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不祥事は、こうして“勝ち”に変える

「勇者が酒を飲んで暴れた話と――」


一拍。


私はゆっくりと言葉を置く。


「最大手ギルドが市民を爆発の危険に晒し」


さらに。


「それを他社になすりつけようとした、巨悪の陰謀」


静寂。


「くっ、リィン……貴様……!」


ハンスの声が震える。


私は肩をすくめる。


「……どちらが売れるかは、明白ですよね?」


その瞬間。


記者たちの目の色が変わった。


――捕食者。


完全に。


獲物を見つけた目だ。


さっきまでゼクスを追っていたペンが、止まる。


そして。


一斉に。


向きを変える。


ギギギ、と音がしそうなほど、同時に。


壇上のハンスへ。


無数の魔導カメラ。


まるで――銃口。


「ハンスさん! 隠蔽工作は事実ですか!?」


「エデンは他にも危険な施設を放置しているんですか!?」


「責任は!? 謝罪は!?」


怒号。


質問。


圧。


「ち、違う! 私は……私は……!!」


言葉が出ない。


崩れる。


あのハンスが。


かつて私を「無能な事務屋」と切り捨てた男が。


今。


自分の“正確な処理”に、締め上げられている。


――因果応報。


私は舞台袖に下がる。


震えているゼクスの肩を、軽く叩いた。


「ゼクスさん。出番です」


「ま、まだあるのかよ……」


「あります」


即答。


私は耳元で囁く。


「今度は“本物”で」


一拍。


「こう言ってください」


『私は利用されただけですが、街が救われたなら本望です』


『……おじさんと呼ばれても、構いません』


「……リィン」


ゼクスの顔が引きつる。


「お前、悪魔か?」


「いいえ」


即答。


「ただの事務員です」


ゼクスは理解した。


ここで乗らなければ終わる。


一生。


“おじさん”のまま終わる。


前科者として。


だから――


「……くそ」


一歩。


壇上へ。


歩き出す。


その瞬間。


ワァァァァ――!!


拍手。


さっき以上。


いや、比べ物にならない。


“悲劇の英雄”への拍手。


完成した。


私は冷めた紅茶を飲み干す。


最後の一口まで。


そして。


カバンの中に。


――一枚。


「追加請求書(ハンス宛)」を、静かに滑り込ませた。


不祥事対応の「転」。


それは。


最悪の失態を。


相手を殺す“証拠”へと変換する技術。


――リィン式。


◇◇◇


会見は終わった。


いや。


正確には。


「エデン糾弾大会」が終わった。


ハンスは囲まれた。


怒号。


罵声。


追及。


最後は――


エデンの警備魔法師に引きずられるように退場。


完全敗北。


一方。


ゼクス。


「街を救うために汚名を背負った勇者」


として。


市民に見送られる。


拍手。


少しの同情。


そして、確かな評価。


――逆転完了。


◇◇◇


ラスト・リゾート事務所。


帰還。


そこには。


死んだ男が二人。


「……リィン」


ゼクスがソファに沈む。


「俺、もう一生分演技した気がする」


一拍。


「“おじさん格好いいだろ?”とか……二度と言わねえ……」


魂が抜けている。


横でカイトも崩れていた。


「俺の強運……」


机に突っ伏す。


「完全に演出機材だった……」


「お疲れ様です」


私は淡々と言う。


「お二人の貢献により」


一拍。


「当ギルドの評価は」


「“危険なベンチャー”から」


「“巨悪を暴く少数精鋭”へと更新されました」


「更新って言うな……」


無視。


「シャロンさん」


「は、はい!」


「反応は」


シャロンが端末を操作する。


そして。


爆発。


「すごいわよ!!」


「『#ゼクスおじさんを信じろ』がトレンド1位!!」


「寄付金も三倍!!」


「エデンの株価、崩壊中!!」


「よろしい」


私は頷く。


「ルルさん」


「……はい」


「余剰寄付金の処理を」


「……了解」


カタカタ。


「慰謝料名目で……福利厚生費へ……振替完了」


「はやっ!?」


カイトが突っ込む。


当然。


「これで次回の修繕費も確保済みです」


「次回ってなんだよ……」


無視。


社長室のドアが開く。


アルベルト。


おそるおそる。


「り、リィンちゃん……」


「会見は……?」


「問題ありません」


即答。


「完全勝利です」


「そ、そうか……」


「良かった……本当に良かった」


心底、安心。


役立たず。


その足元で。


「ニャーン♪(よかったね)」


ピート。


平和。


私は一枚の書類を取り出す。


――領収書。


ハンスに渡したもの。


「リィン、それ何だ?」


ゼクスが聞く。


「請求書か?」


「いいえ」


私は眼鏡をクイと押し上げる。


「“受注書”です」


「……は?」


「勇者ゼクスによる賢者像解体工事」


一拍。


「特別受注扱い」


沈黙。


「エデンは管理ミスを認めました」


「なら」


「あなたの行為は」


一拍。


「立派な“業務”です」


「……待て」


ゼクスが固まる。


「ってことは」


「俺」


「犯罪者じゃない?」


「はい」


「正式な業者です」


「なにぃ!?」


「さらに」


私は続ける。


「緊急対応費加算」


「三倍報酬」


「やった!!」


ゼクスが立ち上がる。


しかし。


「なお」


一拍。


「全額、ギルドが回収済みです」


「は?」


「あなたの取り分は」


「二日酔いによる遅延損害金と相殺」


「つまりゼロです」


「ふざけんなぁ!!」


絶叫。


だが。


その顔は――


どこか、安心していた。


今回の件。


それは。


事実を消すことではない。


事実に。


“意味”を乗せる作業。


エデンは信用を失った。


そして。


我が『ラスト・リゾート』の名は広がる。


私はカイトを見る。


「……これが」


一拍。


「世論操作です」


「操作って言っちゃってる!」


「覚えましたか?」


カイトが真剣な目で言う。


「……事務員って」


一拍。


「世界、動かす仕事なんだな」


私はピートを抱き上げる。


「大袈裟です」


窓の外。


夜景。


「帳簿を合わせているだけですよ」


「それがすごいんだって!」


無視。


「明日から」


私は告げる。


「エデンへの損害賠償請求を本格化します」


一拍。


「遅刻は認めません」


「えええええ!?」


一同悲鳴。


その中で。


カチリ。


公印の音。


静かに響く。


次に私が切るのは――


冒険者業界に巣食う、


“葬儀費用ぼったくり”の闇だった。

【読者様へのお願い】

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

来週日曜日の更新をもって、当面の間、更新日を毎週土・日のみに変更させていただきます。

現在ストックが尽きており、作品の品質を維持するための判断となります。

より面白い作品をお届けできるよう努めてまいりますので、何卒ご理解いただけますと幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。(作者)

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