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幸運のツケ、回収します

「……なんだよ、これ」


カイトが剣を振る。


「俺の剣が、光らない……?」


◇◇◇


王都の広場。


そのど真ん中で、勇者カイトが

何度も黄金の剣を振り下ろしている。


ぶん、ぶん、ぶん。


――当たらない。


さっきまでなら。


適当に振るだけで、

「偶然」敵の急所に当たっていた。


地面が勝手に割れて、

衝撃波が走って、

まとめて吹き飛んでいた。


なのに今は。


「……当たらない?」


ただの空振り。


それどころか――


ぐきっ。


「あ」


次の瞬間。


カイトの足がもつれる。


左右の靴紐が、

見事に絡み合い――


ドンッ!!


顔面から地面に激突。


「いっっっっっ!!?」


派手に転んだ。


完璧に転んだ。


誰が見ても、ただの転倒。


「なんでだよ!?」


カイトが涙目で叫ぶ。


「今のはさ!転んだ拍子に敵の攻撃避けて、

ついでにカウンター入る流れだろ!?」


ならない。


「ただ痛いだけなんだけど!?」


◇◇◇


「当然です」


私は手帳をめくりながら答えた。


「カイト様」


淡々と。


「この半径五十メートル以内は現在」


パラリ。


「『事象確定・特別監査区域』です」


カイトが固まる。


「ここでは」


さらに一枚。


「神様の加護のような『外部ブースト』はすべて」


一拍。


「――一時預かり(デポジット)扱いになります」


◇◇◇


周囲の騎士たちがざわつく。


そして。


「……ぷっ」


誰かが吹き出した。


「あはははは!!」


笑いが広がる。


「勇者が転んだ!」


「だっさ!」


完全に、ただの笑いもの。


今までなら。


その笑いすらも、

「敵の油断を誘う幸運な演出」になっていたはず。


でも今は違う。


ただの失態。


ただの事故。


ただの恥。


カイトの顔が赤くなる。


「ふざけんなよ!!」


立ち上がる。


「俺の強運は神様にもらった最強のギフトなんだぞ!?」


剣を握る手が震える。


「こんな紙切れとハンコで止まるわけ――」


「紙切れではありません」


即答。


「『法的拘束力を持つ命令書』です」


◇◇◇


カイトが言葉に詰まる。


私は一歩、前へ。


「カイト様」


静かに続ける。


「あなたの幸運は」


「この世界の因果律への」


一拍。


「――不当介入です」


「はぁ!?」


理解していない顔。


当然。


「例えば」


私は彼のポケットを指差した。


キラリと光るもの。


「あの宝石」


「え?」


カイトが触る。


「ああ、これ?」


軽いノリ。


「さっき拾ったやつだけど」


「そうでしょうね」


私は頷く。


「では確認します」


一つずつ。


「この広場の地下には公共排水管があります」


「……それが?」


「あなたが石を蹴った」


「うん」


「その振動で排水管が破損」


「は?」


「本来、行政が数年かけて

回収するはずだった堆積物が露出」


「いやいやいや」


「それを」


私は言い切る。


「あなたが『無許可で採掘』した」


沈黙。


「……え?」


「つまりその宝石は」


一拍。


「公共資産の不正取得です」


◇◇◇


「だから何だよ!!」


カイトがキレる。


だが。


私は表情を変えない。


「……わかりますか?」


静かに。


「あなたの幸運は」


「常に誰かの損失の上に成り立っている」


カイトの口が止まる。


「え……」


「俺……そんなつもりじゃ……」


「関係ありません」


即切り。


「『知らなかった』は免責理由になりません」


手帳を閉じる。


「占有離脱物横領」


「および公物毀損」


淡々と。


「該当の可能性があります」


◇◇◇


カイトの顔が青ざめる。


その横で。


「……リィンさん」


ルルがぼそり。


「準備……できてます……」


「お願いします」


私は頷いた。


◇◇◇


ガコン。


装置のレバーが落ちる。


空気が変わる。


重い。


黒い。


カイトの周囲に、

どす黒いオーラが漂い始めた。


「な、なんだこれ……!?」


カイトが後ずさる。


「それは」


私は説明する。


「あなたが今まで踏み倒してきた」


一拍。


「――幸運のツケです」


◇◇◇


ぶんっ!!


