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第11話 突破

「支援職だろ。周り見てくれよ」


 その言葉が、美咲の胸に引っかかって外れない。


 美咲の体が、一瞬だけ強張った。


 でも、今は戦闘中。


 気にしている時間はない。


 美咲は、リクトの方へ回復弾が込められたハンドガンを向ける。


 けれど、その前にナナの銃声が響いた。


 カッターハウンドが砕ける。


「まだ喋れるなら動けるでしょ」


 ナナはリクトを見ずに言った。


「なんだよ、それ」


「そのままの意味」


 ナナの視線は一瞬だけリクトへ向いていた。


 冷たい目だった。


 美咲はリクトへ回復弾を撃ち込む。


 リクトの姿勢が少し戻った。


「……どうも」


 短い礼。


 その声に、本当の感謝があったのか、美咲には分からなかった。


 残り五分。


 そこからの時間は、長かった。


 敵の数は、処理できないほどではない。


 れんは崩れない。


 ナナの射撃も乱れない。


 リクトの火力も落ちてはいない。


 美咲も報告と回復を続けている。


 だから、防衛線は保たれている。


 保たれているのに、空気だけが少しずつ重くなる。


 れんの呼吸が乱れるたび、美咲は回復弾を迷う。


 リクトが前に出るたび、ナナの銃口が一瞬止まる。


 ナナが短く注意するたび、リクトの声が荒くなる。


 その全部の間に、美咲は立っていた。


 支えるために。

 見落とさないために。

 間違えないために。


 けれど、見なければならないものが、多すぎる。


「残り一分!」


 れんが叫んだ。


 最後の波が来る。


 正面からシェルキャリア。

 左右からカッターハウンドが一体ずつ。

 奥にノイズリーチが二体。


「シェル優先!」


「分かってる!」


 今度は、リクトも正面へ撃った。


 ナナが半歩横へずれ、リクトの射撃と重なる。


 シェルキャリアの横腹が砕けた。


 れんは左右のカッターを引き受けながら、敵の向きを整える。


「こっちだ。最後まで付き合え」


 低い声。


 二体のカッターハウンドがれんへ向く。


 美咲はノイズリーチの動きを見ながら、れんの呼吸を確認する。


 まだ大丈夫。


 足は動いている。


 ショットガンも下がっていない。


 けれど、余裕はない。


「ナナさん、奥のノイズ、左が動きます!」


「了解!」


 ナナの弾が奥へ伸びる。


 ノイズリーチの一体が砕けた。


 残り一体。


 リクトが撃つ。


 今度は、狙いが合った。


 ノイズリーチが倒れ、広場に残ったのは傷ついたカッターハウンドだけになる。


 れんが一歩踏み込む。


 ショットガンの銃声。


 最後の敵が床に転がった。


 その直後。


 警報音が止まった。


 広場に、重い静寂が落ちる。


 扉の奥で、ロック機構が外れる音がした。


 制御端末の数字が、ゼロで止まる。


 正面の金属扉が、ゆっくりと開いた。


 第二セクター、突破。


「……よし」


 れんはショットガンを下ろし、大きく息を吐いた。


 ナナも銃口を下げる。


 リクトは脇腹を押さえたまま、少しだけ肩を回した。


「終わった終わった。ほら、行こうぜ」


 その声は軽かった。


 けれど、れんはすぐには動かなかった。


 れんが、自分の腕のデバイスに視線を落とす。


 美咲からは細かい文字までは見えない。


 ただ、黄色の表示が残っていることだけは分かった。


「一回、休憩してちゃんと治療しよう」


 れんの声は、静かだった。


「は? もう山場抜けただろ」


 リクトが不満そうに眉を寄せる。


「そう。山場は抜けた」


 れんは頷いた。


「この先は回収がメインだ。普通なら、そこまで荒れない」


「じゃあ進めばいいじゃん」


「普通ならね」


 れんは端末を閉じ、全員を見た。


「低確率でも、面倒なのが混じる可能性がある。だから、ここで一回整える」


「低確率だろ? そんなの気にしてたら何もできねぇじゃん」


「心配しすぎで済むなら、それが一番いいんだよ。別に、タイムアタックじゃないんだし」


 れんの声は荒くならなかった。


 けれど、その一言だけは譲るつもりがないように聞こえた。


 ナナが小さく息を吐く。


「諦めなよ。れん、こういうとこだけは変に頑固だから」


「なんだよその言い方」


「褒めてんの」


「嘘っぽいな」


 軽口。


 けれど、さっきまでのようには軽く聞こえなかった。


 美咲は自分の残弾と薬品を確認する。


 回復弾は、予定より少し多く減っている。


 状態異常解除薬は、まだ残っている。


 けれど、余裕があると言い切れるほどではない。


 自分が、もっと上手く動けていたら。

 もっと早く判断できていたら。

 もっと少ない消耗で済ませられていたら。


 胸の奥に、そんな考えが落ちる。


「……すみません」


 気づけば、美咲はそう言っていた。


 れんが顔を上げる。


「え?」


「私が、もっと上手く支援できてたら……」


「それは違いますよ」


 れんの返事は、思ったより早かった。


 美咲は言葉を止める。


「美咲さんの判断は、間違ってないよ。少なくとも、俺にはそう見えてた」


「でも」


「俺が崩れたら防衛線が割れる。だから先に俺を見た。あれで合ってる」


 れんは穏やかに言った。


 その横で、ナナも何も言わずに立っている。


 ただ、美咲ではなく、リクトを見ていた。


 リクトはその視線に気づいたのか、気づいていないのか。


 小さく舌打ちをして、開いた扉の向こうへ視線を向けた。


「……休憩するなら、早くしてくれよ」


 誰もすぐには返事をしなかった。


 開いた扉の向こうには、さらに奥へ続く通路がある。


 第三セクター。

 資材回収。

 本来なら、あとは回収して戻るだけの場所。


 けれど美咲には、その通路の奥が、さっきよりも少しだけ暗く見えた。


 第二セクターは突破した。


 任務は、まだ続いている。


 けれど、ひとつ先へ進むための空気は、少しだけ重くなっていた。

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