↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
200/213

第46話 それぞれの持ち場

 刹那が待機室の扉に手をかけたとき、来た道から足音が聞こえた。


 三人が顔を向けると、サジがこちらへ歩いてきていた。


 白い髪に、白い髭。美咲はその姿を認め、軽く頭を下げた。


「こんばんは」


「お邪魔してます」


 刹那も続ける。


「ああ」


 短く返したサジの視線が、セラへ向いた。


 隣にいたセラが、わずかに肩を縮めた。


「今日は不参加だと聞いていたが、なんの気まぐれだ?」


「あの、えっと……」


 セラは口を開いたが、その先が続かなかった。


 サジは刹那と美咲へ順に視線を移した。


 刹那が扉の前を空けると、サジはそこに手をかけた。


「……気持ちの整理はできたんだな」


「はい」


 今度は、セラの返事がすぐに聞こえた。


「あまり、周囲に迷惑をかけるな」


「すみません」


 セラが頭を下げる。


 サジは少しの間、その姿を見ていた。


「行動で挽回しろ」


 それだけ言うと、扉を開けて中へ入っていった。


 セラが顔を上げ、胸元に手を添えて息を吐く。


 刹那がサジの背中を見ながら呟いた。


「見た目がいかついぶん、アリスより怖いよな」


「ちょっ。声が大きい……!」


 セラが慌てて口元に指を添えた。


 美咲は刹那を見上げる。


「刹那さん……思ったことをすぐ口にするの、悪い癖だと思いますよ」


 刹那はこちらを見て小さく肩をすくめると、部屋に入っていった。


 美咲も、その後に続いた。


 サジのもとには、すでにハルが歩み寄っていた。


 携帯端末を見せながら、ホログラムを指さしている。


「おい。セラ!」


 クルツの声がした。


 メンバーの集まっている方を見ると、ことねがこちらへ手招きしていた。


 セラが美咲と刹那へ顔を向ける。


「頑張ってくださいね」


 美咲が声をかけると、セラは頷いた。


 そして、メンバーのもとへ駆け寄っていった。


「結局やんのかよ。優柔不断なやつだな」


「クルツにだけは、言われたくないんだけど」


「優柔不断というか、適当かしら」


 隣にいたアロマが付け加えた。


「酷くね?」


 クルツがぼやく。


 セラはその顔を見て、ことねと一緒に笑っていた。


 誰も、何を話してきたのかとは聞かなかった。


 美咲は刹那と顔を見合わせ、お互いに口元を緩めた。


 壁際の長椅子には、アリスが腰を下ろしていた。


 二人が近づくと、アリスは手元の端末から顔を上げた。


「お疲れ様」


「ありがとうございました」


 アリスは美咲を少しの間見つめ、視線を端末へ戻した。


「で、調整は終わったんか?」


 刹那がアリスの隣に腰を下ろし、背もたれへ身体を預けた。


「ある程度は」


「ある程度?」


 アリスは、ホログラムの前で話すサジとハルを横目に見た。


「貴女のログからだけじゃ、分からないことが多すぎるわ。完璧には程遠い」


「でも、アリスさんが納得する程度には、形になったんですよね?」


「そもそも、彼が制作したシミュレーションには改善点がほぼなかった。私は不安要素を指摘しただけよ」


 美咲は刹那と顔を見合わせた。


 刹那も首を傾げている。


「不安要素って──」


「アリス。一点聞きたいことがある」


 聞き終わる前に、サジの声がした。


「なんでしょうか」


 アリスが立ち上がろうとする。


「そのままでいい」


 サジは片手で制し、こちらへ歩いてきた。


「音の後、ヘイトテーブルが初期化されている理由はなんだ?」


「仮説です。初めて刹那が《Zorn》と対面したとき、彼女は援護射撃に救われています」


 サジが頷いた。


「その際、《Zorn》の挙動に違和感がありました」


 美咲は刹那を見た。


 刹那は首を横に振った。


「距離はおおよそ四百メートル。武器種はおそらくスナイパーライフル。対物ライフルだとしても、あの巨体なら、援護射撃を無視し刹那に向かうこともできたはずです」


 サジがホログラムへ視線を送った。


「つまり、ヘイトが援護射撃者に移ったのではないか、そう言いたいのか?」


「その可能性を考えました。連続して攻撃を加えれば、移ることはあります。ですが、たった数発で奪い取ることは滅多にありません」


「脚を一本切り落としていたな」


「その前も、何回か切りつけてますよ」


 刹那が答えた。


「そのダメージが、たった数発に劣っていた可能性は?」


「ゼロじゃないですけど、ほぼ考えられないですかね」


 サジの視線が、アリスへ戻った。


「刹那への追跡が途切れたのは、あの音の後です。単に射撃で動きを阻まれただけかもしれません。ですが、それまで蓄積したヘイトが失われたとすれば、数発の援護射撃で標的が変わった可能性にも説明がつきます」


