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天才は管理しないと爆発します

宙に浮かぶ、無数の歯車。


ゆっくりと脈打つ、人工の魔導心臓。


壁一面には、黒板いっぱいに這い回る数式。


――人間には、解読不能。


そして、部屋の隅。


魔改造された自律型掃除機が、

爆発で飛び散った部品を回収しながら――


「マッサツ……不法侵入……マッサツ……」


と、物騒すぎる音声を垂れ流している。


「……リィンさん。……ようこそ……」


ルルが、巨大な多重レンズのゴーグルを跳ね上げた。


「……今……ちょうど……『事務作業の完全自動化』の」


「……最終フェーズ……だったのに……」


口を尖らせる。


不満げ。


「完全自動化、ですか」


私は一歩踏み込む。


「事務官としては非常に魅力的な響きですが」


視線を天井へ。


ぽっかり空いた穴。


「その結果が天井爆破では、

コストパフォーマンスが悪すぎます」


ルル、無言。


私は手帳を開く。


「……さて、ルルさん。このラボに計上されている

今月の備品購入費は金貨十枚」


一拍。


「しかし」


私は、中央を指差す。


「この『時空を歪めていそうな巨大な円筒形装置』」


銀色の円筒。


周囲の光を吸い込み、低く唸る。


ヴォォォ……。


「どう見ても、金貨五十枚は下りませんよね?」


ルル、目を逸らす。


「……それは……余ったパーツで……作った……エコモデル……」


「嘘をおっしゃい」


即答。


「その輝き、魔界産の高純度オリハルコンです」


一歩詰める。


「どこから予算を引っ張ってきたんですか?」


沈黙。


そして。


「……えっと……」


目が泳ぐ。


「……勇者……ゼクスさんの……」


「『筋トレ用ダンベル代』の名目で……発注……」


嫌な予感しかしない。


「……重量は……同じ……」


「だから……虚偽記載……じゃない……」


「立派な虚偽記載です!!」


即断。


手帳に大きくバツ。


ゼクス。


完全に何も考えずに判を押したな。


後で処分。


スクワット一万回(発電機付き)。


「カイト君」


私は振り返る。


「そのバケツ、置いて」


「え、あ、はい!」


ドロドロが跳ねる。


ぴちゃっ。


「……ルルさん」


私は円筒を指す。


「この装置の目的を三行以内で説明しなさい」


一拍。


「未承認の研究は、この場で凍結します」


ルル、観念したように口を開く。


「……一。……事務書類の……多重並列処理」


「……二。……リィンさんの……思考パターンを……コピー」


ここまではいい。


「……三。……未来の……領収書を……予測して」

「……先に……ハンコを……押す」


「三番目が致命的アウトです!!」


即断。


未来の領収書に押印。


それは事務ではない。


予言か、捏造だ。


「それが監査で見つかったらどうなるか分かりますか?」


「……解体……?」


「一発アウトです」


組織的公文書偽造。


即死。


私は眼鏡をクイと押し上げる。


「いいですか、ルルさん。

技術の進歩は素晴らしい」


一歩。


「ですが」


さらに一歩。


「あなたの開発には『ガバナンス』が欠如しています」


「ガバ……何?」


「『管理体制』です!」


ルル、


しゅん。


「……次」


手を差し出す。


「開発工程表(仮)を提出」


ルルが渋々差し出した羊皮紙。


油汚れ。


謎の液体。


そして――


『すごいやつを、ドカンと作る』


『……明日までに。……たぶん』


「…………」


沈黙。


私はカバンから取り出す。


プロジェクト管理専用・魔法定規。


「ルルさん」


静かに告げる。


「これは進捗ではありません」


一拍。


「ただの願望です」


私は黒板へ向かう。


「……カイト君。よく見ていなさい」


チョークを握る。


ギギギ、

と音を立てて線を引く。


巨大なガントチャート。


「これが」


振り返る。


「天才を管理するための『事務の檻』です」


カイト、固まる。


私は指を走らせる。


「まず、全プロジェクトの洗い出し」


「一、自動押印機」


「二、産業廃棄物の資源化回路」


「三、この危険物」


円筒を指す。


ヴォォォ……。


「……ルルさん」


「それぞれのクリティカル・パスは?」


「どこが遅れると、天井が吹き飛びますか?」


ルル、少し考える。


「……クリティカル……?」


そして。


「……だいたい……冷却水が……」


「切れた時……ドカン……」


「把握しました」


即処理。


「カイト君」


「はい!?」


「あなたのタスクです」


「えっ」


「三十分ごとに温度測定。記録」


「えっ」


「冷却水残量チェック」


「えっ」


「異常時、即報告」


「えっ」


私は淡々と続ける。


「あなたの強運があれば、

爆発直前に『たまたま』気づくでしょう」


「俺センサー役なの!? 」


「命がけじゃん!?」


「仕事です」


即答。


私はルルへ向き直る。


「……次に、この円筒装置」


軽く叩く。


ヴォン、

と低く鳴る。


「備品としては認めません」


「……はい……」


「資産として再定義します」


ルル、ため息。


「減価償却期間、五年」


「……ごねん……」


「その間に無許可爆発で破損した場合」


一拍。


「残存価格、全額ルルさん負担」


「……うう……」


肩が落ちる。


「……リィンさん……冷酷……」


「事務です」


「……物理法則より」


「……厳しい……」


「当然です」


静かに。


「物理法則は交渉できませんが、

事務は交渉できますから」


ルル、完全沈黙。


私は手帳を閉じる。


「さて」


「整理完了です」


一拍。


「ルルさん」


「今すぐ、この装置の

安全停止マニュアルを作成してください」


「……はい……」


次に。


「カイト君」


「はい……」


「ラボの清掃」


「はい……」


「特にあの『マッサツ』と呟いている掃除機」


掃除機、こちらを向く。


「マッサツ……」


「武装解除」


「武装あるの!?」


「あるから言っています」


カイト、青ざめる。


私は踵を返す。


「……私は一階に戻ります」


「このラボの『特別危険手当』の

予算修正案を作成しますので」


一歩。


二歩。


その時だった。


ズズズズズ――。


ラボ中央に鎮座する円筒装置が、

それまでとは明らかに違う。


重く、嫌な音を発し始めた。

次回へ続きます。

面白かったら、ぜひブクマ・感想をお願いします。

創作の燃料になります。

リアクションだけでもお願いします。

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