魔王軍からの経営相談
一週間ぶりの更新です!
「……リィンさん、限界……です。……サーバーが
……物理的に……叫び声を……上げてます……」
月曜日の朝。
ギルド『ラスト・リゾート』の事務所に足を踏み入れた瞬間、
爽やかな挨拶の代わりに届いたのは、ルルの悲痛な訴えだった。
二階のサーバー室からは、「ギギギ……」「呪ってやる……」という、
精密機械からはおよそ発せられるはずのない不気味な声が漏れ聞こえてくる。
「おはようございます、ルルさん。
……叫び声、ですか。冷却ファンの異音ではなく?」
「……いいえ。……明らかに……怨念……。
一秒間に……数万通の……『呪い(スパム)メール』が……」
「……呪い(スパム)メール?」
「……エデンの……偽装アドレスから……送りつけられて
……中身は全部……『お前は無能だ』……精神攻撃……」
「なるほど」
私はデスクに座り、魔導端末を起動する。
画面が開いた瞬間、
赤い警告ウィンドウが狂ったように点滅し始めた。
『警告:あなたのギルドは不潔です』
『警告:今すぐエデンに降伏しなければ、全データを消去します』
『警告:リィンは性格が固い。もっと肩の力を抜け』
「最後のは余計なお世話ですね」
淡々と告げる。
「……ハンス様の仕業ですか。
葬儀利権を潰された腹いせに、今度はサイバー攻撃、というわけですね」
「……削除……追いつかない……です……」
「非常に子供じみていますが、業務効率を
著しく低下させている点において、万死に値します」
私はペンを執り、
不当な通信負荷による損害賠償額の算出を始めた。
その時だった。
「リ、リィンさん! 大変だ、変なメールが届いてる!」
カイトが慌てて駆け寄ってくる。
「呪いじゃないけど、内容が……その、異次元すぎるっていうか!」
彼の端末に表示されていたのは、
件名が文字化けし、送信元が『maou-holdings.co.dark』という
禍々しいドメインのメールだった。
「……魔王軍ホールディングス?
競合他社、それも経営陣のアドレスですね」
「中身、読んでみてよ。これ……」
私は端末を受け取り、文面を精査する。
『【重要】弊社におけるテレワーク導入に関する
コンサルティング依頼の件』
読み進める。
『拝啓、ラスト・リゾート事務官リィン殿。
時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、弊社(魔王軍)におきましては、
昨今の勇者軍による進軍ルートの多様化
および、四天王のワークライフバランスの著しい悪化を鑑み、
このたび「侵略業務のテレワーク化」を試験導入する運びとなりました。
しかしながら、現場の執行役員(四天王)からは
「現場に行かないと呪いが薄れる」
「部下の監視ができない」といった反発が強く、
導入が難航しております。
つきましては、
王都で最も冷徹かつ効率的な事務処理を行うと噂の貴殿に、
アドバイザーとしてご助力願いたく――』
「…………」
「助言を求む、ですか」
「リィンちゃん、
それって魔王軍からの経営相談じゃないの!?」
コーヒーを吹き出しながら、
シャロンが叫び。
ゼクスも呆れたように肩をすくめる。
「魔王軍がテレワーク? 冗談だろ」
「あいつら、現場主義の固まりだぜ」
私は小さく頷いた。
「……合理的です。
エデンのような大手による市場支配に対抗するため、
組織改革を急いでいるのでしょう」
「リィンさん、受けるの!? 敵だよ!?
利敵行為になっちゃうんじゃない!?」
カイトが声を上げる。
「いいえ」
即答する。
「これは有償のコンサルティング業務です」
一拍。
「魔王軍がまともな組織運営を覚えれば、無計画な侵略は減る。
結果として、我々の警備コストも削減されます」
「……それに」
私はサーバー室の方を見る。
今もなお、「呪ってやる」という声が響き続けている。
「エデンのサイバー攻撃を逆手に取る、
良い実験体が必要でした」
「え?」
「……ルルさん」
「……はい」
「この『呪い(スパム)』、
魔王軍のサーバーにリダイレクト可能ですか?」
「……!」
ルルの瞳に、
エンジニア特有の光が宿る。
「……可能……です……。……魔王軍の高負荷サーバーに流し込めば
……呪い同士で相殺……。……通信インフラも……流用可能……」
「結構」
私は頷いた。
「決まりですね」
「カイト君」
「は、はい!」
「魔王軍に返信しなさい。初回相談料は金貨十枚。
ただし、通信環境改善の代行を条件に導入支援を引き受ける、と」
「えええええ!?
本当に魔王軍と取引するの!?」
カイトが絶叫する。
「俺、普通のファンタジーがしたいよぉ!」
「却下です」
即答。
私はペンを走らせる。
呪いメール対策。
通信インフラ再設計。
そして魔王軍の働き方改革。
前代未聞のプロジェクトが、同時に動き出す。
「――業務開始です」
エデンによるサイバー攻撃。
魔王軍からのテレワーク相談。
この二つが交錯する時。
私の事務能力は――
現実だけでなく、デジタルの闇すら支配する。
まずは、
魔王軍とのリモート会議だ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
『魔王軍からの経営相談に笑った』
『呪いのメールって何だよ』
『続き気になる』
……と思っていただけたら、
ブクマ・評価・感想をもらえると嬉しいです。
作者のHPと残業代になります。
明日の12:30更新予定です。
魔王軍とのリモート会議を、お楽しみに。




