プロローグ あと一つ
『作戦終了。全員、規定のルートにて帰還』
無機質な音声を最後に、荒廃した都市から人の気配が消えていった。
人はおろか、動物すら寄りつかない。
徘徊する機械生命体だけが支配する場所──エリア41。
崩れた建物の陰に、一機のアンドロイドが横たわっていた。
身体の各所は大きく損傷し、すでに動く様子はない。
しばらくして、瓦礫の隙間から小さな影が現れた。
一体、また一体と数を増やし、倒れたアンドロイドを取り囲んでいく。
そのうちの一体が、アンドロイドの腕へ硬い口器を突き立てた。
外殻が内側へひしゃげ、砕けた金属片が瓦礫の上へ散る。
それを合図に、ほかの機械生命体もアンドロイドへ群がった。
装甲を引き剥がし、露出した配線を引きちぎる。
内部から取り出した部品を口器へ運び、細かく噛み砕いていく。
その姿は、獲物へ群がる獣と何も変わらなかった。
誰もいなくなった都市には、金属を噛み砕く乾いた音だけが響き続けた。
────────
クラン《ARCADIA》の仮拠点。
リビングに置かれた白いテーブルを、美咲、ナナ、れんの三人が囲んでいた。
三つのカップから、ゆっくりと湯気が立ち昇っている。
その中央には、筒状の機械が置かれていた。
ナナとれんに協力してもらいながら製作を続けてきた、パルスシールド。
外装も内部機構も組み上がり、本体側面には、最後の部品を収めるためのスロットが一つだけ空いている。
もう少しで完成する。
そのはずなのに、れんは先ほどからタブレット端末の画面を指で叩きながら、難しい顔をしていた。
「何、悩んでんのよ」
向かいに座るナナが、呆れたように問いかける。
「いやぁ……最後の素材なんだけどさ」
「だから、それをはっきり言いなよ」
れんは小さく息を吐くと、持っていたタブレット端末をパルスシールドの手前へ置いた。
ナナと美咲が、同時に画面を覗き込む。
表示されている素材は、一つだけ。
【位相安定制御核】
見慣れない名称の下に、主な入手場所が記載されていた。
──エリア41。
美咲には、その場所の何が問題なのか分からなかった。
顔を上げると、目の前でナナの表情が露骨に歪んでいる。
「エリア41!? いやいやいや、ムリムリ!」
普段のナナからは想像もできないほど、情けない声だった。
「そんなに大変な場所なんですか?」
美咲が小首を傾げると、ナナが口ごもる。
「大変っていうか……高難易度エリア。出てくる敵が普通に強いし、数も多いのよ。あとフィールドが不気味」
ナナは画面に表示された文字を見るだけで嫌そうに首を振った。
「私たち三人で行けないとは言わないけど……素材一個のために行くには、危険すぎ」
れんも、その意見に同意するように頷いた。
「帰ってこられたとしても、装備の修理代とか、治療代で赤字になりますね」
「でも、これがないと完成じゃないんですよね?」
「シールド自体はもう動くんだけど、出力が安定しなくて。あとはこの安定器さえあれば完成なんだけど……」
美咲は、ほとんど完成しているパルスシールドへ視線を移した。
あと一つ。
二ヶ月かけて三人で作ってきたものを、きちんと完成させたい。
「刹那さんやアリスなら、一人でも行けると思うけど……」
ナナの呟きに、美咲は顔を上げた。
少しだけ考えてから、空いたスロットへ指先で触れる。
「……刹那さんに、聞いてみます」




