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絶対判定!ギルド『エデン』の倒産

私は、魔王城から接収した「裏帳簿」を開いた。


その中でも。

最も古く。

最も汚れ。


そして――最も“見られたくなかった”ページを。


ぱらり、と。

静寂の中で紙が鳴る。


「……ハンス様」


私は視線を落としたまま言う。


「あなたがエデンの財務責任者だった三年前」


一枚、めくる。


「王宮から支給された『対魔王軍防衛補助金』」


さらに一枚。


「そのうち、金貨三百万枚が使途不明になっていますね」


空気が止まる。


「な、何のことだ!」


ハンスが怒鳴る。

だが。

声が裏返っていた。


「……そしてシグルド様」


私は今度は勇者を見る。


「同時期、あなたの個人口座へ」


書類を差し出す。


「“出所不明の寄付金”として、同額が振り込まれている」


沈黙。


シグルドの顔が凍った。

ほんの一瞬。


だが。

私は見逃さない。


「……何の話だ」


シグルドが低く言う。


「それは正当なスポンサーからの支援だ」


続ける。


「君のような事務員が、口を挟む領域ではない」


「いいえ」


即答。


「これは事務の領域です」


私は裏帳簿を閉じる。


「この帳簿には、その補助金が」


一拍。


「“魔王軍への宣戦布告見合わせの賄賂”として」


さらに。


「エデンから魔王軍へ流れた記録が残っています」


ざわっ――

事務所が揺れる。


監査官の眉が動いた。


シャロンが息を呑む。

カイトは完全に固まっていた。


「つまり」


私は冷静に続ける。


「あなたたちは“戦争回避”の名目で税金を流用し」


一枚、机へ置く。


「さらにその一部を私的に着服した」


もう一枚。


「国家防衛費の横領」


さらに。


「補助金不正受給」


最後に。


「国家反逆罪相当の背任行為です」


「……っ!」


シグルドが歯を食いしばる。

ハンスは額から汗を流していた。


その時だった。


「……あ、あの」


場違いなくらい弱々しい声。

足元を見る。

アルベルト社長だった。


「社長。今は監査中です」


「静かにしてください」


「いや、でもさぁ……」


アルベルトが震える指を上げる。


「その三年前の領収書、俺、見たことあるよ?」


「……は?」


ハンスの顔色が変わる。


アルベルトは酔いの抜けきらない顔で続けた。


「ハンス君、昔うちの店で飲んでた時さ」


真似をするようにニヤつく。


「“これ、魔法の紙なんだ。書いた数字が消えるんだよ”って」


一拍。


「自慢してたじゃん」

「なっ――!?」

「ほら」


アルベルトがピートを指差した。

「その首輪の裏に落書きしてあったやつ」


「ニャーン?」


ピートが首を傾げる。

ふわり。


鈴が鳴る。

私はピートを抱き上げ、首輪の裏を見る。


そこに貼られていたのは。

古びたメモ。


そして――

ハンス本人の筆跡。


『魔力による偽造術式』


空気が凍る。


「……あ」


カイトが声を漏らした。


「これって……」

「公文書偽造の術式ですね」


私は淡々と告げる。


「しかも本人直筆です」

「ち、違う! それは!」

「酒の席での冗談ですか?」


冷たく返す。


「残念ですが」


メモを摘まむ。


「証拠能力は十分です」


ハンスの顔が真っ青になった。


「……社長」


私はアルベルトを見る。


「たまには役に立つことを言いますね」

「たまにはって何!?」


アルベルトが叫ぶ。


「俺これでも社長――」


びくっ。


「ひいっ、リィンちゃん目が怖い!」

「当然です」


私はメモをルルへ渡した。

「ルルさん」


「……はい」


「この術式を解析」


続ける。


「エデンが提出した過去三年分の決算報告書と照合しなさい」

「……了解」


ルルの指が走る。

カタカタカタカタ――

高速入力。


魔力式展開。


解析陣起動。


そして。


「……偽造術式……解除開始」


モニターが赤く染まる。


「……デコード完了」


一拍。


「……出ました」


