第6話 隣席
「どうぞ、どうぞ。座ってください」
れんに促されて、美咲はナナの隣の席に腰を下ろした。
その時、ナナと目が合った。
美咲が笑みを作りながら会釈をするが、ナナは小さく息を吐き、視線を逸らした。
その振る舞いに、美咲の胸の奥が音を立てて軋んだ。
笑顔のまま固まっていると、れんが美咲に囁いた。
「すみません。今、機嫌悪いんですよ。ほっといてやってください」
「……はい」
美咲は、もう一度横目でナナを見た。
ナナは相変わらず仏頂面で、どこか遠くを見ていた。
受け入れては貰えた。
けれども、歓迎はされていない。
それだけは、美咲にもわかった。
「どうぞ」
れんが、水の入ったグラスを美咲に差し出した。
「ありがとうございます」
「集まったんだし、さっさと始めようぜ」
リクトの言葉を皮切りに、三人の視線がれんに集まった。
れんは椅子に腰を下ろすと、一拍入れて口を開いた。
「じゃあ、ちゃんとした自己紹介から始めようか」
「さっきしただろ」
「さっきのは、俺が紹介しただけだろ。それに、俺達は美咲さんの事知らないし」
れんがそう言うと、リクトは肩をすくめて、それ以上は何も言わなかった。
れんはリクトとナナを交互に見た。
そして、美咲に笑顔を向けた。
「あらためまして、れんって言います。基本的には前衛で、武器はショットガン。体力は多めですけど、状態異常の耐性が低いので、デバフには注意して立ち回ってます」
れんが、美咲に軽く会釈をした。
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
美咲が会釈を返した。
れんはナナに視線を向けた。
視線を向けられたナナは、グラスを片手に視線だけを美咲に向けた。
「ナナでーす。アサルト。嫌いなことは、私の邪魔をされること。以上」
投げやりとも取れる、端的な言葉だった。
それでも、美咲はナナに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
ナナの眉が、一瞬だけ驚いたように動いた気がした。
「……よろしく」
ナナがボソリと呟く。
隣で、れんのため息が聞こえてくる。
「……リクト」
れんのくたびれた声が、次を指名した。
リクトは面倒くさそうに、背もたれから体を起こした。
「リクト。俺も、火力職だな。こんだけ待ったんだし、クリア出来ればなんでもいいよ。まあ、よろしく」
「よろしくお願いします!」
美咲はあらためて、三人を見た。
一ヶ月前、美咲はあるプレイヤーに騙され、痛い目を見た。
だから、あれから美咲は他のプレイヤーと接する時は、注意することにした。
全て疑って見るわけじゃない。
ただ、よく観察するように心がけた。
悪意を隠して接してくるプレイヤーもいる。
それは理解している。
でも、この三人からは、そういうものは感じられなかった。
「美咲さん。お願いしていいですか?」
れんの声に、美咲が背筋を伸ばした。
「はい。えっと、美咲と言います。このゲームを始めて、まだ数ヶ月の初心者です。友人に教えてもらいながら、支援職の立ち回りを勉強……」
その時、場の空気がわずかに冷えた。
「マジかよ……」
リクトのぼやきが、耳に届いてくる。
ナナは、目を細め美咲を見つめていた。
なにかおかしなことを、言ってしまったのか。
分からない。
張り詰めた空気に、美咲は視線を彷徨わせた。
れんが困ったように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。気にしないで、続けてください」
美咲はれんの言葉にすがるように、続けた。
「ご、ご迷惑をおかけしないように、頑張ります。よろしくお願いします!」
美咲は言い終わると、深々と頭を下げた。
れんの拍手だけが聞こえてくる。
美咲は頭をあげると、気まずそうに肩を縮こませた。
「いやー。支援職が一番来て欲しかったから、美咲さんが来てくれて、助かりましたよ」
美咲は伏し目がちに、ナナとリクトを見た。
れんはそう言ってくれた。
けれども、残りの二人はそうは思っていない。
それが、空気から伝わってきた。
「なあ、れん。報酬って、きっちり4分割なのか?」
「そのつもりだけど?」
リクトの質問に、れんは当然といった口調で答えた。
リクトは小さく息を吐き、「わかった」とだけ言って椅子に腰を沈めた。
「……よし。自己紹介も終わったことだし、作戦会議に入ろっか!」
明るい口調で、れんが話し始めた。
「まずは……任務の概要からだな」
れんは足元のバッグから、タブレット状の端末を取り出すと、机の中心に置いた。
そこには、今回四人が挑戦する任務の概要が記されていた。
「えっと、美咲さん。セクター任務は知ってます?」
セクター任務。
数段階に分かれた、特殊な任務。
それは各段階ごと、別の内容で構成されている。
先日、刹那とアリスと行った、ドローンからの防衛も、セクター任務の内容の一部だった。
美咲は、それを思い出しながら口を開いた。
「はい。友人と、挑戦したことはあります」
「オッケー。じゃあその説明は不要ですね」
れんがそう言いながら、端末の画面を指でスライドした。
「今回の最終目標は、純鉄の回収。数はざっと30」
「回収のために、旧市街の地下に行かないといけないんだけど……その入口を見つけるのが、第一セクターだな。入口は完全にランダムだから、それっぽい所を根気よく調べよう」
「敵は?」
リクトの言葉に、れんが端末をスライドさせる。
「ここでは、特に厄介な敵はいないな。哨戒ドローンは飛び回ってるけど、リレードローンは一緒じゃないし、過度に警戒する必要はないかな」
「あとは、基本的な雑魚敵ばっか」
美咲は端末の画面を覗いた。
そこには、美咲でも知っている名前ばかりが並んでいた。
「第一セクターは手分けして探そう。俺、リクトペア。ナナ、美咲さんペアでいい?」
「俺は、なんでもいいよ」
「ナナは、それでいいか?」
美咲はナナを横目で見た。
ナナは特に気にした様子もなく、頬杖をついたまま、れんを見ていた。
れんが頷き、美咲に顔を向けた。
「美咲さんは、要望とかありますか?」
要望と言われても、何を意見すればいいのか。
ペアに関しては、できることなら、れんと組みたかった。
でもここで、波風を立てたくはない。
そう思い、美咲は首を横に振った。
「いえ、特にありません」
れんが視線を三人に向けると、各々が首を縦に振った。
第一セクターは、入口を探すだけ。
けれど、れんの表情はそこで緩まなかった。
「地下に降りたら、次は第二セクター。ここからが本番かな」




