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魔王軍、抵抗したので書類で殴ります

「――この案件、もう決着はついています」


空気が止まる。


「ど、どういうことだね……?」


調査官の声が、わずかに裏返った。


私は答えない。


視線だけを動かす。


「シャロンさん」


「は、はい!」


「ギルドに戻ってください」


一拍。


「『魔界労働基準法』最新版と、

『経済特区運用ガイドライン』細則。至急」


「了解っ!」


走る音。


消える。


「ルルさん」


「……はい」


「骨密度と魔力残量を測定」


間を置いて、


「特に“契約魔力”の供給源を追って」


「三〇秒で……出します」


私は、しゃがむ。


床。


転がる頭蓋骨。


指先で拾い上げる。


軽い。


空洞。


その奥。


――紫。


かすかな、残光。


「……見えました」


小さく。


「脱税ですね。魔王軍ホールディングス」


眼鏡を押し上げる。


「なかなか巧妙」


一拍。


「でも――詰めが甘い」


「おいリィン!」


ゼクスが食いつく。


「俺、やっぱり正義だったのか?」


私は笑う。


やさしく。


「いいえ」


即答。


「あなたは引き続き“無能な筋肉だるま”です」


「ぐっ……!」


沈むゼクス。


無視。


「ただし」


視線を戻す。


「相手はそれ以上に悪質です」


「……脱税企業、ですね」


「脱税……?」


調査官が眉を寄せる。


私は出勤簿をひらひらと揺らす。


「このスケルトンたち」


一拍。


「未登録の不法就労者の可能性があります」


「なっ!?」


「労働許可なし」


「納税記録なし」


一歩。


踏み込む。


「この時点で」


「損害賠償請求は成立しません」


「しかし、土地利用許可は――」


「土地と雇用は別です」


間。


静かに。


「もし魔王軍が」


「税逃れのためにアンデッドを“物資扱い”で働かせていたら?」


「そ、それは……」


「神殿にとっては“徴税漏れ”です」


視線を固定。


「見逃せませんよね?」


調査官の顔色が変わる。


私は紙を取り出す。


裏面。


走るペン。


――反撃スキーム。


すでに口座は凍結済み。


足りないのは、あと一手。


有給を取り戻すための。


たった一手。


「魔王軍の“税務監査”をします」


「ぜい?……」


間の抜けた声。


私は笑う。


「……楽しくなってきましたね」


顔を上げる。


「魔王軍法務部さん」


一拍。


「覚悟してください」


そして。


静かに。


「あなたたちが相手にしているのは――」


「定時退社を邪魔された、最も執念深い事務員です」


◇◇◇


王都一等地。


黒いビル。


『魔王軍ホールディングス・王都法務支部』


「失礼します」


一拍。


「――いえ、失礼しました」


受付のガーゴイルが固まる。


「アポはありません」


「緊急監査です」


そのまま通過。


エレベーターへ。


「なあ、ここぶっ壊さなくていいのか?」


「不要です」


「ねえ見て見て! ポーションサーバー無料よ!?」


「触らないでください」


チン。


最上階。


重い扉。


開く。


そこにいたのは――


山羊頭。


悪魔。


バフォメット。


グラスが揺れる。


「……ほう」


低い声。


「金貨一千万も払えぬ弱小が、挨拶もなしか」


机の上。


一枚の紙。


『差押執行予告書』


猫の似顔絵。


ピート。


「……」


胸の奥が冷える。


だが。


止まらない。


「挨拶をしに来たのではありません」


書類を叩きつける。


「差押命令の撤回」


「および請求の棄却を求めます」


「貴様か」


バフォメットが笑う。


「我が軍の口座を凍結した女は」


「フン。だが無駄だ」


余裕。


「物流拠点は破壊された」


「三千の労働力が消えた」


一拍。


「猫は回してもらう」


「発電機としてな」


ゼクスが息を呑む。


シャロンも。


私は――


笑った。


「……物流拠点、ね」


写真を差し出す。


「この“労働力”」


一拍。


「派遣ですね?」


「それがどうした」


「事業計画書では“直雇用”です」


沈黙。


「虚偽報告」


一歩。


詰める。


「二重派遣」


「未登録労働者」


「不法運用」


さらに。


「休憩ゼロ」


「労働時間改ざん」


「魔界労働基準法違反」


「特区ガイドライン違反」


一息。


「コンプライアンス、崩壊しています」


空気が軋む。


「――それと」


紙をもう一枚。


差し出す。


「損害賠償請求ですが」


「……なんだ」


「同一個体の重複計上」


沈黙。


「“廃棄済み”を再計上」


指で叩く。


「――二重請求です」


「なっ……!」


「よって」


一拍。


「請求は無効」


淡々と。


「詐欺未遂です」


静寂。


「屁理屈を……!」


「いいえ」


即答。


「事実です」


そして。


指を立てる。


「徴税局」


もう一本。


「労働監査局」


さらに。


「神殿騎士団」


「特区取消」


「利益消失」


「あなたは更迭こうてつ


グラスが震える。


割れる。


「……くっ!」


魔法陣、起動。


轟音。


だが。


私は一瞥だけ。


「未登録設備ですね」


「なっ!?」


「違法です」


指を鳴らす。


「ルルさん」


「送信……完了」


「何をした!?」


一拍。


「三機関へ同時通報しました」


沈黙。


――直後。


ドン。


ドン。


ドン。


扉。


叩打。


「神殿騎士団だ」


「立入検査を行う」


「魔界監査局だ」


「徴税局だ」


「――なっ……!?」


崩れる顔。


私は書類を置く。


静かに。


「では、改めて」


一拍。


「本件の請求は無効」


「および」


「貴社への監査を開始します」


視線を上げる。


「差し押さえ対象は」


ゆっくり。


「私の猫ではありません」


微笑。


「あなた方の資産です」


一歩。


前へ。


「ピートは回しません」


一拍。


「――回るのは」


止め。


「あなた方です」

※次回へ続きます。

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