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その接収費用、帝國持ちです

一週間ぶりの更新です。

彼らが絶対の自信を持っていた「帝國の数字」が、

リィンの手によって一瞬で「粉飾の疑い」へと塗り替えられていく。


「……判定:帝國の監査能力は、

わが社のピート部長の爪研ぎ跡よりも浅い」


 私は、ピートを抱き上げ、デスクに悠然と座り直した。


「……さて。……ここからは、こちらが『監査』する番です」


「何ですって!?」


「……シュヴァルツ帝國がエデンの負債を引き継いだことで

発生した、わが社への『不当な業務妨害に対する損害賠償』」


一拍


「……秒単位で加算されていますが、

今のうちに払っておきますか?」


ピートが、カレンに向かって


「ニャ~ン♪」


と勝ち誇ったように喉を鳴らした。


鉄の女と呼ばれたカレンの額に、

初めて一筋の汗が流れた。


◇◇◇


「……いいでしょう。数字の捏造レトリック

お上手なのは認めます、リィン事務官」


カレンの碧眼が、冷酷な光を増した。


彼女は震える部下たちを背後へ退かせると、

胸元からシュヴァルツ帝國の国章が刻印された

「黒い魔導スクロール」を取り出した。


それは、会計士が持つべき道具ではなく、

国家が強制執行の際に用いる『公権力行使の制約鍵』だった。


「ですが、経営とは数字だけではありません」


彼女は宣言する。


「『法』という名の絶対的な暴力こそが

組織を統治するのです」


そして。


「……宣告します。シュヴァルツ帝國法第108条に基づき、

本物件および本ギルドの全機能を『暫定接収』します」


彼女がスクロールを広げた瞬間。


事務所の四隅から漆黒の光が噴き出し、

窓やドアを物理的に封鎖し始めた。


「な、なんだ!? 外に出られないぞ!」


ゼクスがドアを体当たりで開けようとするが、

鋼鉄以上の硬度を持った魔力壁に跳ね返される。


「無駄です。この結界内では、帝國の承認がないあらゆる

『経済活動』および『物理的移動』が禁止されます」


続ける。


「……リィン事務官。貴方の言う『効率的な事務』も、

事務所が使えなければ無意味」


勝ち誇り。


「三日後、貴方が飢えと閉塞感に屈し、

買収合意書にサインするのを静かに待たせてもらいます」


カレンは事務机に腰掛け、冷徹に時計を見た。


事務所が完全な「陸の孤島」と化す。


ルルのネットワークすら遮断され、カイトの強運も

「閉じ込められた中」では発揮のしようがない。


「……リィンちゃん、

これ、本当の『詰み』じゃないのかい……?」


アルベルト社長が真っ青になって震える。


しかし、私は静かにピートをデスクに降ろし、

予備の眼鏡ケースから「ブルーライトカット仕様」の

作業用眼鏡を取り出した。


「……カレン監査官。一つ、初歩的な確認をさせてください」


「何かしら?」


「……貴方は今、この事務所を

『暫定接収』したと仰いましたね?」


「ええ。この空間は今、帝國の法務管理下にあります」


「……では。『この空間内に発生する全コスト』もまた、

帝國が負担するということで相違ありませんね?」


カレンが不審げに眉を寄せた。


「……当然です。それが接収のルールですから。

それが何か?」


「……。ルルさん。遮断された回線の代わりに、

昨日設置しておいた『非常用・地下魔導ケーブル』を起動」


続けて。


「……わが社の全機能を、『モバイル・オフィス・モードへ移行します」


「……了解……。……物理的な事務所は……接収されましたが……

業務システムは……クラウドへ……完全同期済み……」


そして。


「……これより……

反撃を開始します……」


ルルが足元の床板を剥がすと、

そこには王都の地下水路と直結した、

独自開発の超高速魔導通信ラインが隠されていた。


「なっ、接収中に業務を続けるというの!?

通信を遮断したはずよ!」


「いいえ。私がしているのは業務ではありません。

『帝國の予算を正しく消費する作業』です」


私は、空中に巨大なホログラム・ウィンドウを展開した。


そこには、帝國の国家予算システムの末端と、

わがギルドの管理システムが「強制接収による費用請求」という

名目で直結されたグラフが表示されていた。


「カレン監査官。貴方がこの事務所を閉鎖したことで、

わが社の冒険者たちは『出撃不能』となりました」


「何を……?」


「……これによる機会損失、および待機児童

……失礼、待機冒険者の人件費は、帝國法に基づき

『接収側が全額補填』する義務があります」


「……っ、そんな微々たる金額、

帝國の予算規模からすれば――」


「微々たるもの、でしょうか?」


続けて。


「 ……ゼクスさん、カイト君。今すぐギルドの

共有チャットで全所属冒険者に通達しなさい」


「……『現在、帝國の奢りで最高級の

有給休暇(待機モード)に突入した」


そして。


「全員、今すぐ一番高い宿に泊まり、

一番高いポーションを注文し、領収書の宛名を

シュヴァルツ帝國財務省にするように』と」


「……えっ、マジで!?

やったぜ、リィン姐さん!」


ゼクスが歓喜の声を上げ、

カイトも「幸運」をフル稼働させて高額当選の

領収書を「引き当てる」準備を始める。


「さらに。この事務所の接収期間中、

わが社の魔王(資産番号001)の維持管理も

帝國の管轄となります」


帝國の監査官たちがどよめく。


「……魔王の食費は一日金貨一万枚」


さらに。


「彼が退屈して事務所の壁を一枚破壊するごとに、

帝國の公共物損壊費用として賠償金が発生します」


「……な……!」


ホログラムのグラフが、

凄まじい角度で右肩上がりに跳ね上がっていく。


「カレン監査官。……貴方の『効率』は、

わが社の『消費能力』に耐えられますか?」


「何ですって?」


「 ……今、帝國の予算システムからは、

秒単位で金貨が溶け出しています」


私は続ける。


「……このまま三日間閉鎖を続ければ、

貴方の所属する投資局の年間予算は、ピート部長のパテ代どころか、

この王都を買収できるほどの赤字に転落しますが……」


畳み掛ける。


「精算の準備はよろしいですか?」


ピートが、カレンの足元にある「結界の魔導具」の上に、

わざとらしく毛玉を吐き出した。


鉄の女の碧眼が、驚愕と計算ミスへの恐怖で、

初めて大きく見開かれた。

明日に続きます。

毎週、土日更新で細々とやっております。

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― 新着の感想 ―
そりゃあそうだよな、損害賠償と有給休暇による損害の全額負担を「帝国側」が、払わなきゃいけなくなる。 更には、魔王軍側も対象になるから、丸々一国の軍と最大手のギルドの二つを負担するのには、相当な維持費…
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