最大手ギルドの不正、暴露します
【項目:像の不法解体費用(無償奉仕につき、
ギルド負担分を広告宣伝費に振替)】
「……計算通りです」
私は小さく呟く。
「カイト君の強運は、
“嘘を真実に見せる方向”で収束しましたね」
「え、俺そんなスキルだったの!?」
「はい。非常に優秀です」
「いや今初めて聞いたんだけど!?」
無視。
会場は完全にこちらの流れ。
記者たちは“美談”を書く手を止めない。
――勝ち。
誰もが、そう思った瞬間だった。
パン、パン、パン。
ゆっくりと。
冷たい拍手。
空気が、凍る。
場が、静まる。
「――実に見事だな、リィン」
低い声。
「相変わらずだ。その“事務的捏造術”は」
人混みが割れる。
現れたのは――
エデンの若き幹部。
財務官、ハンス。
勇者パーティ『黄金の聖域』時代。
賢者を務めた男。
「……ハンス様」
私は視線だけで迎える。
「アポ無しの取材参加は、
弊社規程によりお断りしておりますが?」
私の声は氷点下より、なお冷たい。
「規程?」
ハンスが笑う。
「そんなもの、この“真実”の前では無意味だ」
掲げられる魔導端末。
――ブツン。
スクリーンが切り替わる。
ノイズ。
歪み。
そして。
映る。
「今おじさんって言ったやつ、表へ出ろぉー!!」
千鳥足。
真っ赤な顔。
ゼクス。
そのまま――
ドゴォ!!
像にラリアット。
無加工。
完全な“真実”。
「…………」
静寂。
完全停止。
ゼクスの顔色が、メイクを超えて白くなる。
カイトが私を見る。
「……あ、これ終わった」
という顔をしてる。
ハンスが一歩前へ出る。
私を指差す。
「リィン。終わりだ」
冷笑。
「偽証、業務妨害、詐欺」
「加えて、名誉棄損だ」
「さて、どう責任を取る?」
――絶体絶命。
だが。
私は眼鏡をクイと押し上げる。
そして。
公印を、軽く叩いた。
コツ。
「……ハンス様」
一拍。
「その映像」
視線を向ける。
「“どこから入手したか”、説明できますか?」
「……何?」
「まさか」
少しだけ、笑う。
「それが“正規ルート”だと思っているのですか?」
空気が揺れる。
「……シャロンさん」
「は、はい!」
「今の発言、記録を」
「え、う、うん!?」
ハンスの眉が動く。
「何を言っている?」
私はカバンから封筒を取り出す。
赤い。
嫌な色だ。
掲げる。
【件名:公的不正アクセスに関する
損害賠償請求および告発状】
「なっ……」
「その映像」
淡々と。
「昨夜、午前二時四十五分」
一歩、詰める。
「警備魔法陣のバックアップから、
“無許可で”ダウンロードされています」
沈黙。
「……ルルさん」
「……はい」
「ログ、開示」
「了解……です」
スクリーン再起動。
今度は、別の映像。
ログの羅列。
侵入経路。
アクセス記録。
そして。
ハンスの識別コード。
「……逆探知、完了」
ルルの声が響く。
「エデン内部端末からの不正アクセス、確認……しました」
ざわっ。
ざわっ。
記者たちがどよめく。
ハンスの顔が歪む。
「ば、馬鹿な……」
「ちなみに」
私は続ける。
「そのデータ」
一拍。
「“囮”です」
「……は?」
「ハニーポット」
微笑む。
「踏みましたね」
空気が、反転する。
「本物を、出します」
私は軽く頷く。
ルルが操作。
映像が切り替わる。
今度は――
別の“真実”。
『ハンス様、像がもう限界です!』
『修理しないと爆発します!』
『……黙れ』
ハンスの声。
冷たい。
『今さら管理ミスを公表できるか』
『誰かが壊すのを待て』
『事故に見せかけろ』
「――」
完全沈黙。
会場の空気が、凍る。
「な、ななな……!」
ハンスの声が裏返る。
「そ、それは偽造だ! 捏造だ!!」
「いいえ」
即答。
私は指を向ける。
「これが“無加工の真実”です」
一歩。
踏み込む。
「あなたは知っていた」
「像が危険だと」
「爆発する寸前だったと」
さらに。
「そして」
一拍。
「だから壊させた」
ざわっ。
「ゼクスさんに」
「……!」
ゼクスが固まる。
「酒場にサクラを配置」
「“おじさん”と煽らせた」
「暴れさせた」
「違いますか?」
「そ、それは……!」
言葉が出ない。
詰み。
私は静かにまとめる。
「つまり」
一拍。
「エデンは」
「管理ミスによる爆発事故を隠蔽するため」
「わが社の勇者を利用した」
「不法解体を肩代わりさせた」
沈黙。
カイトが小声で。
「リィンさん、それ強引すぎない?」
無視。
事務は結果がすべてだ。
「……ハンス様」
さらに追撃。
「先ほどの映像」
指差す。
「あなた自身が“現場に関与していた証拠”です」
「証拠隠滅の、ね」
息を呑む音。
私は会場を見渡した。
記者たちと目が合う。
一人、また一人。
理解していく。
どちらを書くべきか。
どちらが“売れるか”。
私は最後に、静かに言った。
「――さて」
一拍。
「どちらの“真実”を記事にしますか?」
次回へ続きます。
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