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『サタン・クレジット』の罠

※異彩のリーガル・ファンタジーです。

昨日の魔王軍の暴挙とは違う。

それは、「法」と「契約」を味方につけた者だけが放つ、

抗いがたい威圧感。


「失礼いたします。

『サタン・クレジット』債権回収課の者です。

勇者ゼクス様、いらっしゃいますでしょうか?」


入ってきたのは、黒いビジネススーツを

完璧に着こなした、糸目の悪魔だった。


彼は慇懃無礼に頭を下げると、

一枚の「差押執行書」を取り出した。


「ゼクス様。

昨晩の戦闘において、貴殿が聖剣を使用された際、

一時的に魔力供給が途絶えましたね?」


「それにより、リボルビング契約の

保証特約が失効いたしました」


「それって、どういう意味だ」


ゼクスが訊ねる。


規約に基づき、本日ただいまをもちまして

――その聖剣、および全装備を

一時凍結ロック』させていただきます」


「なっ……なんだと!?」


悪魔が指をパチンと鳴らす。


次の瞬間、


ゼクスの聖剣から放たれていた眩い光が、

嘘のように消え失せた。


それどころか、剣は鞘の中でガチガチと

凍りついたように固まり、

鎧もまた、ゼクスの動きを封じるように重く、

鈍い鉄の塊へと変貌した。


「重てぇ……動けねえ! おい、なんだこれ!」


「契約の履行を怠った債務者への、当然の措置です」


「なんだと!」


「ゼクス様。本日から三日以内に全額

――利息を含めた金貨六百万枚――を

お支払いいただけない場合、貴殿の身柄は『魔界地下鉱山』にて、

五百年間の強制労働に従事していただきます」


事務所が、静まり返った。


昨日手に入れた金貨五十万枚。それは巨万の富に見えたが、

勇者の「おバカな契約」一つで、チリのように吹き飛んでしまったのだ。


私は、深いため息をつき、公印を強く握りしめた。

 

「……ゼクスさん。その『契約書』の控え、今すぐ出しなさい。

……一文字残らず、リーガルチェックしてあげますから」


私の定時退社と有給休暇。


どうやらそれは、リボ払いの金利よりも遥かに遠い場所へと、

遠ざかってしまったようだった。


◇◇◇


「……金貨六百万枚、ね。さっきの五百万から、

一瞬で百万枚増えましたね」


私は、目の前で「利用停止」を食らってただの鉄屑と化した

勇者ゼクスを見やり、冷徹に告げた。


『サタン・クレジット』の糸目悪魔

――営業課のベリアル氏は、慇懃に微笑んだまま、


「遅延損害金と、

本日の強制執行にかかった人件費が含まれております」


と、手際よく計算書を差し出してきた。


「リ、リィン……!

なんとかしてくれ! この鎧、マジでびくともしねえ!

脇の下の関節が『支払いが必要です』って音声と共にロックされて、

痒いところも掻けねえんだ!」


ゼクスがブリキの人形のような動きで、

ガチガチと鎧を鳴らしている。


勇者の筋力をもってしても動かせないとは、

相当強力な「拘束魔術リーガル・バインド」が

契約書を通じて掛けられている証拠だ。


「ゼクスさん、動かないで。

……ルルさん、その装備の『ロック機能』の

仕様を確認してください」


そして、


「シャロンさんは、ゼクスさんがこの装備を買った店――

『暗黒武器市場・王都支店』へ飛んで」


そして。


「契約時の言動、録音魔法の有無、

あと店内のリーフレットを全部回収してきてください」


「わかったわ! 営業のネットワークで、

あの店がどれだけバックリ(キックバック)を

貰ってるか暴いてやるんだから!」


「解析……開始します。

……この魔導回路……ユーザーの心拍数が上がると……

より強く締まる設定……。つまり……焦れば焦るほど

……窒息します……」


ルルが冷たい事実を告げると、ゼクスの顔がみるみる青ざめた。


私はそんな彼を放置し、ベリアル氏に向き直った。


「ベリアルさん。わが社の勇者が愚か

であることは認めますが、

この『マナ・リボルビング・システム』、

あまりにも射幸心を煽りすぎてはいませんか?」


続けて。


「 初回支払額をここまで低く設定し、

かつ『魔力補填ジャックポット』など

という不確定な要素を返済原資に組み込むのは、

人類側の金融業法における

『適合性の原則』に抵触する恐れがあります」


「おやおや、リィン様。

我々は魔界の法に基づいて営業しておりますので」


ベリアル氏は余裕だ。


「それに」


「ゼクス様は『この剣さえあれば、

ドラゴンを一万匹倒して一瞬で返せる』と、

高笑いしながらサインされたのですよ?」


ニヤリと笑う。


「返済意志能力は十分にあったと判断しております」


……このバカ、なんてことを。


私はこみ上げる殺意を抑え、ゼクスを睨みつけた。


まずは「現場」を見に行くことにした。

ゼクスが昨日、実際にその聖剣を振るったという演習場

――王都郊外の魔物保護区だ。

次回に続きます。

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