第18話 罰として──
美咲は刹那と分かれると、真っ先に、マリアのいる《にじいろパウダー》へ向かった。
今日出会った、二人の話をするために。
「マリアさんっ!」
その声は、扉を開けるよりも先に響いていた。
駆け足で店に飛び込んだ美咲は、真っ先にカウンターの奥へと視線を向けた。
「……あら、みさきちゃん。帰ったのね〜」
マリアは、いつものように優しく、ゆったりとした口調で応える。
けれど、美咲の顔はすでに、何かを伝えたくてうずうずしている。
「今日っ、すごい人たちと出会ったんです!」
まるで小学生が遠足から帰ってきたみたいに、早口で語る美咲。
アリスと刹那との出会い、命を救ってくれた瞬間、月の厨房での出来事。
あれも、これも、ぜんぶ。
まるで宝物のように言葉を重ねた。
マリアは「うんうん」と相槌を打ちながら聞いてくれる。
時折、目を細めて微笑みながら。
「へ〜、刹那ちゃんとアリスちゃんと知り合いになったのね」
「知ってるんですか?」
「ええ、それなりに」
美咲が驚いていると、マリアはにっこり笑って続けた。
「今度紹介しようと思ってたけど、手間が省けてよかったわ。でもね──」
そこで、マリアの声色が変わった。
それはいつもの、のんびりした声音じゃない。
静かに、けれど確かな叱責のトーン。
マリアの視線は、未だ治りきっていない美咲の左腕に向く。
「……一人で、危ない場所に行ったのは感心しないわ」
美咲の表情が、少しずつしぼんでいく。
「もしアリスちゃんと刹那ちゃんが来なかったら、どうするつもりだったの? ……そもそも、私に一度相談するべきじゃなかった?」
「……ごめんなさい」
美咲は小さく俯いた。
「私は、信用ないかしら?」
その一言が、胸にずしんと響いた。
「ち、違います! そんなつもりじゃ……!」
「じゃあ、慎重になりなさい。ゲームごときと思うかもしれないけど、あなたにとって大事な場所なんでしょう?」
マリアの声は、どこか寂しそうに聞こえた。
「……私は戦闘はだめだから。何かあっても、助けに行けない」
「だから、そうならないようにだけ、約束して?」
美咲は顔を上げ、マリアを見つめる。
そして、小さく頷いた。
「はい……」
するとマリアの口調が、またいつもの調子に戻った。
「それとねぇ? 私より先にふたりと月の厨房に行ったのは、許せないわね〜?」
「そ、それは! 成り行きで!」
「い〜え。成り行きでもアウトです〜」
「だから、罰として──」
マリアは口元を吊り上げ、携帯端末を取り出した。
「私と……」
「お友達になってもらいま~す」
「えっ?」
美咲の携帯端末が小さく電子音を鳴らす。
戸惑いながらも、美咲は端末を取り出し、画面を見た。
申請が来ていた。
差出人の名前は──
MARIA
「言い出さなかったから、ゲームで知り合い作るのが好きじゃないのかと思ってたけど……勘違いだったみたいねぇ」
そう言って笑うマリアの瞳は、優しくて、あったかくて。
初日から美咲を見守ってくれていたことが、今さらのように心に染みてきた。
「……これからも、よろしくね?」
画面に表示されたその名前を見て、思わず涙が浮かびそうになった。
けれど、今の美咲は──泣かない。
にっこりと、微笑んだ。
「……はいっ!」




