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第13話 本音

 美咲の足音が遠ざかっていく。


 れんは足音が聞こえなくなるのを確認すると、二人に顔を向けた。


「あのさ……もう少し仲良くできないの?」


 れんの声は、いつもと同じように穏やかだった。


 けれど、その言葉が落ちた瞬間、この場の空気がわずかに張り詰めた。


 リクトは携帯食料を片手に、れんを見る。

 ナナは端末から視線を上げない。


 ただ、指先だけが画面の上で止まっていた。


「それ、俺に言ってる?」


 リクトが、少しだけ笑った。


 冗談にしようとしているような声だった。


 けれども、れんは笑わなかった。


「リクトにも言ってる」


「にも?」


 リクトの眉が動く。


 れんはナナへ視線を向けた。


「ナナにも」


 ナナの指先が、ほんの少しだけ動いた。


 それでも、返事はない。


 れんは、ナナに悪意がないことを知っていた。


 この任務の前、支援職と揉めていたことも知っていた。


 だから、最初から機嫌が悪かった理由も分からないわけではなかった。


 けれど、それとこれは別。


 美咲に対して、きつく当たっていい理由にはならない。


「ナナが美咲さんにきつかったのも、俺はずっと気になってた」


「……」


「リクトもそうだよ。さっきから言い方がきつい」


「俺は普通にしてるだろ」


「普通じゃない」


 れんは短く返した。


 声は荒くない。


 でも、いつものように丸める気配もなかった。


「美咲さん、さっきのこと気にしてた」


「それは本人が勝手に気にしてるだけだろ」


 リクトは面倒くさそうに息を吐く。


「俺は別に責めたつもりない。ただ、支援職なら周り見てくれって言っただけだろ」


「見てたよ」


 れんが言った。


「少なくとも、俺にはそう見えてた」


「お前には、な」


 リクトは軽く肩をすくめる。


「もう少し、上手くやってくんないかね」


 れんの眉が、わずかに動いた。


 ナナはまだ何も言わない。


 端末を伏せることもなく、ただ黙っていた。


 けれど、その横顔はさっきより冷えていた。


「リクト」


 れんは、少しだけ声を低くした。


「言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」


「だから言ってるだろ」


「違う。遠回しに言うなって言ってるんだよ」


 リクトはれんを見た。


 それから、美咲が向かった先に視線を向けた。


「こっから、セメタリーキャッシュ探すんだろ?」


 リクトが言った。


「それに、第三セクターも残ってる」


「そうだな」


「この後もリスクがあるかもしれないんだろ?」


「だから、今こうして整えてる」


「なら、リスクは最小限にする必要があるだろ」


 リクトの声は荒くなかった。


 むしろ、本人の中では筋の通った話をしているつもりなのだと分かる声だった。


 それが、余計にれんの苛立ちを強くした。


「……何が言いたいんだよ」


「分かってるだろ」


「ハッキリ言え」


 れんの声が、ほんの少しだけ硬くなる。


 リクトは短く息を吐いた。


「俺たちはさ……少なくとも俺は、初心者のお守りをしに来たわけじゃないんだよ」


 れんの手が、わずかに握られた。


「美咲さんは、やれることをしっかりやってる」


「そういう意味じゃない」


「じゃあどういう意味だよ」


「火力も判断も足りないやつを連れて、この先で事故ったらどうすんだって話」


 空気が、一段冷えた。


 ナナの指先が、端末の縁を軽く叩く。


 一度だけ。


 それきり、また止まった。


「美咲さんは、ちゃんと動いてた」


「動いてたかどうかじゃなくて、足りてるかどうかの話だろ」


「リクト」


「俺、何か間違ったこと言ってるか?」


 れんは、ゆっくり息を吐いた。


 落ち着こうとしているのが分かった。


 それでも、目だけはもう笑っていなかった。


 リクトは大きく息を吐きながら、呆れたように首を横に振った。


「れん」


 リクトはれんを見据えたまま、静かに続けた。


「お前さ、言いたいことがあるなら、ハッキリ言えって言ったよな」


「ああ」


 れんも目をそらさない。


 リクトは、面倒な手順を省くように言った。


「足手まといには、抜けてもらおうぜ」


 れんの表情が変わった。


「お前、自分勝手もいい加減に──」


「さんせーい」


 れんの怒りを遮るその声は、ひどく軽かった。


 れんの言葉が止まる。


 リクトも、少し驚いたように顔を向けた。


 それまで一度も口を挟まなかったナナが、端末を膝の上に伏せていた。


 口元には、薄い笑みが浮かんでいる。


 けれど、その目だけは少しも笑っていなかった。

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