砂嵐を映し続けている。


 フェーズ移行後、すぐに状態異常が付与された。


 おそらく、二分前後。


 ナナがまだ前線に戻りきっていなかったから、美咲一人でも処理が間に合った。


 もしあれが、今もなお小型に追われているれんだったら。


 そう考えると、あの時は運がよかったのかもしれない。


 美咲の視線の先では、ナナとれんが駆け回っている。


 二人とも、ぎりぎりのところで被弾を避け、目の前の敵に弾丸を撃ち込んでいた。


 今のところ、二人に異常は見られない。


 けれど、ジャミングバグがそれを許さない。


 それだけは、確かだった。


 美咲は、腕のバイタルデバイスに視線を落とした。


 先ほどの映像から、およそ一分三十秒。


 美咲は意識をジャミングバグに向けた。


 まずは、予測を確信に変える。


 二分十三秒。


 ジャミングバグから音が途切れ、映像が切り替わった。


「状態異常、飛んできます!」


 美咲の声に、二人の視線が一瞬ジャミングバグに向いた。


 画面の中に、人影が立っている。


 傷は見えない。


 顔も見えない。


 ただ、その足元にだけ、赤い水たまりが静かに広がっていった。


 美咲はすぐに視線を二人に向けた。


 ナナは何事もなく、射撃を続けている。


 つまり、今回はれん。


 美咲がれんを見ると、れんの腕から血が跳ねた。


 出血。


 動きは止まっていない。


「回復だけお願い!」


 れんが叫んだ。


 美咲はハンドガンを握りしめ、数歩前に出た。


 れんに照準を合わせようとする。


 けれども、れんが動くためうまく定まらない。


 止まってくれなんて言えない。


 止まれば、れんが被弾する。


 焦りが指先に伝わり、意図せず引き金が引かれた。


 放たれた回復弾は空を切り、れんの目の前を飛んでいく。


 もう一度照準を合わせようと、美咲が銃口を向け直した。


 今度は、外さない。


 その時、れんが小型の群れから飛ぶように距離を取り、半拍だけ足を止めた。


 その一瞬に、美咲がれんに回復弾を撃ち込む。


「ありがと!」


 れんはお礼を叫ぶと、また動き始めた。


 美咲は、ほんの一瞬だけ息を吐いた。


 れんのおかげで、間に合った。


 そして、これで間違いない。


 二分周期だ。


 美咲は周囲に視線を走らせた。


 れんとナナの処理を抜けてきた小型の一体が、美咲めがけて這ってきている。


 美咲は武器を持ち替えた。


 美咲の放った弾丸がそれの足を撃ち抜き、目の前で崩れ落ちた。


 美咲は地面でわずかに動く小型に数発を撃ち込むと、前線で戦う二人をあらためて見た。


 ナナの弾丸は数発で小型を破壊している。


 れんはほとんどの小型を自身に集め、一定以上近づけていない。


 二人は、この状況でも通用している。


 なら、今優先すべきは無理して小型を減らすことじゃない。


 安全に減らすこと。


 美咲は大きく息を吸うと、二人に向かって叫んだ。


「私はカウントと解除に集中します!」


 二人は、美咲の声に反応しない。


 けれども、聞いてくれているはず。


 美咲はそう信じて、続けた。


「私の号令と一緒に、お二人は距離を取ってください! 攻撃ではなく、解除まで被弾しない位置取りをお願いします!」


 美咲は自分でそう言いながら、自分がそれを実行できる気はしなかった。


 でも、あの二人なら。


「十秒前です!」


 美咲は叫びながら、ジャミングバグに視線を向けた。


 視界の端で、ナナとれんが同時に目の前の敵から距離を取り始めた。


「来ます!」


 美咲の声と同時に、映像が切り替わる。


 薄暗い部屋。


 横たわる人。


 その腕に、何度もナイフを突き立てる人影。


 何度も。


 何度も。


 執拗に。


 そして、その鋭利な先端が横たわる人の胸元に向いた。


 人影が振りかざした瞬間、映像が砂嵐に切り替わった。


 美咲は途中で、映像から意識を切り離していた。


 映像の内容はもうどうでもいい。


 今、美咲に重要なのは、誰に付与されたのか。


 視線を滑らせると、ナナが声を上げた。


「れん!」


 美咲はすぐに、れんを見た。


 れんは周囲の小型を、ぎりぎりまで引き離していた。


 被弾した形跡も、出血もない。


 なのに、その表情は苦痛に歪んでいた。


 ペイン。


 美咲はれんに駆け寄りながら、ポーチから鎮痛剤を取り出した。


 右から小型が一体、美咲に向く。


 美咲の指がサブマシンガンに触れるが、それと同時に右の小型が崩れ落ちた。


 美咲は咄嗟にナナを見た。


 ナナの銃口はすでに、次の標的に向いていた。


 美咲は周囲の小型には目もくれず、滑り込むようにれんのもとに寄った。


「れんさん、これを!」


 美咲が鎮痛剤をれんに渡すと、れんがそれをすぐさま飲み込んだ。


「この感じで、いけそうですね」


 れんは呼吸を整え、走り出した。


 美咲はその後ろ姿を見送りながら、向かってくる小型に銃口を向けた。


 うまくいった。


 初めて、そう思えた。


 この要領で続ければ、絶対に崩れはしない。


 れんの一言が、美咲にそう思わせてくれた。

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