↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
201/214

第47話 攻略開始

 《Zorn》の赤い瞳が、五人を捉えた。


 ロックが盾を構え、マシンガンの引き金を引く。


 連続した発砲音が響き、巨体の正面に火花が散った。


 ほかの四人は、まだ撃たない。


 《Zorn》が頭を下げた。


 脚が路面を蹴る。


 美咲は思わず息を詰めた。


 あの巨体が、真っ直ぐロックへ向かっていく。


 ロックは射撃を止めた。


 盾を前に出し、身体を横へずらす。


 避けきれていない。


 そう思った瞬間、黒い外殻が盾に触れた。


 金属を擦る音。


 斜めに構えられた盾の表面を、外殻が滑っていく。


 ロックの身体が押された。


 踏ん張った靴底が路面を擦り、巨漢が横へずれる。


 けれども、倒れなかった。


 《Zorn》が脇を通り過ぎると、ロックは一歩踏み直した。


『……重てぇな』


 低い声と共に、銃口が巨体を追った。


 減速した《Zorn》の外殻に、再び弾丸が当たる。


 巨体が振り返った。


 赤い瞳は、ロックを見ていた。


「落ち着けよ。シミュレーションだっての」


 背後から刹那の声がした。


「食らっても痛みはないし、安全だよ」


「それは、そうなんですけど……」


 美咲は詰めていた息を吐いた。


 ガラスの向こうでは、《Zorn》が再び走り始めていた。


 ロックが盾の角度を変える。


 今度も、巨体は盾を擦って通り過ぎた。


 押されながらも足を踏み直し、マシンガンを向け直す。


 クルツはショットガンを手に、その様子を見ていた。


 アロマも、イオも、セラも。


「でも、なんで皆さんは見てるだけなんですか?」


「おそらく、前提条件の確認よ」


 端末から顔を上げたアリスが答えた。


「彼が受けきれないなら、根本から考え直さなければいけない」


 美咲は、盾を構えたロックへ視線を戻した。


 また、《Zorn》が向かってくる。


 ぶつかる直前、ロックの足が動いた。


 盾に触れた巨体が、その脇を抜けていく。


 踏み直す足も、銃を向け直す動きも、先ほどと変わらなかった。


 美咲は盾を持つ腕を見た。


 下がっていない。


 《Zorn》が戻ってきても、ロックは同じように盾を構えた。


 外殻が擦り抜ける。


 巨体が通り過ぎた先で、また火花が散った。


「十分だ。攻撃開始」


 サジが告げた。


 四つの銃口が上がる。


 銃声が重なった。


 クルツが側面へ回り込み、ショットガンを撃ち込む。


 少し離れたアロマとセラも、それぞれ射撃を始めた。


 イオの一発が、胸部の外殻を叩く。


 それでも、《Zorn》の瞳はロックを追っていた。


 ロックが突進を流す。


 ほかの四人はその進路を空け、通過した巨体へ銃口を向ける。


 《Zorn》が振り返る頃には、もうそれぞれの位置へ移っていた。


 同じ動きが、何度か繰り返された。


 盾を構え直したロックが、深く息を吐く。


 その背中に、セラの回復弾が当たった。


 ロックは振り返らずに銃を構えた。


 セラもすぐにハンドガンを収め、持ち替えた武器を《Zorn》へ向けた。


 美咲は、少しずつ肩の力が抜けていくのを感じた。


 突進の速さは変わらない。


 盾に触れるたび、ロックの身体は押される。


 それでも、五人の動きは崩れなかった。


 《Zorn》がロックの脇を抜け、向きを変えた。


 左右非対称の角が、細かく震え始める。


『全員、射撃停止』


 アロマの声。


 銃声が途切れた。


 ロックが銃口を下げ、盾を持ったまま後ろへ下がる。


 クルツも巨体から距離を取った。


「離れるんですか?」


 美咲が尋ねると、刹那は頷いた。


「近いと吹っ飛ばされる。私もそれで地面に叩きつけられた」


 美咲はガラスの向こうを見た。


 ロックがもう一歩下がる。


 《Zorn》が頭を持ち上げた。


 ──轟音。


 巨体の周囲を衝撃が走り、伝わった振動が目の前のガラスを大きく揺らした。


 つい先ほどまでロックがいた場所で、瓦礫が弾け飛び、粉塵が舞い上がる。


 五人の動きが、一斉に鈍った。


 セラが片手で頭を押さえる。


 アロマは顔をしかめ、銃を持つ手に力を込めていた。


