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第28話 普段通り

 モニターの向こうで、大きな歓声が巻き起こった。


『以上をもちまして、1回戦の全試合が終了しましたー!』


 実況席から届くリリアの声が、控室に響く。


『2回戦開始までは、30分の休憩となります! 選手の皆さんは、開始時刻までに準備をお願いしまーす!』


『私たちは?』


『やだなぁ、しろさん。私たちは、それまでの……つ・な・ぎ。しろさん的には──』


 続くリリアの声を聞き流しながら、刹那はソファーに腰を下ろしたまま、モニターを眺めていた。


 画面が切り替わり、2回戦の組み合わせが表示される。


 刹那とボリス。


 そこに並んだ二つの名前を前に、誰も口を開かなかった。


 自分へ向けられた視線に気づき、刹那はわずかに眉を上げた。


「なんだよ。まだ試合も始まってないのに、負けたみたいな顔するなって」


 刹那は短く息を吐き、ソファーの背もたれに身体を預けた。


「普段通りやるだけだよ」


 不安そうに見つめる美咲たちへ、口元を緩める。


「捕まる前に決めきる。それだけ」


 誰も言葉を返さなかった。


 部屋に残ったのは、モニターから聞こえる会場のざわめきだけだった。


 美咲は何かを言いかけ、静かに口を閉じた。


 それから、立ち上がった。


「それじゃあ、私たちは観客席で待ってますね」


 刹那が美咲へ顔を向けた。


「頑張ってください」


「おう。ちゃんと見てろよ」


 刹那は軽く片手を上げた。


 美咲は柔らかく微笑むと、控室の扉へ向かった。


「ほら、ナナちゃんもれんくんも行くわよ〜」


 マリアも立ち上がり、ナナとれんの背中を押した。


 ナナは刹那を振り返った。


 何かを言おうと口を開いたが、そのままマリアに背中を押され、れんと一緒に控室を出ていった。


 美咲たちの姿が見えなくなると、アリスも椅子から立ち上がった。


 刹那の前を通り過ぎ、扉へ向かった。


 ドアノブへ手をかけたところで、一度だけ刹那を見た。


 何かを言いたげに、その視線がわずかに落ちた。


「どうかしたか?」


 アリスはすぐには答えなかった。


「……なにも」


 アリスは扉を開け、控室を出ていった。


 扉が閉まり、廊下を遠ざかる足音も次第に聞こえなくなった。


 刹那はソファーに腰を下ろしたまま、項垂れた。


 普段通りでは、勝てる気がしなかった。


 頭の中で、何度目かも分からない試合を組み立てる。


 距離を詰め、数度斬りつける。


 それでも、ボリスは止まらない。


 刃を受けたまま踏み込み、こちらへ一撃を叩き込んでくる。


 あれをまともに受ければ、ただでは済まない。


 腕なら、武器を振れなくなる。


 脚なら、動けなくなる。


 当たり所が悪ければ、それだけで終わる。


 動きを散らし、死角から攻め続ける。


 攻撃を当てることよりも、攻撃を受けないことを優先する。


 それなら、簡単には捕まらない。


 だが、そうすれば長引く。


 長引くほど、捕まる可能性は上がっていく。


 一度でも間合いを誤れば、その瞬間に終わる。


 捕まる前に決めきる。


 決めきるには、踏み込まなければならない。


 踏み込めば、ボリスの間合いに入る。


 考えは、また同じ場所へ戻ってきた。


 控室の扉がノックされた。


「刹那選手、準備をお願いします」


 刹那は顔を上げた。


 返事はせず、ゆっくりと立ち上がった。

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