プロローグ 火種
リヴェラ中央区、任務受付広場。
今日もそこは、多くのプレイヤーで賑わっていた。
電子掲示板の前で依頼を選ぶ者。
報酬額を見比べる者。
仲間を探して声を張る者。
任務を終え、疲れた顔で受付へ向かう者。
この街で何かを始めようとするプレイヤーは、たいてい一度ここへ来る。
広場の隣には、一軒の飲食店があった。
食事をするための場所。
休憩するための場所。
そして、噂が勝手に集まってくる場所。
入口近くのテーブルには、端末を片手に飲み物をかき混ぜるプレイヤーたち。
奥の席では、任務帰りらしいパーティーが戦利品を広げている。
カウンターの端では、さっきまで別々の席にいたはずの二人が、同じ依頼票を覗き込んでいた。
食事の匂いよりも、噂の匂いの方が濃い店だった。
「また支援職募集、残ってるな」
誰かが言った。
カウンター上部のホログラムには、短い文字が並んでいる。
【小型エネミー掃討】
【支援職募集】
【初見可】
【報酬三等分】
「そりゃそうだろ。支援職って、報酬の話になると揉めるし」
「でも、いないと事故るぞ」
「上手い支援ならな」
別の席で、乾いた笑いが起きる。
「後ろで回復してるだけで同じ報酬って思われると、まあ荒れるよな」
「逆もあるだろ。支援様がいないとお前ら死んでたって顔するじゃん」
「実際、死んでるやつもいるけどな」
必要とされている。
けれど、歓迎されているとは限らない。
支援職という役割は、このゲームではいつも少しだけ扱いが難しかった。
前に出ない。
自ら敵を倒さない。
派手なログを残さない。
それでも、誰かが倒れる前に回復を入れる。
誰かが逃げる時間を作る。
誰かの失敗を、ぎりぎりでなかったことにする。
その価値を、誰もが同じように見ているわけではない。
「火力職はいいよな。撃ってれば仕事した顔できるんだから」
少し離れた席から、棘のある声が聞こえた。
支援職らしいプレイヤーが、腕を組んで相手を見ている。
「は? 誰のおかげで、あんたらが被弾しなくて済んでると思ってんの?」
返した少女の声も、負けずに鋭かった。
「サポートがあるから、生きてるんだろ」
「じゃあ、ひとりでどうぞ。回復弾と実弾、間違えないようにね」
「あ? 馬鹿にしてんのか」
「ちょ、ちょっと落ち着けって」
二人の間にいた青年が、慌てて声を挟む。
けれど、空気はもう柔らかくならなかった。
近くのテーブルにいたプレイヤーたちは、ちらりとそちらを見るだけで、すぐに自分たちの話へ戻っていく。
珍しいことではない。
誰かが誰かの役割を軽く見る。
誰かが自分の役割を守るために、別の誰かを刺す。
それもまた、このゲームの日常だった。
店の外では、任務受付広場の喧騒が続いている。
新しい依頼が表示される。
誰かが笑う。
誰かが仲間を探す。
誰かが、まだ見ぬ誰かを必要としている。
支援職は、求められている。
けれど、その意味を、誰もが正しく見ているわけではなかった。
リヴェラの街は、今日も騒がしかった。