 ロックは盾を構えたまま、表情を変えない。


 一番遠くにいるイオは、ライフルを持った姿勢で静止していた。


 誰も、しゃがみ込まない。


 《Zorn》の顔が動いた。


 ロックから逸れた赤い瞳が、周囲へ向く。


 そのときには、クルツが走り始めていた。


 ほかの四人が構え直すよりも早く、巨体へ迫る。


 美咲は、その姿を目で追った。


 クルツが身を低くする。


 《Zorn》の脚の間へ滑り込み、ショットガンを撃った。


 続けて、もう一発。


 腹の下で火花が散る。


 反対側へ抜けたクルツを、赤い瞳が追った。


 巨体が旋回する。


 その間にも、クルツは距離を離していた。


 《Zorn》が路面を蹴る。


 クルツは振り返り、迫る巨体を引きつけた。


 そして、大きく横へ跳ぶ。


 突進が空を切る。


 クルツは着地と共に身体をひねり、通り過ぎる外殻へ一発撃ち込んだ。


 その向こうで、ロックが盾を構え直していた。


 マシンガンの銃口が上がる。


 連続した発砲音。


 クルツは引き金から指を外し、巨体から距離を取った。


 《Zorn》が向きを変える。


 ロックへ。


『攻撃再開』


 アロマの指示に、銃声が重なった。


 セラが撃った回復弾を受けながら、ロックが前に出る。


 クルツが側面へ回った。


 アロマはその動きに合わせて位置を変え、離れた場所からイオの銃声が響く。


 また、ロックの盾を巨体が擦り抜けた。


「……綺麗」


 気づけば、声が漏れていた。


 クルツを見ていたはずだった。


 けれども、いつの間にかロックを追い、その背中へ撃つセラを見ていた。


 誰かが動くと、次の誰かがもう動いている。


 受け渡されていく巨体の視線を、五人がそれぞれの場所から追っていた。


「すげーな」


 隣から、刹那の声がした。


 美咲は顔を向けた。


 刹那はガラスの向こうを見つめていた。


 その奥で、アリスも顔を上げている。


 さっきまで手元の端末を見ていた彼女の碧眼が、真っ直ぐ五人へ向けられていた。


 美咲も、ガラスの向こうへ視線を戻した。


 戦闘は続いていた。


 時折、サジが口を挟む。


 ロックが位置を変え、アロマが指示を出す。


 五人は動きで応じていた。


 再び角が震えたとき、ロックは《Zorn》から離れた場所にいた。


 射撃が止まる。


 今度は盾を手に、巨体へ近づいていった。


 距離を見計らい、足を止めた。


 轟音が響いた。


 クルツが動き、ロックが引き継ぐ。


 また、五人の射撃が始まった。


 この五人なら。


 美咲は、外殻に散る火花を見つめた。


 このまま、倒しきれるんじゃないだろうか。


 胸を高鳴らせ、サジの方を振り返る。


 けれども、その表情は変わっていなかった。


 隣のハルも端末を見つめたまま、わずかに眉を寄せていた。


 美咲は、ホログラムの端へ視線を移した。


 経過時間が表示されている。


 三十分を、超えていた。


 ガラスの向こうから、また盾を擦る音がした。


 《Zorn》は動き続けている。


 何度も弾丸が当たった胸部にも、コアは見えなかった。


 美咲は五人を見た。


 誰も倒れていない。


 突進は流せているし、音の後も立て直せている。


 なのに、このシミュレーションは、いつ終わるのだろう。


「足りんな」


 サジが口を開いた。


 ハルが頷き、端末を操作する。


 ホログラムの表示が切り替わった。


「この時点でコアの露出がないとなると、編成を組み直す必要があるかもしれないですね」


「編成を変える気はない」


 サジはガラスの向こうを見た。


「それよりも、射撃を止めている時間が長い」


 五人の銃口から、また火が噴いた。


「安定はしている。だが、このままでは火力が足りん」


 美咲は、盾を構え直すロックを見つめた。


 先ほど見惚れていた五人の動きは、今も変わらない。


 それでも、届かないのだ。


 サジがアリスへ顔を向けた。


「アリス。何か手はあるか」


 アリスは、五人を見ていた。


 少し間を置き、サジへ視線を移す。


「あります。ですが、推奨はしません」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。