↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
111/203

第10話 後遺症

 昨晩の疲れを引きずったまま、刹那は駅前の通りを歩いていた。


 あの後、何戦もアリスに付き合わされ、途中で美咲は「明日も早いので」と逃げていった。


 刹那が解放された時には、すでに日付が変わっていた。


「私だって朝から仕事があるっての」


 そう呟き、眠気を覚ますように首を回すと、見慣れない店が目に入った。


 刹那は足を止め、通りに面した喫茶店を見つめた。


 この前まで、ここは空き店舗だったはず。


 年季の入った外壁も、色褪せた木枠も、そのまま残っている。


 けれど、磨かれた窓の向こうには灯りがつき、店内では活発そうな女性が笑顔で客の間を行き来していた。


 扉の横には、まだ新しい看板。


《Re:na’s(リー・ナズ)》


「……こんな店、できたんだな」


 少しだけ中を覗き込み、刹那は再び歩き出した。


「今度、来てみるか」


 そこからしばらく歩き、刹那は待ち合わせのカフェに到着した。


 刹那のマネージャーが以前から気に入っているカフェ。


 最近の打ち合わせは、大抵この場所だった。


 大通りから外れた場所にあるため、平日は客足が落ち着いている。


 人目を気にする刹那にとって、これ以上ないほど好条件なカフェだった。


 そして、何より飯がうまい。


 刹那が扉を押すと、澄んだ鈴の音が静かな店内へ転がった。


 年配の店主がカウンター越しに刹那を見た。


 刹那が小さく頭を下げると、店主は視線を奥の席へ向けた。


 案内された席には、すでにマネージャーが座っていた。


「真紀さん、お疲れ様です」


「お疲れ様。何か飲む?」


「じゃあ、コーヒーで」


 刹那の注文に、マネージャーが小さく首を傾げた。


「あら珍しい。刹那がコーヒーだなんて」


「私だって、たまには飲みますよ」


「ふーん」


 真紀は何かを見透かすように目を細め、刹那を見つめた。


 そして、何事もなかったかのように店主を呼び、コーヒーを注文した。


「さて、さっそく始めましょうか」


 真紀は手帳を取り出すと、来週の予定を話し始めた。


「月曜日は雑誌の撮影。火曜日がインタビューで、木曜日には衣装合わせが入ってるわ」


 撮影。


 インタビュー。


 衣装合わせ。


 真紀の声を聞きながら、刹那は昨夜の模擬戦を思い返していた。


「──刹那。ちょっと、聞いてるの?」


 名前を呼ばれ、刹那は顔を上げた。


 やばい。何も聞いていなかった。


「すみません。聞いてなかったです」


「もう。しっかりしてよね」


 真紀は呆れたように息を吐き、手帳を閉じた。


「昨日、寝たの何時?」


「何ですか、急に」


 真紀は刹那の前に置かれたコーヒーを顎で指した。


「普段は頼まないコーヒーを頼んで、私の話まで聞き流してるから」


 刹那は視線を泳がせたが、やがて観念して口を開いた。


「……二時過ぎです」


「ゲーム?」


「はい」


「今日、打ち合わせがあるって知ってたわよね?」


 真紀の鋭い視線が刹那を見つめた。


 刹那はその視線から逃げるように、コーヒーの入ったカップを口に運んだ。


「あのね、ゲームをするなとは言わないわよ。あなたにも息抜きは大事だもの」


 真紀は腕を組み、ソファーの背もたれに寄り掛かった。


「楽しむときは楽しんで、時間が来たらキッパリやめる。だらだらしない。そのあたりの分別はしっかりつけないと。子供じゃないんだから」


「……すみません」


「で、なんでそんな時間までゲームしてたの?」


 理由。


 アリスが寝かせてくれなかったから。


 間違ってはいないが、これは誤解を招く。


 どう説明したものか。


 刹那が言いよどんでいると、真紀が不満げに唇を尖らせた。


「ほらやっぱり、私にゲームの話はしないじゃない」


「違いますって。説明が難しいんですよ」


「はいはい。おばさんにわかるように説明するのが難しいんですね」


 拗ねるような真紀の声に、刹那は小さく息を漏らした。


「面倒くさいなぁ」


「め、面倒くさい……」


 何か心当たりでもあったのか、真紀の表情が固まった。


「そうよね……面倒な女よね……」


 そのまま、力なく机へ突っ伏した。


 まずい、地雷を踏んだ。


 刹那は目の前の光景に、口元を引きつらせた。


 真紀は顔を伏せたまま、ブツブツと何か呟いている。


 そもそも、何でこんなことになったのか。


 刹那が額に手を添えて考えていると、脳内にアリスの声が響いてきた。


『貴女が自己管理を疎かにしたせいよ』


 刹那は背もたれに身体を預け、疲れ果てたように天井を仰いだ。


 天井に、アリスの憎たらしい無表情が浮かんだ。


 もう、あいつと模擬戦はやらん。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。