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第1話 標的

 リヴェラの街は今日も賑やかだった。


 露店の呼び込み。

 電子掲示板の前で、言い合いをする者。

 それを横目に呆れる者。

 誰かの笑い声と、誰かのため息。


 誰もが好き勝手に動いている。


 その全てが混ざり合って、街は今日も生きていた。


 正門を抜けると、喧騒は少しずつ遠ざかった。


 舗装された道はやがて土に変わり、土は草に覆われ、草は深い森へと続いていく。


 木々の向こうには、山の稜線。

 さらにその奥には、かつて街だったものの残骸が、灰色の影を落としていた。


 そこに、人の声はない。


 その静けさの奥で、微かな駆動音が重なっていた。


 羽虫の群れに似た音。

 けれど、それは生き物の羽音ではなく、機械が空気を削る音だった。


 乾いた銃声がその音に混じる。

 そして、金属を裂く音。

 何かが地面に落ちる、重い音。


 美咲の頭上を、灰色のドローンが抜けていった。


「刹那さん、一機そちらに行きました!」


 美咲は叫びながら、銃口をそれに向けた。


 その時、耳に装着したヘッドセットから、声が聞こえてきた。


『美咲、貴女は黒のリレードローンを優先。それ以外は、こちらで処理するわ』


 淡々とした、静かな声。


 アリスの声と同時に、遠くから、低く重い銃声が響いてきた。


 音に遅れて、灰色の丸いドローンが木端微塵に弾け飛ぶ。


 美咲はそれを確認すると、銃口の先を変えた。


 そこには、細長い黒色のドローン。

 それが、空中で固まっているかのように浮いている。


 美咲はゆっくりと照準を合わせて、引き金を引いた。


 乾いた銃声。


 細長いドローンの羽が吹き飛び、フラフラと宙を舞う。


 もう一発。


 目の前のドローンは制御を失ったのか、音を立てて地面に落ちた。


 美咲は、次の標的を探すために、視線を走らせた。


 美咲から少し離れたところに、ドローンの群れが見えた。

 そして、その中央には刹那の姿。


 刹那は、次々とドローンを落としている。


 ハンドガンでドローンの動きを鈍らせ、ナイフで切り落とす。

 一機。

 また一機と、ドローンが落ちていく。


 その動作には、一切の迷いがなかった。


 刹那の側面から、棘の生えた赤色のドローンが突っ込んでいく。


 だが、刹那は見向きもしない。


 遠くで、銃声が響いた。


 赤色のドローンは、刹那のもとへ到達する前に弾け飛んだ。


 美咲は、自分の足が止まっていることに気が付き、武器を握り直した。


 黒色のドローンは、直接こちらを攻撃してこない。

 数も少ない。

 けれども、無視はできない。


 無視をすれば、他のドローンが連携を始める。


 だから、余裕がある美咲がそれを狙う。


 戦闘の前に、美咲はそうアリスから説明されていた。


 美咲は携帯端末を取り出すと、画面に視線を落とした。


【残り時間:06:42】

【同時展開数:18/30】

【リレードローン稼働:1】


 美咲は視線を上げた。


 群れから少し離れた場所に一機、リレードローンが滞空していた。


 距離は遠い。

 この距離で狙っても、当たらない。


 もっと、近づかなければいけない。


 そう思い、美咲はそれに向かって走り始めた。


 ある程度近づいたところで、リレードローンが動き始めた。


 美咲が追いかける。

 ドローンが移動する。


 美咲はドローンを追いかけながら、眉をひそめた。


 このドローンだけ、先程までのドローンと、動きが違う。


 まるで、自分から逃げているみたいに感じた。


 学習している。


 美咲はそう感じた。


 そう考えていた瞬間、追っていたドローンが建物の死角へ消えた。


 急がないと。


 美咲は足を速め、その角へ向かった。


 死角の先は、建物の壁に囲まれた行き止まりの通路だった。


 前方の壁と美咲の間にドローンが浮いている。


 美咲は銃を構え、銃口をドローンに向けた。


 この距離なら、当てられる。


 引き金を絞ったその時、後方から風を切り裂く音が耳に響いた。


 美咲は咄嗟に振り返る。


 一機の赤色のドローンが、美咲めがけて飛んできていた。


 ぶつかる。


 美咲はそのドローンを避けるため、身をかがめた。


 乾いた破裂音。


 赤い機体の側面が開き、針状の破片が散った。


 次の瞬間、美咲の左肩に鋭い痛みが走る。


 細い金属片が数本、肩口の布地を裂いて刺さっていた。


 赤色のドローンは、そのまま美咲の頭上を抜けていく。


 血が滲み、腕を細く伝った。


 美咲が見上げると、赤色のドローンは上空で旋回を始めていた。


 未だに、黒のドローンはその場に留まっている。


 赤色のドローンが刹那ではなく、美咲を狙った。

 そして、逃げるように飛行する黒色のドローン。


 傷ついた肩が、熱を持ち脈打つ。


 考えている時間は、ない。


 美咲は痛みを堪えながら、銃口を向けた。


 狙う先は、黒色のリレードローン。


 リレードローンが、浮上し始めた。


 逃がさない。


 美咲は一歩踏み出し、引き金を引いた。


 連続的な銃声。


 放たれた弾丸の数発が、リレードローンに穴を開けた。


 煙を上げながら、ドローンが墜落していく。


 リレードローンが破壊された途端、上空を旋回していた赤色のドローンが、その動きを止めた。


 そして、刹那のいる方角へ飛んでいった。


 美咲は小さく息を吐くと、肩に触れた。


 細い金属片が数本、肩口に刺さっている。


 深くはない。

 動かせないほどでもない。


 腕のバイタルデバイスに視線を落とす。


【軽度出血】

【行動阻害:なし】


 大丈夫。


 そう判断できるだけの表示だった。


 美咲は金属片を一本ずつ抜くと、包帯を取り出し、肩に雑に巻いた。


 それから、鎮痛剤をひとつ口に運ぶ。


 治したわけじゃない。

 ただ、動けるようにしただけ。


 今は、それでいい。


 次のドローンを見つけないと。


 美咲は、武器からマガジンを抜いて、弾数を確認した。


 まだ余裕はある。


 美咲は小さく頷き、次のドローンを探した。

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