さらに。


「……全六百ページ分の……粉飾決算データです」


次の瞬間。


王都広場の巨大水晶板に。

“真実”が映し出された。


赤。

赤。

赤。

莫大な赤字。


消えた補助金。


架空経費。


偽造決算。


横領。


脱税。


エデンが隠してきた“腐敗”の全て。


「……な……」


ハンスの口が震える。


「馬鹿な……」


膝が崩れる。


そのまま。

床へ倒れ込んだ。


「そ、それは……!」


泡を吹く。

完全に終わった顔だった。


私はシグルドへ視線を向ける。


「……シグルド様」


静かに。


「あなたが私を追放した本当の理由」


眼鏡を押し上げる。


「それは、私の戦闘能力ではありません」


一拍。


「私の“事務処理能力”が」


さらに。


「あなた方の不正を暴くからですね?」


シグルドの拳が震えた。

でも。

もう反論できない。


「……監査官様」


私は王宮財務局の筆頭監査官を見る。


「わがギルド『ラスト・リゾート』は」


書類を差し出す。


「エデンおよび黄金の聖域による悪質な妨害行為」


続けて。


「ならびに精神的損害、業務停滞、信用毀損に対し」


最後のページ。


「金貨一億枚の損害賠償を請求します」


「い、一億ぅ!?」


カイトがひっくり返った。


「リィンさんそれもう国レベルだよ!?」

「当然です」


私は平然と言う。

「その賠償金は、来期の特別利益として計上します」


一拍。


「これで、わが社の黒字はさらに安定しました」

「黒字の話してる場合ですか!?」


カイトが叫ぶ。

だが私は無視する。


シグルドは。


もう立ち尽くすことしかできなかった。


英雄。

最強。

聖剣。


そんな肩書きは。

数字の前では無力だった。


◇◇◇


「――判定を下します」


静まり返った事務所。


そこに。

監査官の重い声が響く。


彼はルルの解析結果を見た。

裏帳簿を見る。


偽造術式を見る。

ピートの首輪のメモを見る。


そして。

深く。


深くため息を吐いた。

「……これは酷い」


魔導印を掲げる。


次の瞬間――


ドォォォォォォン!!!

轟音。

黄金の魔力が事務所を満たした。


王宮の正式裁定。

絶対判定。


「ギルド『エデン』」


監査官が宣言する。


「およびパーティー『黄金の聖域』による」


一拍。


「長年の粉飾決算、補助金横領、公文書偽造を認定」


空気が凍る。


「ただちに営業許可を無期限停止」


さらに。


「全資産を凍結」


最後に。


「賠償完了まで、主犯格の身柄を拘束する」


「……う、そだ……」


ハンスが崩れ落ちる。


「私の……帝国が……」


床へ突っ伏す。

完全崩壊だった。


一方。


シグルドは違った。


彼は私を睨む。

信じられないものを見るように。


「リィン……!」

怒声。


「君は、自分が何をしたか分かっているのか!?」

さらに。


「英雄である私を失えば、この国の防衛は崩壊する!」

「いいえ」


私は即答した。


「シグルド様」


書類を整える。


「あなたが“英雄”として戦えた理由」


顔を上げる。


「その遠征費」


「装備維持費」


「兵站管理」


「税務処理」


「予算確保」


一拍。


「全部、私です」


沈黙。


「あなたは剣を振った」


私は冷たく続ける。


「ですが」


さらに。


「その剣を振れる環境を維持していたのは、事務です」


解雇通知書を取り出す。


「国民の税金を食い潰した時点で」


最後通告。


「あなたに“英雄”を名乗る資格はありません」


私は冷たく言い放ち、

手元の「解雇通知書」を彼に差し出した。

明日へ続きます。

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― 新着の感想 ―
あーあ、終わっちゃった。 舐めちゃいけないんだよ、事務ってものは。 嘘つきは数字を使う、って言うけど、その嘘を暴くものも、数字なんだよなぁ。
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