このスケルトンたち、派遣社員です
さらに、
ゼクスに事情を確認。
「それで」
「どこで暴れたんですか、ゼクスさん」
「は? 王都の北、『嘆きの廃墟』だよ」
ゼクスは胸を張る。
「魔王軍がゾロゾロ集まっててさ。なんか不気味な歌、歌ってやがった」
ニヤリ。
「俺の直感が言ったんだ。“不審者は叩き潰せ”ってな。正義の鉄槌だぜ!」
「……なるほど」
私は彼の首根っこを掴んだ。
「その“正義”のコストを確認しに行きます」
ずるずる引きずる。
「シャロンさん、馬車を」
「ひぃっ!? は、はい!」
「ルルさん、魔導カメラ。現場検証です」
◇◇◇
王都北方――嘆きの廃墟。
かつての古戦場。
今は――
「……物流センター?」
目の前に広がるのは、戦場ではなかった。
潰れたテント。
折れた資材。
そして。
「……非効率すぎる破壊ですね」
骨。
骨。
骨。
砕けたスケルトンが、そこら中に散らばっている。
だが。
「武装が、ない……?」
オレンジの反射ベスト。
“安全第一”のヘルメット。
手にあるのは――荷札と台車。
「おいリィン。見ろよ、骨が安全第一だってよ。ギャグか?」
「……笑えません」
足元には、潰れた箱。
中身は――
「魔界産、高級マンゴー……」
ぐちゃり。
甘い匂いが、やけに虚しい。
「――あ」
シャロンが固まる。
「神殿騎士団……!」
視線の先。
腕章をつけた役人たちが、無言でメモを取っていた。
最悪だ。
「あー、君たちがラスト・リゾートか」
現れたのは、眼鏡の男。
いかにも官僚。
「困るんだよね、こういう勝手な軍事行動は」
「調査官殿。お疲れ様です」
私は一歩前へ出る。
カバンから、冷えたポーションを一本。
「どうぞ」
「……気が利くね。だが受け取れない」
きっぱり。
そして。
「見たかね、この現場」
指差す。
「昨晩、魔王軍はここに“物流拠点”を設立するための、
正当な土地利用許可を提出している」
「……正当な?」
「ここは戦闘区域ではない。私有地だ」
一拍。
「そこに君たちの勇者が乱入し、夜勤中の作業員三千人を粉砕した」
空気が、凍る。
「これは戦争ではない」
「不法侵入および、連続傷害・器物損壊事件だ」
「……は?」
ゼクスの顔が引きつる。
「さらに」
調査官は続ける。
「魔王軍は現在、“経済協力特区”の認定を受けている」
「彼らが運んでいたのは、特産品だ」
足元のマンゴーを見下ろす。
「これを破壊した。国際通商法にも抵触する」
静かに。
「損害賠償、金貨一千万枚。妥当だ」
「……終わった……」
シャロンが崩れ落ちる。
「破産よ……」
「敵に見えたんだから仕方ねえだろ!」
ゼクスが叫ぶ。
でも。
私は、しゃがみ込んだ。
「……これは」
一枚の紙。
砕けたスケルトンが握っていたもの。
「出勤簿……?」
めくる。
見る。
止まる。
「調査官殿」
立ち上がる。
「一つ、確認を」
「なんだね」
「このスケルトンたちの“雇用形態”です」
「……は?」
「ルルさん。ここ、拡大」
「は、はい!」
魔導カメラが光る。
ベストの裏側。
小さな印字。
『派遣元:魔界人材派遣センター・アンデッド支部』
沈黙。
「……調査官殿」
私は微笑んだ。
「魔王軍の事業計画書、拝見できますか?」
「なに?」
「ご安心を。元・黄金の聖域、管理担当です」
一歩、踏み込む。
「機密保持契約? 神殿の最高法規、暗唱できます」
圧。
調査官が、渋々書類を差し出す。
「……どうぞ」
「ありがとうございます」
パラパラパラパラ。
高速でめくる。
止まる。
見つけた。
「――はい」
書類を閉じる。
「結論です」
全員がこちらを見る。
「この請求」
一拍。
「全額、無効です」
風が止まった。
「……は?」
「事業計画書に、重大な虚偽申告があります」
眼鏡を押し上げる。
「この案件、こちらが“請求する側”です」
「なっ……!?」
「前提が崩れています」
「前提?」
「はい」
指で、出勤簿を叩く。
「このスケルトンたち、派遣社員です」
「……それが?」
「労働者の安全配慮義務は、派遣先にあります」
沈黙。
凍結。
「つまり責任は――」
一拍。
「魔王軍です」
「なっ!?」
「さらに」
出勤簿を掲げる。
「労働時間、改ざんされています」
「夜勤扱いにして、損害額を水増し」
「重大な不正申告です」
淡々と。
「よって本件、魔王軍の管理責任違反」
「監査対象」
「判定」
指を鳴らす。
「本請求、無効」
「および」
一歩、前へ。
「是正勧告と罰則手続きを開始します」
調査官の顔色が変わる。
「……それがどういう意味か、分かっているのか?」
「ええ」
即答。
「御庁案件です」
「この規模の違反。――魔王軍、営業停止の可能性があります」
静寂。
誰も、動かない。
私はゆっくりと告げる。
「安心してください」
一拍。
「差し押さえられるのは」
視線を上げる。
「私の猫ではありません」
微笑む。
「あなた方の“会社”です」
沈黙。
――そのとき。
調査官の懐の魔導端末が、震えた。
ピッ。
短い通知音。
「……失礼」
画面を見る。
そして――
固まる。
「……どうしました?」
私が問う。
返事はない。
調査官の手が、わずかに震えている。
「……本部からだ」
絞り出すような声。
「“魔王軍主要口座、一時凍結”……?」
静寂。
ざわり、と空気が揺れる。
「まさか……」
誰かが呟く。
私は答えない。
ただ、静かに書類を閉じる。
「手続きは、迅速が基本ですので」
一拍。
「もう始まっています」
風が吹く。
誰も、言葉を失う。
そして――
その場にいた全員が、理解した。
この戦いは。
“今から”ではない。
すでに――
取り返しのつかない段階まで進んでいる。
リィンの書類は、
とっくに提出済みだった。
※次回へ続きます。
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