第36.5話 冷たい少女の夜
煌々と輝く都心の明かりを、分厚い遮光カーテンが遮っている。
アリス・フォン・クロイツフェルトの部屋は、まるで箱庭のように静かだった。
白とグレーを基調にした家具。
無駄のない配置。
指一本分の乱れもないベッドの上。
机の上には、白いティーカップ。
彼女の秩序は、この空間すべてに行き渡っていた。
シャワーの余熱がまだ頬に残っている。
紅茶の湯気は、もうティーカップの縁で揺れているだけだった。
ソファに背を預けながら、アリスは軽く目を閉じた。
今日の《Code:VIR》──例によって騒がしく、時に面倒で、それでいて、わずかに心地よかった。
紅茶よりもほんのり甘く、夜の空気よりもわずかにあたたかい記憶。
「……クラン、ね」
誰に言うでもなく、ぽつりと声が漏れた。
口にした瞬間、脳裏に浮かぶのは、美咲の姿だった。
お人好し。
少し抜けてる。
──でも、芯がある。
アリスは、手元のテーブルに視線を移す。
その上では、VIRの待機画面が静かに灯っていた。
表示されている名前は、「Misaki.」
ゆっくりと、その表示に指先をのせる。
まるで、それが今も何かを語りかけてくれるような気がして。
秒針の音だけが部屋に響く。
アリスは小さく息を吐くと、もう一度目を閉じた。
彼女は思考の海の中で、ただひとり、静かに揺れていた。




