第27話 ようこ──リム──
美咲は街を出て、一直線に教えられた場所まで向かった。
戦闘はしない。
頭の中はアリスのことでいっぱいだった。
森を抜け、草原を抜けると立てかけられた看板が見える。
木でできた簡素な看板。
【ようこ──リム──】
文字はかすれて、ほとんどが読めない。
美咲は一度マップを確認すると、小さく頷いた。
「うん、この先だ」
そして歩みを進めると、すぐに目の前に寂れた町が現れた。
見渡すかぎりの廃墟、雰囲気から誰もこの町に住み着いていないことは明らかだった。
美咲が迷わず町に足を踏み入れた瞬間、手元の端末が小さく鳴り響いた。
画面には赤い警告文。
【PVPVEエリアに侵入】
美咲は歩みを止め、画面を見つめる。
危険なのはわかっている。
でもそれ以上に、今はアリスに会いたい。
その気持ちが、美咲の小さな背中を強く押した。
(あの人も初心者向けって言ってたし、大丈夫)
残りの小さな不安は、自分に言い聞かせて振り払った。
美咲は銃をもう一度強く握りしめて、町の中に入っていった。
町の中は見たままの静けさだった。
家が建ち並び、どれもが廃墟となっている。
時折現れる敵は、フールやキャンサー、視認されなければ、戦闘にすらならない敵ばかり。
ただの一発の銃声すら聞こえない静寂。
その情報が、美咲の歩みを軽くする。
美咲は慎重に廃墟へ入り、内部を散策した。
家の中には、食料や金属片、たまに弾丸が目に入る。
でも、アリスの姿は見つからない。
それを数件繰り返したところで、外から声が聞こえてきた。
美咲は身をかがめて、息を殺した。
声は男女ふたつ。
ゆっくりと2階の窓から顔を覗かせる。
道路を歩いている二人の男女に、美咲は心の中で呟いた。
(さっきの人達だ……!)
美咲は耳を傾けると、女性が話し始める。
「さっきの子、どうなったかなー?」
「今のところ死体も見当たらないし、まだ大丈夫なんじゃね?」
「んー……アリス見つけて、出ていっちゃったかな」
会話の内容に、美咲は思わず声が漏れた。
「こ、こんにちは!」
2人の銃口が即座に美咲に向き、美咲は咄嗟に顔を隠した。
「さっきの子だよねー?」
「は、はい!」
「アリスさんは見つかったー?」
「まだです!」
「そっか……降りてきなよー!」
美咲がもう一度ゆっくりと顔を覗かせると、女性は笑顔で手を振っていた。
2人とも武器は手に持っていなかった。
美咲は急いで階段をおりて、外に向かった。
もしかしたら、一緒に探してくれるのかも。
そんな期待を胸に、美咲はドアノブに手をかけ扉を開けた。
美咲が家から出ると、男性は端末を見ながら横目で美咲を見つめた。
女性は美咲に笑顔を向けたまま、腰のポーチから黄色と黒の玩具じみた軽薄な色合いの銃を取り出した。
そして、赤いポインターが美咲の胴体を捉える。
「……え?」
パンッ。
考えるより先に、美咲の体に激しい痛みと電撃が走る。
「……あ、がっ……」
美咲の体は重力に逆らう術を失い、崩れ落ちる。
自分の体が鉛の塊に変わったかのように重く、地面に叩きつけられても痛みを感じる余裕すらなかった。
倒れたことに気づいたのは、冷たいコンクリートが視界いっぱいに広がった時だった。
女性はゆっくりと美咲に近づくと、目の前にしゃがみ込んだ。
「ほらね、言ったでしょ? あいつに関わると、厄介事に巻き込まれるって」
美咲の耳に届くその声が、ひどく優しく聞こえてしまうのが、なおさら不気味だった。




