第13話 あの時の少女
金策を始めて、数日が過ぎた。
ヒールハーブとスウィートミントを見分けるのに迷うことは、もうない。
フールを見つければ、距離を取り、狙いを定める前に体が動く。
クラフトも失敗しなくなった。
回復アイテムの出来も、最初とは比べ物にならない。
「所持金、5万3千……!」
思わず呟いてしまうほど、その数字は誇らしかった。
残り1万を切ってからは、帽子のためというより、数字が増えていくのが楽しくなっていた。
「楽しそうね〜?」
店のカウンター越しに、マリアが話しかけてきた。
手にはおなじみのミントティー、美咲の分にはクッキーが添えてある。
「はい! 効率もだいぶ上がってきましたし、レベルもちょっとだけ上がって……楽しいです!」
クッキーを片手に、美咲は元気に答える。
「ふふふ、初日に比べて、顔つきが変わったもの〜」
マリアは、口元に手を添え柔らかく微笑む。
「あと一息、行ってきます!」
椅子から立ち上がった美咲は、元気よく出口へ向かう。
「気をつけるのよ〜。調子に乗るのも成長の一部だけど〜」
マリアはそう言って、カップを口に運んだ。
任務受付場。
そこに並ぶ依頼の中から、美咲はひとつを選び取った。
【Typ:αアタックフォルム×6 討滅:報酬4千キャッシュ】
美咲は端末を操作し、Typ:αの情報を開く。
そこには行動パターンやコアの位置などが、事細かく記されている。
──いける。
美咲は端末でクエストを受け取ると、力強く頷いた。
一度装備を確認し、街を出ようとしたその瞬間。
背後から、冷たい声が飛んできた。
「……貴女、そのクエストにその装備で行く気?」
まるで、氷の粒が風に乗って飛んできたような声だった。
感情のない、けれど異様に整った──綺麗すぎる音。
美咲は振り返る。
そこにいたのは、銀髪碧眼の少女。
その顔立ちは、まるで西洋人形のように整っていて、表情は一切の感情を感じさせなかった。
「え……えっと」
戸惑い、思わず一歩引いてしまう。
美咲の脳裏に数日前の記憶が蘇る。
家電量販店で見た少女と、目の前の少女が重なる。
「そこのエリア、チェイサーが出るわ。熱源感知型。EMPグレネードを持っていくのが基本」
抑揚はない。
命令でも忠告でもない。
ただ事実だけを告げる音声アナウンスのように、少女は言った。
声が喉に張り付き、言葉が出ない。
「え、あ……」
銀髪の少女は、わずかに目を細め美咲を見つめる。
「……聞いているのかしら?」
少女の刺すような視線に、美咲はなぜか頭を下げていた。
「ご、ごめんなさい!」
その言葉とともに、美咲は逃げるように足を速めた。
少女は立ち尽くし、何かを見送り、何かを思案していた。
思考がまとまらないまま、美咲は小さく呟いた。
「……あの時の……なんで……?」
街の外に出ると、一度足を止め視線を落とした。
頭を横に振り、端末を取り出す。
画面には、キャッシュ:53,304の文字。
「今は……金策に集中しよう」
絞り出す声。
それでも、先程の少女の声が、頭から離れなかった。




