↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/73

魔王軍、世界最大のインフラ企業になる

そこから現れたのは、四天王ですら平伏するほどの、圧倒的な暗黒の波動。


肌は黒く、頭部には巨大な角を持ち、体も漆黒のビロードのようなローブを羽織っている。


するどい眼光が、私に向けて放たれていた。

 

「――我が軍を『解体業者』に仕立て上げるとは、随分と大きく出たものだな、人の娘よ」


外見から想像されるとおりの重々しい声音が耳朶をうつ。


魔王軍・筆頭執行役員。


四天王のさらに上、魔界の頂点に立つ男

――暗黒魔導師ゼロスが、冷たい微笑を浮かべている。


「合併交渉の続きは、わが魔王城の『監査室』で行おう」


ゼロスは、愉快そうに。


「リィン事務官。君が魔王軍の膿をすべて出し切れるか、私が直々にテストしてやろうじゃないか」


それは、事務官リィンに対する、魔王軍からの「最終面接」の招待状だった。


◇◇◇


王都を包む吹雪が嘘のように、転送された先は「静寂」に支配されていた。


そこは、魔王城の最深部――ではなく、最近改装されたばかりだという


『魔王軍・経営監査室』。


巨大な大理石のテーブルを囲むのは、魔王軍の全権を握る四天王たち。


そしてその頂点に座る暗黒魔導師ゼロスが、冷徹な瞳で私を見据えていた。


「ようこそ、リィン事務官。ここには王宮の目も、エデンの刺客も届かない」


ゼロスの目が光る。


「さあ、合併に向けた『最終デューデリジェンス(資産査定)』を始めようか」


ゼロスが指を鳴らすと、室内の壁一面に膨大な数の「魂の契約書」が浮かび上がった。


それは、魔王軍が数千年にわたって蓄積してきた、魔物や呪い、そして侵略地の利権に関する全記録だ。


「これらすべてを貴殿の『事務能力』で再編し、帝國をも凌駕する経済圏を構築してみせろ」


「経済圏ですか……」


「それができぬなら、貴殿の魂を『未払い債務』の担保として、ここで永劫に働いてもらう」


「……判定:非常に光栄な『圧迫面接』ですね」


私は、動じない。


「ルルさん、録音と並行して、この空間の魔力濃度から『不当な心理的圧力』の数値を算出してください」


ルルに指示する。


「……後に慰謝料として請求に上乗せします」


「……了解……。心理的負荷……最大値……。ただし……リィンさんの心拍数は……通常通り」


続けて。


「……むしろ……やる気に……満ち溢れています……」


私は、目の前に積み上げられた「負の遺産」とも呼べる契約書の山に手を伸ばした。


「ゼロス様。……まず、この『勇者の呪い代行サービス』」


「それが、どうした?」


「……これ、一件あたりの原価計算がされていません」


「!!」


「呪いをかけるための魔導触媒のコストが、呪いによって得られる戦術的優位性を大きく上回っています」


容赦なく指摘する。


「……即座に廃止(ディスコン)です」


「な、何だと!? それはわが軍の伝統ある嫌がらせ事業だぞ!」


邪賢者ギルが異議を唱えるが、私は止まらない。


「ガスト様。この『死霊兵(スケルトン)の量産計画』」


「そ、それが何か?」


「……骨の維持に必要な防腐剤の価格が高騰しているのに、なぜ固定価格で契約しているのですか?」


「そ、それは我が軍の伝統で……」


「 仕入れ先であるドワーフ工務店との『価格転嫁交渉』を怠ったのは、人事担当としての怠慢です」


「ひえっ、私の骨が震える……! 事務官殿、そんな細かいことまで……!」


「細かくありません。一円の狂いが、一国の滅亡を招く。それが『事務』です」


私は、四天王たちの「聖域」とも呼べる放漫経営の数々を、次々とペン一本で切り捨てていった。


シャロンが魔導カメラを回しながら、


「見て見て! 四天王たちがリィンさんに説教されて、子供みたいにシュンとしてるわ!」


さも面白そうに。


「これ、魔界のトレンド1位確定ね!」


と実況する中、筆頭のゼロスだけが、楽しげに口角を上げた。


「……面白い。だが、リィン。……魔王軍には、数字では測れない『魔王への忠誠』という最大のアセット(資産)がある」


愉快そうに。


「……それを無視して、ただの解体業者として生き残れると思っているのか?」


「忠誠、ですか。……ゼロス様」


私は続ける。


「……忠誠心とは、適切な『報酬』と『福利厚生』の上に成り立つ、最も高価なオプションです」


さらに。


「……空腹の部下が、いつまでも魔王様に忠誠を誓うとお思いですか?」


私は、魔王軍の隠し金庫に眠っていた「予備費」の全額を、ホログラム上で「全従業員の特別ボーナス」へと振り分けた。


「……これが、私の出す回答です」


ゼロスを見る。


「……魔王軍を『侵略者』から『世界最大のインフラ企業』へと転換する」


一拍。


「……それこそが、エデンの市場独占を物理的・経済的に粉砕する、唯一の合併シナリオです」


沈黙。


四天王たちが顔を見合わせ、最後にゼロスが静かに立ち上がった。


彼の手には、魔王軍の全権を示す『暗黒の公印』が握られていた。


「……よかろう。……その狂気、買い取らせてもらおうか」


事務官リィン。


ついに彼女は、人間界を飛び越え、魔界の全権をもその「帳簿」の中に収めようとしていた。

読んでいただき、ありがとうございます。


ついに魔界の全権を掌握したリィン。ここから世界が変わり始めます。


しかし、エデンを傘下におさめる帝国も黙ってはいません。


リィンは無事、有給休暇を取れるのか?


明日の更新をお待ちください。


よろしければ、ブクマと評価をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。