勇者、装備ごと差し押さえられる
※痛快リーガル・ファンタジーです。
「……来たわね」
昨日の魔王軍とは違う。
これは――“法”と“契約”を握ってる側の圧だ。逃げ場がないやつ。
コン、コン、コン。
「失礼いたします。
『サタン・クレジット』債権回収課の者です。
勇者ゼクス様、いらっしゃいますでしょうか?」
入ってきたのは、黒スーツの悪魔。
糸目、完璧な所作、完璧に嫌な笑み。
「……はいはい、最悪の客ね」
そいつは丁寧に一礼すると、
スッと一枚の書類を差し出した。
「差押執行書です」
「ゼクス様。
昨晩の戦闘時、魔力供給が一時的に途絶えましたね?」
「……あ? それがどうした」
「それにより――保証特約、失効しております」
「……は?」
「規約に基づき――」
一拍。
「本日ただいまをもちまして、
その聖剣および全装備を“ロック”させていただきます」
「なっ……!?」
パチン。
悪魔が指を鳴らした。
次の瞬間。
ギルド中を照らしていた聖剣の光が、
スン……と消えた。
「え?」
ガチッ。
「お、おい……?」
ガチガチガチ。
剣は鞘の中で完全に凍結。
鎧はただの重い鉄塊に変わる。
「重てぇ!! 動けねぇ!!」
ゼクス、完全停止。
「契約不履行への標準対応です」
「ふざけんな!」
「なお」
悪魔は淡々と続ける。
「三日以内に全額――
金貨六百万枚(利息込み)をお支払いいただけない場合」
一拍。
「魔界地下鉱山にて、五百年間の強制労働となります」
――静寂。
昨日の五十万枚?
誤差だ。完全に。
私は深く息を吐いた。
「……ゼクスさん」
「は、はい……」
「契約書、出しなさい」
「……」
「一文字残らず、叩き潰します」
◇◇◇
「……金貨六百万枚。増えてますね」
私は冷静に言う。
「遅延損害金と執行コストです」
悪魔――ベリアルはにこやかだ。
「リィン!! 助けろ!!
この鎧、“支払いが必要です”って喋るんだぞ!?」
ガチッ。
「うわっ、脇ロックされた!! かゆい!!」
「動かないでください」
私は即座に指示を飛ばす。
「ルルさん、その装備のロック仕様を解析」
「了解……三十秒……」
「シャロンさん」
「はい!」
「購入店舗へ直行。
録音の有無、説明内容、販促資料――全部回収」
「任せて!営業の本気見せるわ!」
「解析結果……出ました」
ルルが淡々と告げる。
「心拍数連動型拘束……
焦るほど締まる仕様……」
「つまり?」
「……パニックになると……窒息します」
「やめろぉぉぉ!!!」
ゼクス、青ざめる。
放置。
私はベリアルへ向き直る。
「……ベリアルさん」
「はい?」
「この商品設計、やりすぎです」
「ほう?」
「初回支払を極端に低く設定。
返済原資を“ジャックポット”に依存」
一拍。
「完全に適合性原則アウトです」
ベリアル、にやり。
「我々は魔界法準拠ですので」
「それに――」
肩をすくめる。
「ゼクス様は『ドラゴン一万匹で即完済!』と
高笑いしながらサインされました」
「……」
「返済能力、問題なしと判断しております」
私は無言でゼクスを見る。
目が合う。
逸らすな。
「……このバカ」
小さく呟く。
でも怒鳴るのは後だ。
今は潰す。
完全に。
「――現場、行きます」
「は?」
「実際に使った場所」
私はカバンを持ち上げた。
「演習場。
王都郊外の魔物保護区」
振り返る。
「そこに、突破口がある」
ゼクスはガチガチのまま。
シャロンは走り出し。
ルルはデータをまとめる。
そして私は――
眼鏡を押し上げた。
「契約は、壊せる」
「ただし」
一拍。
「正しい“手順”でね」
次回に続きます。




