第25話 見えていない敵
先ほどまで銃声すら聞こえなかった郊外フィールドに、幾度目かの爆音が轟いた。
表情をゆがませたなこが、爆煙から姿を現した。
後方でC4が炸裂し、爆発はなこを追うように連鎖していった。
最初の爆発には、なんとか反応できた。
衝撃波がわずかに掠めた右腕に、鋭い痛みが走る。
それでも、まだ動く。
なこは左手の通路へ曲がった。
一歩踏み入れた瞬間、その先で爆発が起こった。
ここも通れない。
なこは左腕を上げ、爆風から顔をかばった。
なこはすぐさま振り返り、来た道を駆け戻った。
またも正面で爆発が起こる。
右には裏路地。
なこは咄嗟に右へ曲がった。
その瞬間、足元で金具の外れる小さな音がした。
なこは息をのみ、前方へ跳んだ。
それと同時に、背後で地雷が起爆し、衝撃でなこはそのまま前方へ吹き飛ばされた。
なこは勢いよく地面に打ち付けられ、小さく呻いた。
全身に激痛が走る。
なこは唇を噛みしめ、左手を地面につき、身体を押し上げた。
けれども、身体が言うことを聞かない。
腕のバイタルデバイスには、〈注意〉を示す黄色が表示されている。
なこは力なく地面に突っ伏した。
ここで止まるわけにはいかない。
早く移動しなくては。
止まれば、もう一度ここが爆破されるかもしれない。
なこは再び左腕に力を込め、やっとのことで身体を起こした。
そして、ゆっくり立ち上がると、身体を引きずるようにして歩み始めた。
先ほどまで、なこが走って向かう先々で、先回りするように爆発が起きていた。
常に動きを監視されているとしか思えない正確さ。
でも、監視するようなものはどこにも見当たらなかった。
裏路地を抜けると、大通りが目の前に広がった。
なこは建物の陰に身を潜め、大通りを見渡した。
人影も、トリップワイヤーも見当たらない。
なこが裏路地から出ようとした時、金属が地面を掻く音が聞こえてきた。
向かいの路地から、見慣れた機械生命体が1機、顔を出した。
それは大通りに出ると、目のような赤い球体を左右に振りながら、中央へ進んでいった。
機械生命体は、なこの姿を捉えると、勢いよくこちらへ向かってきた。
なこは来た道に視線を送った。
戻るか。
それとも、銃声で居場所を晒してでも、この1機を破壊するか。
相次ぐ爆発で、痛めていた右腕はもう思うように上がらない。
だが、機械生命体が大通りを横断した瞬間、その足元が弾けた。
衝撃で、その機械の身体が粉々に散った。
「……?」
違和感。
見える範囲には、トリップワイヤーはなかったはず。
なら、今の爆発は、遠隔式か、何らかのセンサー式。
身体を引きずるように歩き始めてから、爆発は一度も起きていない。
だが、勢いよく走った機械生命体には反応した。
少なくとも、バグースが直接こちらの姿を見ているわけではない。
「……こちらの姿は、識別されていないですぞ」
なこは来た道をゆっくりと戻りながら、周囲へ目を凝らした。
看板の根元。
裏路地に面した建物の中。
配管の裏。
怪しい場所を、一つずつくまなく探していった。
ゆっくりと。何かを反応させないように。
「ありましたぞ」
路面に倒れたゴミ箱の陰に、500円玉ほどの円盤状の機械があった。
なこはそれを慎重に拾い上げた。
モーションセンサー。
バグースは、モーションセンサーが拾った激しい動きをなこだと思い、その付近のC4を起爆していた。
「なら、まだ勝ち筋はありますな」
なこはモーションセンサーを元の場所に戻すと、その場で腰を下ろした。
そして、ポンチョの内側から板状の端末と、筒状の機械を取り出した。
一つは、電子機器のハッキング端末。
もう一つは、Callガジェット。
周囲の機械生命体を、音が鳴る場所へ集める代物。
今必要なことは三つ。
バグースが出てくる状況を作ること。
時間を稼ぐこと。
そして、最後まで悟られないこと。
迷っている暇はない。
身体は、すでに限界を迎えつつある。
一か八かに賭けるしかない。
なこは銃をその場に置き、二つの機器を手に、再び歩き始めた。




