第26話 笑顔の忠告
お店を飛び出した美咲は、商店街を抜けるとリヴェラ中央広場で歩みを緩めた。
「勢いで、出てきちゃったけど……アリスさんってどこにいるんだろう」
顔を上げると、目の前を色々なプレイヤーが過ぎ去っていく。
美咲は携帯端末を取り出し、メッセージを表示する。
少しの間、画面を見つめると画面に指を近づけ──止まった。
「頼ってばっかじゃダメだ……」
小さく呟き、端末をポーチにしまう。
そして、また歩き始めた。
「アリスさんが行きそうな場所……」
悩んだ挙句、美咲は任務受付広場で足を止めた。
そこには、受付端末を睨む者、談笑する者、声を張り上げる者、多種多様なプレイヤーで溢れかえっていた。
美咲は背伸びをし、覗き込むようにして周囲を見渡す。
だが、アリスの姿は見当たらない。
「ここには、いないのかな……」
美咲は1度人混みから離れると、今度はプレイヤー1人1人に目を向ける。
そして、視界に入ったのは4人組。
美咲から見ても、全員が高価そうな装備に身を包んでいる。
美咲はその4人に駆け寄って行った。
「あ、あの!」
美咲が声をかけると、4人は驚いたようにお互いの視線を交わした。
「……子供?」
「知り合い?」
「いや」
そして、1番手前にいた男性プレイヤーが肩をすくめ、口を開いた。
「なんの用? くれくれなら、他をあたってくれない?」
くれくれ、という言葉の意味はよくわからなかったけれど、美咲は首をかしげるだけで、すぐに言葉を続けた。
「えっと……銀髪で、青と白の衣装のプレイヤーを探してるんですけど、ご存じありませんか?」
「ん? あーアリスの事か。あいつなら──」
男性が言いかけたところで、隣の女性がすっと手を上げてその言葉を遮った。
それから、美咲に向けてやわらかな笑みを浮かべる。
「その前にひとつ聞きたいんだけど、いいかな?」
「え? あ、はい」
「君は彼女と、どんな関係? 正直に教えて」
友人と言うほど親しくはない。
知り合い。
いや、顔見知り。
それ以上でも、それ以下でもない。
けれど、そう言い切るには少しだけ胸が痛んだ。
「……知り合い、です」
絞り出すように答えた、その瞬間だった。
女性の笑顔から、温度だけがすっと消えた。
女性はわずかにまぶたを開け、目を細めた。
「ふーん。アリスの知り合いねぇ……」
わずかに細められた目が、美咲の顔からつま先までを静かになぞる。
その視線に、美咲は思わず肩を縮こませた。
けれど次の瞬間、女性はまた明るい笑みを浮かべる。
「……わかった! 教えてあげる」
その言葉に、美咲の表情に笑顔が灯る。
「あ、ありがとうございます!」
女性はポケットから端末を取り出すと、軽く操作し、画面を差し出す。
そこにはマップが表示されていた。
美咲はそのマップに見覚えがあった。
ここ最近何度か訪れた場所から、少し歩いた場所──エリア9.2
「彼女最近ここにいるから、街中にいないならここかも」
「初心者マップだし、ひとりでも大丈夫だと思うよ」
「ありがとうございます!」
美咲は勢いよく頭を下げると、振り返り歩き出した。
「あと、もうひとつ!」
女性の呼び掛けに美咲は振り返る。
「彼女、あんまりいい噂聞かないから気をつけてね。何考えてるか、わからないし」
「厄介事に巻き込まれる……かも」
女性の忠告に、美咲は一瞬眉を上げる。
だがすぐに、優しく微笑んだ。
「私は、そうは思いません」
美咲はそう言い切り、振り返った。
そして、早足で歩き始める。
その背中を女性は静かに、冷たい笑顔のまま見つめ続けていた。
「……忠告はしたよ」




