↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
125/199

第24話 狩人

 試合開始の合図と同時に、なこは街の中心部へ向けて走り出した。


 対戦相手の情報は、頭に入れている。


 バグースは、爆発物で相手の移動先と退路を潰す戦術を取る。


 一度、好きに設置を始められれば、戦場そのものが相手の武器になる。


 ならば、そうなる前に止める。


 なこは道路脇に積み上がった瓦礫の陰へ滑り込むと、オーバーポンチョの下へ手を入れた。


 背負ったバッグを地面に置き、中からいくつかの部品を取り出した。


 砲身。


 脚部。


 照準器。


 慣れた手つきで組み上げ、小型の迫撃砲が出来上がった。


 砲身を街の中央へ向ける。


 続けて、バッグの横に吊るしていた小型ドローンを外した。


 索敵用の軽量型。


「まずは、見つけますぞ」


 専用の端末を操作すると、ドローンが低い駆動音を響かせて浮かび上がった。


 住宅の屋根を越え、交差点の上へ。


 端末に映る映像が、なこの視界を広げていく。


 道路。


 駐車場。


 建物の陰。


 ドローンをもう少し先へ進め、倉庫の裏手を覗かせた。


「……いましたな」


 画面の端を横切った影。


 バグースはビルの脇を走っていた。


 なこの端末に、距離と着弾予測が表示されている。


 なこは数値を一度だけ確認し、砲身を動かして着弾位置を調整した。


 迫撃砲へ砲弾を落とし込む。


 次の瞬間、軽い発射音が響いた。


 少し遅れて、ビルの手前で爆発が起きる。


 土煙が上がり、ドローンの映像が揺れた。


 その向こうで、バグースが建物の1階へ飛び込むのが見えた。


「ふむ。中へ入りましたか」


 迫撃砲では狙えない。


 けれど、建物の中に留まるなら、その間に広く罠を置かれることもない。


 足止めにはなっている。


 なこは迫撃砲を素早く分解し、バッグへ戻した。


 ドローンの映像を確認しながら、バグースが入った建物へ向けて移動を始める。


 ほどなくして、入口からバグースが姿を現した。


「逃がしませんぞ」


 ドローンを向け直す。


 次の瞬間、端末の映像が途切れた。


 操作端末が、音もなく沈黙する。


「……EMPですな」


 発生装置を探して止める選択肢もある。


 けれども、その時間があれば、バグースはさらに罠の範囲を広げる。


 ならば今、優先すべきは一つだった。


「機械を止めるのは後、今は本人を追いますぞ」


 なこは操作端末を腰のポーチにしまい、足元へ視線を落としたまま進み始めた。


 ひび割れた舗装。


 縁石の脇。


 駐車場へ続く細い通路。


 EMPが発生している最中、バグースも遠隔でC4を起爆できない。


 ならば今、警戒すべきものは別にある。


 電子信号を必要としない、トリップワイヤー。


「おっとっと」


 なこは足を止めた。


 目の前。


 通路を横切るように張られた細いワイヤーが、わずかな光を反射している。


 気づかず引っ掛ければ、ワイヤーの先に仕込まれた地雷が起爆する。


 なこは周囲を一度だけ見回し、ワイヤーを飛び越えた。


「暗い場所は、避けたほうがよさそうですな」


 肩から提げた軽量のサブマシンガンを、腰だめに構える。


 視界の悪い建物の脇。


 狭い路地。


 駐車場の奥。


 バグースの姿は見えない。


 けれど、追うことをやめるわけにはいかなかった。


 ワイヤーを見つけるたびに、バグースが通った方向だけは分かる。


 なこは足元を確かめ、角を越え、建物の陰を警戒しながら進んだ。


 それほど走っていないはずなのに、気づけば息が上がっていた。


 動きづらい。


 走れば追いつけたはずの距離を、少しずつ失っていく。


 最初は、足を止めるほどのワイヤーが一本あるかどうかだった。


 それがいつの間にか、右の路地にも。


 左の通路にも。


 進めそうな場所には、細い線が張り巡らされている。


「……なるほど」


 なこは、交差点の手前で立ち止まった。


 追っているつもりだった。


 けれど、違う。


 バグースは逃げながら、なこの歩く場所と速度を選んでいる。


 自分が狩る側だと勘違いさせたまま。


「完全に、後手ですな」


 バグースの正確な位置は分からない。


 このまま追っても、相手の作った道を歩かされるだけだ。


 いつかは、身動きが取れなくなって一方的に撃たれる。


 なこは操作端末をしまったポーチを見下ろした。


 今の状況を打開するためには、EMPの発生装置を探し、止める。


 そして、ドローンで安全にバグースの位置を把握する。


 時間は取られる。


 けれども、今の状況よりは──


 その時、ポーチの中で操作端末が短く鳴った。


「……え?」


 次の瞬間。


 衝撃と爆音が、なこを襲った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。