第3話 最初の記録
それまでの柔らかい空気が、一瞬で冷たく変わる。
心臓が跳ね、背筋に冷たい汗が伝う。
美咲は、音の方向にゆっくりと視線を向けた。
木の間からそれは現れた。
黒い球体に、蜘蛛のような細い脚。光沢のない機械の皮膚。赤い目。
まるで生きているかのように、それは近づいてくる。
美咲は銃を両手で握り、照準を合わせた。
指が、震える。
冷たい金属の感触が、手のひらに刺さる。
そして、引き金を引いた。
「……えいっ!」
パンッ。
乾いた銃声。
視界が揺れ、腕が痺れる。
予想以上の反動に体が耐えきれず、そのまま尻もちをついた。
黒い鉄の虫はよろめいたが、まだ向かってくる。
美咲は立ち上がる。呼吸を整え、もう一度構えた。
パンッ。
パンッ。
黒い球体の動きが鈍る。
美咲は唾を飲み込み、引き金を引いた。
パンッ。
黒い鉄の虫は脚を折り、地面に崩れ落ちた。しばらく小さく痙攣し、それきり動かなくなる。
美咲はその場に立ち尽くした。手が、まだ震えている。鼓動が速い。耳の奥に、乾いた銃声だけが残っていた。
「……やった」
誰に届くわけでもない声だった。それでも、言わずにはいられなかった。
震える指でログを開いた。
ログ画面の一番上に、短い記録が増えていた。
Misaki. kill → Cancer death
「わたし、ちゃんと撃てた……倒せた……!」
美咲は、その一行を何度も読み直した。




