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不採算ダンジョンを物流拠点にリノベーション

一月二十日。


魔王軍との電撃的な合併(子会社化)から数日。


王都の経済界は、未だかつてないパニックに見舞われていた。


昨日まで「人類の脅威」だった魔王城が、今や「王都最大級の物流拠点」として再定義されようとしているのだ。


「……リィンさん、これマジですか?『嘆きの迷宮』の地下三階を、常温保存用の倉庫に転用」


カイトは驚いていた。


「地下五階の氷結エリアは、生鮮食品用のコールドチェーン(低温物流網)として活用するって……」


カイトが、私が作成した『魔界資産・有効活用計画書』を読み上げながら、引きつった声を出す。


「判定:極めて合理的です。……カイト君。これまで冒険者たちが命を懸けて潜っていたあの複雑な構造、トラップ、そして一定の温度に保たれた冷気」


私は続ける。


「……これらを『攻略対象』と考えるからコストがかかるのです。

最初から『高セキュリティな物流施設』と考えれば、これほど優れた不動産物件はありません」


「……確かに……。侵入者は……トラップで……自動排除……。魔物の……残量魔力による……保冷効果……。……維持費……ほぼゼロ……」


ルルが、迷宮の構造を三次元CADデータとして再構築し、最適な搬入経路を算出していく。


私は、デスクの横で所在なげに立っているバルガス環境美化部長(元・四天王)に、一通の図面を渡した。


「バルガス部長。……迷宮内のスケルトン兵たちが徘徊しているルートですが」


指示を出す。


「あれをすべて『自動搬送ライン』に変更してください。

彼らに剣を持たせるのは今日で終わりです。明日からは、この『配送ラベル』と『検品用魔導具』を持たせてください」


「リ、リィンよ……。我ら魔界騎士団に、戦いではなく『荷役』をせよと言うのか?」


戸惑う。


「 誇り高き魔族の戦士たちが、王都の奥様方の注文した『高級卵』を運ぶなどと……!」


「バルガス部長。……。『誇り』で部下の腹は膨れますか?……見てください、この収支予測グラフを」


私は、彼らの前に青い光でグラフを投影した。


「……侵略による略奪収益は、年々減少傾向にあり、かつ勇者による反撃コスト(修繕費)が利益を圧迫しています」


続ける。


「……しかし、この『魔界超特急・物流サービス』を展開すれば、王都から地方への輸送時間はこれまでの三分の一に短縮」


さらに。


「……物流革命による独占的な営業利益は、侵略の数百倍に達します」


畳み掛ける。


「……これでも、誇りを選びますか?」


「…………。よし、騎士たちに『割れ物注意』の心得を叩き込んでくる」


バルガスが力強く(しかしどこか悲しげに)斧を背負い直して事務所を出て行った。


「ニャーン(ピート専用の、またたび配送ラインも作ってね)」


ピートが、私の肩の上で満足そうに喉を鳴らす。


「……さて。……ハードウェア(施設)の準備は整いました」


リィンは次の事を考える。


「……次は、そこで働く『労働力(ソフト)』の適正化です」


そして。


「……ルルさん、魔物たちの『就業規則』のドラフトを作成してください」


「……了解です」


「……彼らには、恐怖ではなく『時給』という名の新しいインセンティブ(動機付け)を理解させる必要があります」


一方で、


この動きをエデンと帝國が黙って見ているはずもなかった。


王都の物流シェアを魔王軍に握られることは、帝國にとっての「経済的敗北」を意味する。


私はペンを走らせながら、次に送り込まれるであろう「法的な嫌がらせ」を予測し、その全てを跳ね返すための精算書を準備し始めた。

 

