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第19話 一緒に、行ってらっしゃい

 次の日、美咲は街の広場に立っていた。


 目の前を多くのプレイヤーが往来する。


 それを眺め、時折思い出したかのように手元の端末を見つめた。


 画面には、刹那からのメッセージが表示されている。


『昨日話した通り、21時から一緒に行くぞ』


 時計はまだ20時半。


 待ち合わせには少し早すぎるけれど、美咲は既にその場に立っていた。


 やがて、20時50分。


 黒髪のロングヘアが、広場の端に見えた。


 美咲は笑顔で手を振り、それに気づいた刹那が歩み寄る。


「おーす。早いじゃん」


 刹那が、やや驚いたように声をかけてくる。


「はいっ! 楽しみで……19時半から待ってました!」


「……は?」


 美咲の返事に、刹那の顔が一瞬ひきつる。


 美咲が首を傾げると、刹那は「いや、なんでもない」とだけ言って、受付に向かおうとした。


 その背中に、美咲が声をかけた。


「あのっ!」


 刹那が振り返る。


「紹介したい人がいるんです……! 私を、初日から見守ってくれている、お友達を……」


 少し照れながら、でも真っ直ぐにそう言った。


「親への挨拶かよ」


 刹那は呆れたように言って、それでも足を止めた。


 ふたりは並んで歩き、街角にある雑貨屋へと向かった。


 目の前に、にじいろパウダーが見えたところで、刹那が急に立ち止まる。


「あー……やっぱ、私はいいわ。美咲だけで行って紹介してきて」


「えっ……なんでですか?」


 刹那は視線を逸らす。


 何か言いかけて、やめた。


 それから、単調な声で答えた。


「……なんでもいいだろ」


 美咲は目を丸くし、徐々に俯いていく。


「そうですか……」


 俯く美咲を、刹那が横目で見つめる。


 美咲が1歩踏み出した時、刹那がため息混じりに口を開いた。


「……わかったよ、行くよ」


「ほんとですか!?」


 嬉しそうに顔を上げ、店へ入っていく美咲。


 その背を見て、刹那は大きく息を吐いた。


「やだなぁ。あの人、苦手なんだよ……」


「マリアさーん! 刹那さん連れてきました!」


 扉を開けながら、美咲が元気よく声をかける。


 刹那は、その後ろからそろりと入ってきた。


「あら〜みさきちゃん、こんばんは〜」


 おっとりとした、やさしい声が響く。


 刹那は軽く頭を下げて「どうも……」とだけ言った。


 マリアの視線が刹那に止まる。


 マリアはゆっくり微笑んだ。


「あら〜後ろの子は……私より先に、みさきちゃんとご飯に行った刹那ちゃんじゃな〜い」


 刹那はマリアの言葉に、わずかに眉をひそめる。


「……えらい、含みのある言い方ですね」


「そうかしら〜? いつも通りよ〜」


 美咲は首を傾げ、2人に視線を送った。


「え、えっと……刹那さんもマリアさんの事、ご存知だったんですね」


「仲良しさんよねぇ」


 マリアが刹那に顔を向ける。


「まあ……」


 視線を逸らす刹那の表情は、どこか照れくさそうに感じた。


「それで、今日は2人で出かけるのかしら〜?」


「はい! 刹那さんが手伝ってくれるんです!」


 マリアは一瞬目を見開き、半目で刹那を見つめる。


「あらあら〜。珍しい事もあるものね〜」


「……そうなんですか?」


 視線を逸らした刹那の顔を、美咲が覗き込んだ。


「うっさいな、さっさと準備してこい」


「す、すみません!」


 美咲は慌てて、店の奥に走っていった。


 残されたふたりの間に、少しだけ静かな時間が流れた。


 そして、マリアが口を開く。


「ありがとうね、刹那ちゃん。あの子を守ってくれて。アリスちゃんにも、お礼言っておいてね」


「……はい」


「それと──」


 一瞬で、マリアの声のトーンが変わる。


「あの子を泣かせたら、許さないから」


 その声は、静かで、冷たかった。


 刹那は肩をすくめると、柔らかい口調で答えた。


「大丈夫ですよ。……あいつ、根性はありますから」


「ふふふ。珍しく気に入ってるみたいねぇ」


「……どうでしょうね」


 刹那はまぶたを閉じて、ほんの少しだけ笑った。


「刹那さんっ! 準備できました!」


 美咲の声が店の奥から聞こえる。


「じゃあ、行ってきます」


「……行ってらっしゃい。みさきちゃんを、よろしくね」


 マリアが、ふたりを見送る。


 その顔は、やわらかく、温かかった。

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