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勇者カイト、事務手続きに敗北す

読んでためになるファンタジー

その瞬間――空気が、ピタリと止まった。


「運命があなたを助けるというなら――」


私は一歩、踏み込む。


「その運命ごと、差し押さえます」


カイトの瞳が、見開かれる。


「は……?」


逃げ場なんて、最初からない。


「判定:――物理的・法的・概念的」


一拍、置いて。


「すべてのルートにおいて、

あなたの『偶然』は一切、認めません」


――ドンッ!!


私の公印が、カイトの剣先に叩きつけられた。


その瞬間。


見えない何かが、世界に“固定”される。


「なっ……!?」


カイトの剣から溢れていた“幸運の光”が――


スゥ、と、消えた。


「なんで……光が……」


「終わりです」


淡々と告げる。


「あなたの奇跡は、すべて“未承認”です」


全職種カンストの魔力が、公印から流れ込む。


それは力じゃない。


“処理”。


“確定”。


“逃げ道の消去”。


カイトの奇跡は、


事務手続きという現実に、敗北した。


◇◇◇


「うわあああああ!!」


カイトが叫ぶ。


剣を振る。


振る。


振る。


――当たらない。


――何も起きない。


「なんでだよ!!」


ズルッ。


足がもつれて、盛大に転倒。


ゴンッ!!


石畳に顔面ダイブ。


「いっっっっったぁ!!?」


「……はい、通常運転です」


私は手帳をめくりながら言う。


「それが“普通”です、カイト様」


かつての“無敵の勇者”は、もういない。


そこにいるのは――


ただの、転びやすい少年だ。


「ふざけるなよ……!」


カイトが涙目で叫ぶ。


「俺は……選ばれたんだぞ……!」


「ええ」


即答する。


「ですが、選ばれただけで

働かない人材は、普通に切られます」


そのとき。


「……もういい」


冷たい声。


振り向かなくても分かる。


シグルドだ。


「カイト。君は“使えない”」


「え……?」


空気が凍る。


「価値があるのは“結果”だけだ」


「……」


「運頼みの男に、我々の席はない」


カイトの顔が、真っ白になる。


「リィン」


シグルドがこちらを見る。


「その不良債権、くれてやる」


「なっ……」


「本日付で、勇者カイトは解雇だ」


淡々と。


あまりにも、あっさりと。


「損害もすべて本人負担」


「シグルドさん!!」


カイトが叫ぶ。


「俺、あんたのために――」


「勘違いするな」


バッサリ。


「君は“利用されていただけ”だ」


静寂。


その一言で、全部終わった。


「……行くぞ」


シグルドたちは、振り返らない。


去っていく。


置き去りにされたのは――


カイトだけ。


「……あは」


小さく笑う。


「そっか……」


笑いが、歪む。


「俺……また、捨てられたんだ」


空気が変わる。


ゾワッ、と。


嫌な気配。


「……だったらさ」


カイトが顔を上げる。


目が、壊れていた。


「全部、壊れちゃえばいいよなぁ!!」


ドンッ!!


魔力が爆発する。


「――まずい」


ルルが即座に反応。


「確率……崩壊……特異点……!」


地面がめくれ上がる。


空が紫に染まる。


建物が、軋む。


「半径三キロ……飲み込まれます……」


「はぁ……」


私は、ため息をついた。


「ほんと、これだから素人は」


カイトはもう止まらない。


暴走。


完全な暴走。


「消えろ!!全部!!」


巨大な魔力が収束する。


広場ごと吹き飛ぶ一撃。


――だが。


「“リセット”?却下です」


私は歩き出す。


一直線に。


爆発。


瓦礫。


魔力。


全部、目の前で消える。


まるで、


“存在を認められていない”みたいに。


「来るな!!」


カイトが絶叫する。


「お前もそのハンコも大嫌いだ!!」


「でしょうね」


私は止まらない。


「ですが、嫌いで済む話ではありません」


ドォン!!


魔力が放たれる。


山を砕く一撃。


でも私は――避けない。


カバンから取り出す。


一冊の巨大な台帳。


「判定:――強制執行」


それを、正面に構える。


衝突。


――爆発しない。


代わりに。


スゥゥゥ……


魔力が、吸い込まれていく。


「な……!?」


カイトの目が見開かれる。


「消えてる……!?」


「いいえ」


私は答える。


「記帳です」


一文字ずつ。


ページに刻まれていく。


暴力の記録。


損害の履歴。


責任の所在。


「あなたの行為はすべて――」


私は宣言する。


「“負債”として処理されました」


「負債……?」


「無断魔力放射」


「環境破壊」


「精神的テロ」


淡々と列挙。


「全部、確定です」


バタン。


台帳を閉じる。


そして――


公印を叩きつける。


「判定:――却下!!」


ガシャァァン!!


世界が、割れる。


カイトを包んでいた光が、


粉々に砕け散った。


静寂。


煙。


そして。


膝をつく少年。


「……なんで……」


息も絶え絶えに呟く。


「俺……神様にもらったのに……」


私は見下ろす。


「もらったのは“道具”です」


一歩、近づく。


「責任は、あなたのものです」


カイトは答えない。


もう、反論する力もない。


「あなたは一度も」


静かに言う。


「自分の力で失敗していない」


だから。


「立て直し方を知らない」


沈黙。


私はしゃがみ込む。


そして、一枚の紙を差し出した。


「……はい」


カイトが顔を上げる。


震える手。


「なに……これ」


「再雇用契約書です」


間髪入れずに。


「更生プログラム付き」


「……は?」


「借金返済、責任教育、労働訓練」


淡々と読み上げる。


「全部セットです」


「いやだ!!」


即答。


「俺は勇者だぞ!!」


「ええ」


頷く。


「今日から“元”ですが」


「ぐっ……」


詰む。


完全に詰み。


逃げ道ゼロ。


私はニコリと微笑む。


「安心してください」


優しい声で。


「ブラックではありません」


一拍。


「ちゃんと残業代は出ます」


「そこかよ!!」


広場に、ツッコミが響いた。


◇◇◇


戦いは終わった。


だが――


これは終わりじゃない。


始まりだ。


「……さて」


私は立ち上がる。


「新入社員の教育、始めましょうか」


カイトが絶望した顔でこちらを見る。


その横で、ルルがぽつり。


「……書類……三千枚……用意してあります……」


「やめてくれええええ!!」


悲鳴が、王都に響いた。

※次回へ続きます。

ブクマ・感想待ってま~す。

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