「……。さあ、世界初の『魔物による、魔物のための、ホワイト物流』……開店準備を始めましょうか」


◇◇◇


『嘆きの迷宮』地下三階。


かつては数多の冒険者が命を落とした「回転刃の回廊」は今、凄まじい熱気に包まれていた。


ただし、


それは戦闘の熱気ではなく、大規模な「内装工事」によるものだ。


「……ゼクスさん。その『自動切断トラップ』の歯車、取り外さないでください」


「おう!」


「そのまま回転速度を40%落とし、上に魔導ゴム製のベルトを装着。

……はい、これで『全自動コンベア・ライン』の一丁上がりです」


「姐さん……。俺、これでも王都最強の勇者候補だったはずなんだけどよ。

大剣を使って『トラップの微調整』をさせられるとは思わなかったぜ……」


ゼクスが汗を拭いながら、精密な刃の角度をミリ単位で調整する。


彼の卓越した身体能力は、今や「超一流の設備工」として現場で重宝されていた。


私は現場監督用のヘルメットを被り、手元の図面と現状を照らし合わせる。


この階層の問題は、常に漂う「呪いの霧」だ。


これが視界を遮り、ピッキング作業のミスを誘発する懸念があった。


「……ルルさん。このエリアの呪い濃度、換気システムで除去可能ですか?」


「……計算中……。呪いの正体は……残留魔力の……酸化現象……」


ルルは答える。


「大型の……浄化魔導扇(大型ファン)を……四隅に設置すれば……。十秒で……クリーンルーム環境に……移行できます……」


「採用です。……ガスト課長、聞こえますか?」


通信魔導具から、死霊侯爵ガストの不機嫌そうな声が返ってきた。


『……リィン事務官。……私は今、地下五階の「死霊の貯蔵庫」で、ゾンビたちの腐敗進行を止めるための「防腐コーティング作業」に追われているのだよ」


忙しそうな声が響く。


「……シャロン君が『働く死体、超シュール!』なんて言って、ずっとライブ配信を回していて、集中できん……!』


「ガスト課長。……彼らが『異臭』を放ったままでは、発送する商品の評価に影響します」


続ける。


「……星一つ(クレーム)は、わが社のブランド価値を毀損する重大なリスクです」


「それは、分かっているが……」


「……徹底的に無臭化してください。……終わったら、地下三階の換気ダクト設置に人員(スケルトン)を回すように」


現場では、魔物たちが困惑の極みにあった。


ミノタウロスたちは、斧を置いて「重量物運搬用のフォークリフト」としての訓練を受け、レッサーデーモンたちは、その機動力を活かして「ドローン便」としての飛行ルートを確認させられている。


「……リィン事務官、報告です!」


カイトが、迷宮の入り口から息を切らして走ってきた。


「エデンの調査員たちが数名こちらを覗き込んでいます!」


「来ましたか」


「 『ダンジョンの不当な用途変更』と『魔物の私物化』を理由に、王都建築局に告発状を出したみたいです!」


「……。判定:お役所仕事の限界を知らない、愚かな行動です」


私は、カイトに一通の封筒を預けた。


「カイト君、これを建築局の担当者に届けてください」


カイトに書類を渡す。


「……タイトルは『迷宮内における避難経路の確保、およびバリアフリー化に伴う公共貢献報告書』です」


そして。


「……これまで『攻略不能』だった迷宮に、手すりを付け、照明を明るくし、スロープを設置したのです」


「なるほど……」


「……これは『リノベーション』であると同時に、王都周辺の『ハザードマップ改善事業』として認定されるはずです」


「……バリアフリー。……魔物を殺すための場所を、お年寄りでも歩けるように改造したってことですか!?」


「ええ。……エデンが『破壊』を推奨するなら、わが社は『インフラ整備』を」


二コリと笑い。


「……どちらが王都の未来にとって有益か、役人たちがどちらの味方をするかは明白です」


その時、迷宮の奥から


「グオオォォン!」


という地響きのような咆哮が響いた。


この階層の主(ボス)、『首狩り公爵』が、自分の部屋が勝手に「中央管理事務室」に改造されていることに気づき、怒り狂って現れたのだ。


「……。バルガス部長、出番です。……彼に、新しい『役職名』と『福利厚生』について、物理的に説明してあげてください」


「……。承知した、リィン。……おい、公爵! 貴様のその大きな机は、今日から『受注伝票の整理台だ!文句があるなら、俺の斧に言え!」


四天王バルガスの咆哮が迷宮に響き渡り、ボスの咆哮をかき消した。


破壊と殺戮の殿堂が、一人の事務官のペンによって、着実に「王都経済の心臓部」へと書き換えられていく。


「……。さあ、次は、この魔物たちに『労働の喜び(給与)』を教えるステップですね」


私は、山のような労働契約書の束を抱え、さらに深い階層へと足を進めるのだった。

お読みいただき、ありがとうございます。


着々と魔王軍の子会社化を進めるリィン。


次なる帝國側の魔の手は?次回をお待ちください。


気になる方はブクマと星一つでもいいので評価をお願いします。

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