 美咲は、先ほど見たシミュレーションを思い返した。


 轟音の後、刹那から離れ、銃を構えたアリスへ走っていった巨体。


 そして、誰もいない場所へ向かっていった姿。


「ログから、そこまで分かるものなんですか?」


「標的までは分からないわ。だから、仮説よ」


 アリスは美咲に答えると、サジへ向き直った。


「実際には初期化されないとしても、備えておくに越したことはありません。不測の事態は避けるべきかと考えました」


 サジはしばらく黙っていたが、やがて頷いた。


「納得した。助かる」


「いえ」


 アリスは短く答えた。


 サジはホログラムの前へ戻り、メンバーを見渡した。


「ロック、クルツ、アロマ、イオ、セラ。集まれ」


 呼ばれた五人が、サジのもとへ集まった。


 美咲も長椅子へ腰を下ろす。


 サジがホログラムに映る《Zorn》を指した。


「基本はロックがヘイトを管理する。突進を受け止めようとはするな。回避しながら引きつけろ」


 ロックが頷いた。


「クルツは近距離から攻撃。ロックのフォローに回れ。アロマは中距離で全体を見ろ。現場の指示は任せる」


「分かったわ」


「イオは狙撃しながらコアを探せ。セラは攻撃を加えつつ、全員の消耗を見ろ。特に前の二人だ」


 イオが頷き、セラが「はい」と返した。


「被弾してからでは間に合わん。呼吸と足取りを見て、動きが鈍る前に回復弾を入れろ」


 美咲は、セラへ視線を向けた。


 セラはサジを見たまま、もう一度頷いていた。


「角の振動を確認したら、即報告。アロマの指示で射撃を止め、音に備えろ。誰かが先に気づいた場合も、遠慮せず声を出せ」


「音の前に止めるんすか?」


 クルツが尋ねた。


「鳴る直前まで撃っていれば、音の後に弾が当たる。ヘイトが初期化されるなら、動けないうちにそいつへ向かう可能性がある」


 クルツはホログラムへ顔を向け、頷いた。


「音の後は、お前が引きつけろ」


「俺っすね」


「状態異常からの復帰は、お前が一番早い。まずはお前が取れ。ロックが復帰したら引き渡せ」


「了解っす」


「ほかは勝手に攻撃を再開するな。二人の状況を見て、アロマが判断しろ」


「ええ」


 異論は出なかった。


 クルツが五人の輪から顔を覗かせ、ことねを見た。


 得意げに上がった口元を見て、ことねが呆れたように顔をしかめる。


 刹那が隣で、小さく鼻を鳴らした。


「すぐに始めるぞ」


 サジの言葉を皮切りに、五人が動き始めた。


 ハルが携帯端末を操作し、シミュレーションルームへ続く扉を開ける。


 ロックたちが、その向こうへ入っていった。


 美咲は長椅子から立ち上がり、ガラス張りの壁に近づいた。


 白い空間に、道路が伸びていく。


 その両脇に建物が立ち並び、見覚えのある街並みが形になった。


 五人のいる場所から対角の位置に、巨大な影が現れた。


 焦げた鉄のような外殻。左右非対称の角。


 《Zorn》の瞳には光がなく、頭を下げたまま動かなかった。


 クルツが真っ先に駆け寄っていく。


 巨体の前で足を止め、顔を上げた。


『目の前に来るとでけぇなぁ』


 ホログラムから、クルツの声が聞こえた。


 残る四人も近づき、それぞれに《Zorn》を見上げる。


 イオが、その胸の辺りを指した。


『コアがあるとすれば、この辺りか?』


『ほかの大型の傾向に当てはめると、イオさんが正しいですけど』


 セラが答えながら、《Zorn》の周囲を歩き始めた。


『どうでしょう。実際に見ていないから、なんとも言えないわね』


 アロマも巨体を見上げたまま、首を傾げる。


『コアの予想箇所はどう設定している?』


 イオの問いに、ハルが端末から顔を上げた。


「傾向から、左胸部です」


 ハルの言葉に、イオがその位置へ視線を向けた。


 ロックが《Zorn》から離れ、ドラム式の弾倉がついたマシンガンを持ち直す。


 戻ってきたセラへ顔を向けた。


『距離感はこの辺でいいか?』


『好きにしてもらっていいですよ。私が合わせますので』


 セラはロックとクルツの位置を見比べ、少し横へ移動した。


『まっ、考えるのは後にして、一回やってから考えましょうよ』


 クルツがショットガンを手に言う。


 四人が頷いた。


 ロックが《Zorn》の正面に立つ。


 クルツはそこから巨体へ一歩踏み込んだ位置で、横へずれた。


 セラは二人を見渡せる位置へ。


 アロマとイオも、それぞれ距離を取っていく。


 五人の動きが止まった。


 美咲の隣で、刹那もガラスの向こうを眺めていた。


 振り返ると、アリスは長椅子に座ったまま、端末へ視線を落としている。


 サジがハルへ頷いた。


「始めますね」


 ハルの言葉と同時に、《Zorn》は瞳を赤く燃え上がらせ、顔を持ち上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。