死者で儲けるな
「なに!」
営業の顔が歪む。
私は視線すら動かさない。
「……これからは」
一拍。
「ランクではなく」
さらに一拍。
「“遺族の生活”を最優先にします」
静かに言い切る。
「新しい葬儀基準は――私が作る」
沈黙。
そして、嘲笑。
「……ふん、後悔するぞ!」
葬儀屋が吐き捨てる。
「そんなケチなギルド、誰も入らん!」
一歩、近づく。
「冒険者ってのはな……」
指を突きつける。
「死ぬ時くらい、華やかに送られたいもんなんだよ!」
そのまま背を向ける。
去っていく。
靴音だけが残る。
――古い価値観。
私はそれを、机の上で解体する。
振り返る。
震えている遺族。
黙り込んだ戦友たち。
私は一枚の紙を広げた。
「……こちらが」
一拍。
「新しい葬儀プラン(暫定版)です」
視線が集まる。
「無駄な装飾は削除」
「過剰な儀礼も削除」
「費用は、生活再建を前提に最適化」
紙をトン、と叩く。
「そして」
一拍。
「故人が“本当に安らげる形”に再設計しています」
静かに。
「……最も事務的で」
「最も誠実な葬儀です」
誰も、言葉を返さない。
だが。
遺族の手が、ゆっくりと紙に伸びた。
――十分。
それでいい。
死という理不尽。
それすら。
私のペンは“救済”に変換する。
だが――
この時の私はまだ知らない。
この改革が。
王都の葬儀利権を握る“何か”の。
逆鱗に触れたことを。
◇◇◇
改革は――
必ず、血を呼ぶ。
翌日。
ラスト・リゾートの前。
空気が違った。
熱い。
重い。
ざわめき。
「――死者の尊厳を汚すな!!」
怒号。
「無血の事務屋を許すな!」
さらに。
「魂を安売りするギルドに、女神の加護はない!」
事務所前は、人で埋まっていた。
神殿の信徒。
煽られた冒険者。
そして――
昨日の葬儀屋。
その隣。
豪奢な法衣の司祭。
――黒幕、見えた。
「リィンちゃん! これヤバいって!」
シャロンが駆け込む。
息が荒い。
「メイン通りに怪文書ばら撒かれてる!」
「内容は」
「『ラスト・リゾートは
遺族から供養の機会を奪う悪徳ギルド』!」
一拍。
「……雑ですね」
「雑で済ませないで!」
さらに。
「冒険者の間でも噂が回ってるの!」
「『リィンは仲間の死を金でしか見てない』って!」
窓の外。
群衆。
プラカード。
叫び声。
「……リィンさん」
ルルが低く告げる。
「……神殿の……影響力……大きい……」
モニターに数値。
「……信用格付け……マイナス三ランク……予測」
「ひぃぃぃ!」
アルベルトが崩れる。
「終わる! 我が社終わる!」
無視。
私は紅茶を一口。
温度、適正。
デスクの書類に、カチリ。
公印。
「……リィン、大丈夫か?」
ゼクスが入ってくる。
頭をさすっている。
「さっき婆さんに杖で殴られたぞ」
「因果応報ですね」
「俺関係ねえだろ!?」
その後ろ。
ドアが開く。
バンッ。
「リィンさん!」
カイト。
泥だらけ。
バケツ持ち。
「契約、取れた!」
息を切らす。
「裏通りの葬儀屋の爺さん!」
「“神殿と大手の癒着は腐ってる”って」
「即OK!」
「よろしい」
私は頷く。
だが。
「……でもさ」
カイトが小さく言う。
「街の空気、最悪だよ」
一拍。
「俺の強運でも、これ無理」
「当然です」
即答。
「これは確率ではなく、構造の問題ですから」
「構造って何だよ……」
私は立ち上がる。
「では」
一拍。
「説明に行きましょう」
「え?」
ゼクスが固まる。
「外、あれだぞ?」
「突っ込むの!?」
「いいえ」
即答。
「事務官として」
一拍。
「“公開監査”を行うだけです」
机の横。
真っ赤な台帳を持つ。
ずしり。
重い。
扉へ。
開く。
――ドンッ。
音の壁。
罵声。
怒号。
「出てきたぞ!!」
「守銭奴!!」
「神罰を!!」
視線が刺さる。
私は一歩。
前へ。
静かに。
中央へ。
司祭が進み出る。
余裕の笑み。
「娘よ」
ゆっくりと。
「勇士の魂を、安物の棺で送る意味が分かるか?」
間。
「それは信仰への冒涜」
さらに。
「遺族の心に傷を残す罪だ」
説教。
完成度は高い。
だが――
古い。
「今すぐ契約を戻せ」
指を立てる。
「寄付金は倍だ」
さらに。
「さもなくば」
一拍。
「呪いが下る」
――脅し。
テンプレ。
私は眼鏡を押し上げる。
カチリ。
そして。
真正面から見据える。
「司祭様」
一拍。
「一つ、確認を」
空気が、わずかに変わる。
「……何だ」
私は台帳を開いた。
ページが鳴る。
バサリ。
「あなた方の言う」
一拍。
「“魂の浄化税”」
視線を突き刺す。
「金貨二十枚」
さらに一歩。
「その算出根拠を」
静かに。
「ご説明いただけますか?」
沈黙。
司祭の眉が、わずかに動く。
――その一瞬を、私は見逃さない。
「……まさか」
小さく、笑う。
「“神託”ですか?」
ざわり。
群衆が揺れる。
司祭の口元が、引きつった。
「……あるいは」
ページをもう一枚、めくる。
「“帳簿”ですか?」
一拍。
「神殿内部の」
「未公開の」
「収支記録」
凍る。
空気が、完全に止まる。
私はゆっくりと顔を上げた。
「安心してください」
静かに。
「もう写しは取ってあります」
ざわ――っ。
群衆のざわめきが、恐怖に変わる。
司祭の顔から、血の気が消えた。
「な……にを……」
私は台帳を閉じる。
パタン。
「では」
一歩。
踏み出す。
「公開監査を始めましょう」
微笑む。
「神殿の“中身”から」
――その瞬間。
誰かが、息を呑んだ。
そして理解する。
これは、ただの葬儀の話ではない。
神殿そのものを――
引きずり下ろす戦いだと。
◇◇◇
次回――
「事務官は“魂の値段”を許さない」
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