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第3話 反省会

 任務を終えた三人は、リヴェラの正門前まで戻った。


 けれど、街の中には入らず、正門脇の道から森林へと入っていった。


 森林の中は穏やかだった。


 鳥の鳴き声。

 木々の間からは、光がもれている。


 そんな静かな空間を、三人は歩き続けた。


 しばらく歩くと、開けた場所に到着した。


 森林に覆われた草原。

 中心には、澄んだ水が溜まった大きめの池。

 その隣に建てられた平屋の建物。


 それは、苔に覆われた古ぼけた家屋に見える。


 三人は迷わずそこへ向かった。


 建物の目の前まで来ると、アリスが扉の認証端末に触れた。


 ID認証。

 顔認証。

 最後に、暗証番号。


 本当に必要かと思えるほど、厳重なロック。


 全てのロックを解除すると、電子音と共に扉が開いた。


 そして、アリスは迷わず中に入っていった。


 その後ろで、刹那と美咲が顔を見合わせた。


「ようこんな場所、見つけてくるよな」


「私は、秘密の隠れ家って感じで好きですよ」


 クラン結成から数日後、アリスに連れてこられた、ARCADIAの仮拠点。


 厳重なロックが設置された建物。

 外見は廃屋そのものだが、中だけは人が使えるように整えられていた。


 三人が一緒に帰る場所。

 それだけで、美咲はその場所が特別に感じた。


「行きましょ」


 美咲もアリスの後に続いて中に入っていった。


「後で請求されなきゃ、いいけどなぁ」


 少しボヤいたあと、刹那も美咲の後を追った。


 廊下を進むと、目の前に白い扉が現れた。


 こちらにも、普段は簡単な電子ロックがかかっている。

 けれども今は、先に入ったアリスがロックを解除していた。


 美咲がドアに近づくと、ドアが自動で開いた。


 ドアの先は、暖かい光に照らされたメインロビー。


 中央には白の丸机と人数分の椅子。

 その少し奥に、大人が横になれる程度の黒色のソファー。


 ただそれだけ。


 部屋に装飾らしいものは一切ない。

 家具は、最低限のものだけだった。


 美咲は慣れた足取りで椅子に座り、刹那は奥のソファーに倒れ込んだ。


 そこが、お互いの指定の位置だった。


 美咲が椅子に座ってからすぐに、紅茶の香りが部屋を満たした。


 アリスの紅茶だ。

 この仮拠点で、唯一の嗜好品。


 アリスに持ち込みを制限されているわけではない。

 ただ、美咲はそういうものをまだ持っていなかった。


 だから、美咲は少しだけ、アリスのティーセットが羨ましかった。


 いつかは自分も──


 そんなことをぼんやり考えていると、アリスがティーセットを片手に目の前に座った。


 アリスはティーカップに紅茶を注ぎながら、静かに口を開いた。


「美咲、今日の戦闘のログを見せてもらえるかしら」


 その言葉に、美咲の背筋が自然と伸びた。


 ここ数日間、恒例になっている行事。

 アリスとの反省会。


 忘れていたわけではない。

 それでも、この時間になると少しだけ緊張する。


 美咲は携帯端末を取り出すと、机の接続部分に繋げた。


 机の中心にホログラムが展開される。


 アリスは紅茶に口をつけながら、それを見つめた。


 アリスの視線が、ログの上を流れていく。


 息苦しい静寂。

 美咲が喉を鳴らす。


 そして、アリスがティーカップを静かにソーサーに置いた。


「そうね。思ったより、上達してるわ」


 アリスの言葉に、美咲の目が輝いた。


「あ、ありがとうございます!」


 アリスは美咲を一瞥すると、ホログラムに視線を戻した。


「武器の理解度。命中精度。次の標的までのタイムロス。悪くない数字よ」


 アリスは、感情のこもっていない淡々とした口調で言った。


 でも、美咲にもだんだんわかってきた。

 これがアリスなのだと。


 そして、アリスは褒めるだけの甘い人ではないということも。


「でも、問題点もあるわ」


 美咲の緩んだ顔が引き締まった。


「お願いします」


「スパイクドローンに攻撃された後、瞬時に目の前のリレードローンを破壊したところまでは、問題ないわ」


 美咲は先程のことを思い返した。


 逃げるように飛んでいった、黒色のドローン。

 そして、待ち伏せしていたかのように、攻撃してきた赤色のドローン。


 美咲にはその二機が連携をとっているように感じた。


 だから、黒色のリレードローンの破壊を優先した。


「確かに、この二機だけ、明らかに挙動に違和感がある。連携を始めていたのでしょうね」


 美咲は小さく何度も頷いた。


「問題はこの後よ。負傷後に、なぜ治療を簡素に済ませて、次の標的に行ったのかしら」


 アリスが美咲を見つめた。


 美咲は少し考え、ゆっくりと口を開いた。


「攻撃を受けた後、バイタルデバイスで状態を確認しました。軽度出血で、行動阻害もありませんでした。だから……大丈夫だと、思いました」


「貴女の中で、ドローンの破壊が、治療より優先順位が上だったわけね」


 あらためて聞かれると、美咲は返答に困った。


 あの時、そこまで考えてはいなかった。

 ただ見て、大丈夫だと納得しただけ。


 美咲が黙っていると、アリスが静かに続けた。


「貴女は自身の状態を確認した。そこは正しい。問題は、その後の優先順位よ」


「……優先順位」


「あの場面で、次のリレードローンの処理が数十秒遅れても、刹那は崩れない。私も援護できた。けれど、貴女が処置を怠って行動阻害が発生すれば、支援役が一人消える」


「……でも、私は動けました」


「動けることと、動き続けていいことは違うわ」


 アリスは冷たく言い切った。


 ソファーに寝そべった刹那が、口を挟んだ。


「焦んなくても、治療の時間ぐらいこっちは余裕だよ。つまり、信用しろってこと」


「そうね。貴女があの場面で優先すべきだったのは、即座に次に行くことではなく、自分の状態を報告し、処置することだった」


「何を切り捨てるのかではなく、何を優先するのか」


「それを常に考えて動きなさい」


 アリスは言い終わると、ティーカップを持ち上げた。


 何を切り捨てるのかではなく、何を優先するのか。


 美咲の中で、その言葉が残った。


 でも、優先するということは、切り捨てること。

 美咲はそう思ってしまう。


 美咲の頭の中で思考が混ざり合う。


 考えたが、答えは出なかった。


 その答えを知るためには、経験が足りない。

 もっとたくさんの経験を積まなければいけない。


 それだけは、確かだった。

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