カイトが剣を振る。


ガッ。


引っかかる。


マントに。


「うわっ!?」


さらにバランスを崩す。


ザシュッ。


自分の足を切りかける。


「危なっ!?!?」


「なんだよこれ!?」


叫ぶ。


「不運すぎるだろ!!」


「いいえ」


私は冷静に言った。


「それが通常ノーマルです」


◇◇◇


「あなたは今まで」


一歩近づく。


「一度も」


視線を合わせる。


「自分の実力で危機を回避していない」


「……っ」


言葉が詰まる。


◇◇◇


「さて」


私は話題を変える。


「雇用契約についてですが」


紙を取り出す。


ビラリ。


「これ、あなたの契約書の写しです」


「え?」


カイトが目を見開く。


「どこでそれ……」


「ゴミ捨て場です」


即答。


「命懸けで回収しました」


◇◇◇


「第十四条」


指でなぞる。


「『本人の能力に依存しない利益は、

全額ギルドが管理する』」


「……え?」


「不可視インクです」


「……え?」


理解が追いつかない顔。


「つまり」


私はまとめる。


「あなたが運で勝てば勝つほど」


一拍。


「利益はすべてエデンに帰属」


「あなたには」


静かに。


「――一銅貨も入りません」


◇◇◇


「……は?」


カイト、完全停止。


ゆっくりと、


シグルドを見る。


シグルド、目を逸らす。


舌打ち。


それが答えだった。


◇◇◇


「そんな……」


カイトの声が震える。


「俺……勇者で……」


「神様に選ばれて……」


「一番ラッキーで……」


崩れる。


◇◇◇


「ラッキーだけで生きられるのは」


私は淡々と言った。


「チュートリアルまでです」


一歩、踏み込む。


「ここからは」


「管理と責任」


一拍。


「――本編ですよ」


◇◇◇


「管理……?」


カイトが呟く。


「責任……?」


「はい」


即答。


「では請求です」


紙を差し出す。


「広場の修繕費」


「飛竜の卵の損害」


「合計、金貨二百枚」


「は?」


「なお」


淡々と。


「エデンは支払い拒否しています」


「本人過失との判断です」


◇◇◇


「に、二百枚!?」


カイト絶叫。


「そんなの持ってない!!」


「でしょうね」


私は頷く。


「なので提案です」


一拍。


「あなたの幸運を担保に」


「新しいプログラムを組みます」


「……プログラム?」


「更生プログラムです」


にっこり。


「労働」


◇◇◇


「は?」


「今後は」


私は続ける。


「運ではなく」


「指先で戦っていただきます」


「書類と」


「山ほど」


◇◇◇


「いやだぁぁぁ!!」


即拒否。


「俺は勇者だぞ!!」


「戦って!」


「モテて!」


「楽して生きるんだ!!」


叫ぶ。


全力で。


◇◇◇


そして。


最後の足掻き。


「うおおおおお!!」


剣を突き出す。


その瞬間――


カイトの中の「強運」が、


最後の反発を見せた。


ピカァァァ!!


光。


雷。


ドォォォン!!


落雷が走る。


偶然。


奇跡。


軌道が変わる。


剣先が――


ルルの装置の「緊急停止ボタン」へ。


一直線。


◇◇◇


「――無駄ですよ」


私は一歩踏み込む。


ひらり。


取り出す。


ただの紙。


請求書。


それを――


スッ。


剣の軌道に差し込んだ。

※次回へ続きます。

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