第12話 休息
静まり返った広場。
そして、地面に転がる空薬莢と、機械生命体の残骸。
すでに戦闘は終わっているのに、いまだに耳の奥で銃声が反響していた。
れんは制御端末まで歩み寄ると、画面に触れた。
「このまま放置しても、閉まらなそうだね」
れんは確認を済ませると、階段に向かって歩き始めた。
その背中を、美咲がついていこうと一歩踏み出した時、リクトが口を開いた。
「どこ行くんだよ」
その声には、どこか棘がある。
れんは足を止め、一拍おいた後に振り返った。
「上の階だよ。こんな場所で休めないだろ」
「ここでいいだろ」
れんが首を横に振る。
「そろそろ捕食個体も出てくるし、俺はやだよ」
「出てきても触んなきゃいいんだし、ビビりすぎじゃね」
リクトの口調は強い。
美咲は二人を交互に見た。
自分が責められているわけじゃない。
それでも、美咲の胃がこの場の雰囲気に痛み始めた。
ため息が漏れそうになる。
れんは特に気にした様子もなく、穏やかに答えた。
「そういう問題じゃないから。負傷もあるし、落ち着ける場所の方がいいだろ」
れんはそう言うと、手を挙げて歩き始める。
その動作が、この話はここで終わりだと言っているようだった。
ナナもすぐにれんの後を追った。
美咲はゆっくりと視線をリクトに向ける。
リクトは納得のいっていない表情を二人に向けていた。
そして、小さく舌を鳴らすと歩き始めた。
三人の背中が遠ざかる。
美咲は、しばらくその背中を見つめていた。
完璧とまではいかないが、任務は円滑に進んでいる。
残すは、セメタリーキャッシュと第三セクターの攻略だけ。
れんは、美咲の判断が間違っていないと言ってくれた。
でももし、あの時リクトを優先していたら。
もう少し、この空気も穏やかだったんじゃないかと思ってしまう。
美咲は振り返り、開いた扉の先を見た。
暗がりに通路が続いている。
美咲は、小さく息を吐いて三人の後を追った。
四人は来た道を戻り、比較的開けた場所で足を止めた。
「周辺にモーションセンサーを置いてくるから」
そう言い、れんがその場を離れた。
ナナとリクトは、バッグを下ろすと無言でその場に座り込んだ。
バッグから回復剤を取り出すリクト。
携帯端末を眺めるナナ。
誰も口を開こうとしない。
二人から少し離れた場所に、美咲も静かに座り込んだ。
美咲はなるべく音を立てないように、バッグから水を取り出し口をつけた。
「なあ」
リクトの声に、美咲の肩がわずかに跳ねた。
顔を向けると、リクトは錠剤を口に運びながらナナを見ていた。
「……なによ」
ナナは端末から視線すら外さない。
「あいつ、心配しすぎじゃね?」
リクトの問いかけに、ナナは端末から視線を上げた。
返事はない。
ただ、その目だけが冷たかった。
「……なんだよ」
リクトは舌打ちし、錠剤を水で流し込んだ。
「頼むぜほんと」
誰に向けられたのかわからない、リクトの言葉。
それでも、美咲は顔を上げることができなかった。
それ以降、会話はなかった。
美咲は気を紛らわせるため、端末でジャミングバグについて調べていた。
文字を目で追うが、内容は頭に入ってこなかった。
脳内に思い浮かぶのは、これから自分はどうするべきなのか。
そればかりだった。
自分がここで抜ければ、全て丸く収まるんじゃないか。
抜けたら抜けたで、さらに嫌な顔をされるのではないか。
誰かに言ってほしい。
残るべきなのか、抜けるべきなのか。
誰かに決めてほしい。
美咲は画面を切り替えると、フレンド欄を開いた。
アリスと刹那はログインしていた。
二人の名前を見るだけで、弱音が込み上げてくる。
二人と一緒なら──
美咲が考えていると、足音が聞こえてきた。
美咲が足音の方へ顔を向ける。
れんがこちらに歩いてきていた。
「どこまで行ってたのよ」
「いやー、道に迷っちゃってさ。ごめんごめん」
ナナの問いかけに、れんは恥ずかしそうに謝った。
美咲は手元の端末に視線を向けた。
通信も良好。
各々の位置もマップに表示されている。
道に迷うわけがない。
けれども、ナナもリクトも何も言わなかった。
「美咲さん、ゆっくり休めました?」
美咲は顔を上げると、咄嗟に笑顔をつくった。
「は、はい! お気遣いありがとうございます」
れんは笑顔で頷く。
「あとどれくらい休憩するつもりなんだ?」
支給された携帯食料を片手に、リクトが聞いた。
「俺は戻ってきたばかりなんだし、あと十分は休もうよ」
「あいよ」
リクトの返事は意外にも素直だった。
十分。
その時間は、今の美咲にとってとてつもなく長く感じた。
その時、れんの端末が短く鳴った。
「ん? モーションセンサーが反応した」
れんは端末を取り出すと、画面を開いた。
「小型だな……ちょっと見てくるよ」
れんが立ち上がるより先に、美咲が声を上げた。
「わ、私が行きます!」
「え、でも……」
少し困惑するれん。
「れんさんは、休憩していてください。さっきの戦闘も、私が一番動いてないので、私が行きます」
譲らない口調の美咲。
れんはしばらく考え、端末を操作した。
美咲の端末に、反応した場所が表示される。
「やばそうだったら、すぐに逃げてきてくださいね」
「大丈夫です! 隠れるのは得意なので!」
そう言うと、美咲は駆け足でその場から離れていった。
美咲の背中を見送ると、れんは息を吐き、残った二人に顔を向けた。
「あのさ……もう少し仲良くできないの?」




