第20話 作戦通りで
夜の街。
ネオンがきらめく受付広場は、プレイヤーであふれ返っていた。
その間を、刹那が軽やかに抜けていく。
後ろを追う美咲は、「すみません、通ります」と声をかけながら、人波を縫った。
静かに光る受付端末の前で、刹那が立ち止まる。
ようやく追いついた美咲も、小さく息を吐いて画面へ視線を送った。
画面には、いくつかの討伐依頼が並んでいる。
「んー、ちまちまやるのは、性にあわないし……」
「かといって、危なすぎるのはなぁ」
「6000……6000……」
刹那はブツブツ呟き、依頼の一覧を睨みつけている。
「おっ、これいいじゃん」
そう言い、刹那が受付端末に触れると、美咲の端末が鳴る。
【tortoise一体の討滅 報酬:10000キャッシュ】
「トータス……リクガメ?」
美咲が画面の文字を読み上げると、刹那は両眉を上げた。
「へぇ……」
「どうかしました?」
「いや、読めるんだなって」
驚いたように答える刹那を横目に、美咲は口を尖らせる。
刹那は、そんな美咲を気にもとめず歩き始めた。
「……これぐらいわかりますよ」
刹那の背中に小さく呟き、美咲はその後を追った。
街を出た2人は、街の反対に向かうため城壁沿いを歩いていく。
銃を握りしめ、慎重に歩く美咲とは裏腹に、刹那の足取りは軽い。
「あの、刹那さん。トータスってどんな敵なんですか?」
美咲の問いかけに、刹那が顔を向ける。
「あーそうだな、一応説明しておくか」
「名前通り、亀みたいな見た目のやつだな。硬いけど動きは遅いから、たいした敵じゃないかな」
「私が前衛でヘイト……えっと、なんて言うんだ、注目? を集めるから、美咲は適当に撃ってればいいぞ」
美咲は刹那を見つめ、次の言葉を待った。
「……以上ですか?」
「あー、注意点としては範囲の爆風攻撃だけど、距離感さえ間違えなければ問題なし」
美咲の顔が、徐々に傾いていく。
「……つまり?」
「攻撃はくらうな。攻撃しろ」
「以上だ」
刹那はそれだけ言うと、もう説明は終わったとばかりに前を向いた。
美咲はそんな刹那の後ろ姿を見つめ、思わず笑みがこぼれた。
それからしばらく歩き、森を抜ける。
草木に囲まれた、開けた草原。
そこに、平屋程度のドーム状の建築物が佇んでいた。
2人は立ち止まり、美咲が刹那に顔を向けた。
「この中ですか?」
美咲の問いかけに、刹那は首を横に振った。
「いや、こいつ」
「……え?」
美咲が呟くと同時に、地響きが地面を伝い、目の前のドームが地面から浮き始めた。
美咲は呆然とそれを見上げた。
口を開けたまま、巨体が立ち上がっていくのを追う。
気づけば、数十メートルはあろうかという要塞が、目の前にそびえていた。
そして、トータスは正面の空洞から長い鉄の首をのぞかせ、ゆっくりと辺りを見渡す。
2人と視線が交わった。
刹那は腰のポーチからナイフを1本抜き取ると、逆手に構える。
その切っ先が、じわりと赤く発光する。
「そんじゃ、作戦通りで」
刹那がトータス目掛けて走り出した。
「えっ、え?」
美咲は慌てて、刹那の背中に声を投げかける。
「さ、作戦って何ですか!?」
「適当に撃っとけ! 範囲だけ気をつけろよ!」
「は、範囲って……どの辺なんですかー!?」
小さくなる刹那の背中に、悲痛な叫び声が響き渡った。




