第23話 変わらない朝、変わった私
柊美咲は今日も働いていた。
いつもと同じ時間の電車に乗り、同じ改札をくぐる。
会社の入館証をタッチして、自分のデスクに着席する。
PCを立ち上げ、マグカップに温かい紅茶を注ぐ。
何ひとつ変わらない、日常の始まり。
けれど、美咲自身は、もう少しだけ違っていた。
「……柊さん、最近……明るくなりましたよね」
ふいに、斜め後ろの席の後輩がそう言った。
目はモニターを向いたままだが、確かに声の色が柔らかい。
「え、そうかな……?」
美咲は少し戸惑ったように笑う。
「なんかこう……前より、話しかけやすいっていうか……雰囲気が、柔らかくなったっていうか」
「ほら、前は静かなお姉さんって感じだったじゃないですか、今は……ちょっと抜けてるけど頼れる先輩って感じで」
「え、それはどうなの……」
苦笑する美咲。
だが否定はしなかった。
むしろ、心の奥が少しだけ温かくなる。
数分後、同じフロアの女性社員がすれ違いざまに声をかけてくる。
「柊さん、この前のランチの時より、顔色いいですね〜」
「え、そうですか?」
「恋でも始めました〜?」
からかい混じりに笑われる。
「そ、そんなことないですって!」
美咲は慌てて否定したが──
その瞬間、ふと頭に浮かんだのは、銀髪碧眼の少女。
(……ないないないない)
首をぶんぶんと横に振る。
それを見て「ほんとぉ〜?」とさらにニヤつかれるが、美咲は紅茶を飲むことで話題を切り抜けた。
昼休み。
いつものようにコンビニに向かおうとして、立ち止まる。
スマホの通知には、あのゲームからのメッセージ。
──ログインボーナスのお知らせ。
画面を見つめる。
ほんの数週間前まで、一人でいるための逃げ場だったはずの世界が、今では誰かと繋がるための場所に変わっていた。
──たったひとつの帽子を目指した、あの小さな冒険。
そこで出会った優しさと強さ。
そして、一緒にいてくれる人。
その記憶が、美咲の中で静かに息づいていた。
「……午後も、がんばろう」
彼女は独り言のように呟き、スマホをポケットにしまった。
いつもの昼下がり。
けれどその背中には、確かに灯った、小さな光があった。
──それはまだ、誰にもはっきりとは見えないけれど。
きっと、これからの彼女を照らしてくれる。




