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エデンとの買収戦争始まる

痛快リーガル・ファンタジーです。

「シグルド様。あなたが私を

『荷物持ち』だと笑っていた間――」


私は一歩も引かず、静かに告げた。


「私はずっと、あなたが“接待”と称して王宮の貴族に

流した金の動きを、全部、頭の中で台帳に記録していました」


「な、何のことだッ!」


「ハンス様」


視線を横へ。


「あなたが“事務処理の遅延”を

理由に切り捨てた冒険者たち――」


一拍。


「その損失、あなた個人の投資失敗の

穴埋めに使っていましたよね?」


「だ、だまれ……!」


ハンスの顔が歪む。


「証拠があるのか!? そんな口先だけの――!」


「証拠なら」


私は、ゆっくりと指を上げた。


「今この瞬間も、収集中ですよ」


ピタリ。


シャロンのバニー耳を指差す。


「この装備に搭載された高感度センサーは、

この空間の“魔力の揺らぎ”を解析します」


淡々と。


「嘘をついた時の微細な変化、

動揺による波形の乱れ――」


さらに一歩踏み込む。


「それらを数値化し、

神殿の記録端末へリアルタイム送信中です」


「なっ……!?」


眼鏡を、クイ。


「今の発言、すべて――」


一瞬、間を置いて。


「“公文書偽造の自白”として、

正式に受理されました」


「ば、馬鹿なッ!?」


「リ、リィンちゃん……」


後ろでシャロンがぽかんとしている。


「私のバニー耳……そんな機能あったの……?」


――ない。


ただのハッタリだ。


ルルが適当に数値を出しているだけ。


でも。


“やましい人間”には、それが本物に見える。


逃げ場のない、証拠に。


「ぐ……!」


シグルドの顔が真っ赤に染まる。


そして――


ギィン。


聖剣『グラム』が抜かれた。


圧倒的な光。


事務所の壁が、軋む。


「リィン……!」


低い声。


殺意が乗る。


「君だけは、ここで殺す」


空気が震えた。


「どんな証拠も、お前が死ねば無意味だ!!」


「……残念です」


私は、わずかに目を細める。


「最後に頼るのが“力”ですか」


首を傾ける。


「それ、最も管理しやすくて――」


淡々と。


「“費用対効果の低い資産”ですよ」


「黙れェ!!」


振り下ろされる聖剣。


光が、迫る。


その瞬間――


私は、カバンから一冊の書類を抜き取った。


未決済。


未処理。


未承認。


そのまま、剣先へ滑り込ませる。


「判定――執行停止サスペンド


ピタリ。


光が、止まった。


「なっ……!?」


シグルドの目が見開かれる。


「動かない……!? なぜだ!」


私は指先を軽く振る。


「魔力回路に差し止め命令を通しました」


静かに。


「“使用不備”による仮停止です」


「ふざけるなッ!!」


「ふざけてませんよ」


一歩、近づく。


「その剣――今、仮差し押さえ中です」


「……は?」


「エデンの負債総額」


私は淡々と続ける。


「さっき暴いた不正賠償で、

うちの企業価値を超えました」


つまり――


「担保不足です」


公印を、突きつける。


「シグルド様」


言い切る。


「――立場、逆転です」


「なっ……」


「ギルド『エデン』は」


一歩踏み込む。


「不当会計および不祥事の責任を取り――」


公印、押し出す。


「我が『ラスト・リゾート』の管理下に入っていただきます」


「そんな……バカな……!」


沈黙。


完全な沈黙。


巨大ギルドが。


“事務処理”で、呑まれた。


「……ハンス様」


私は静かに背を向ける。


「残りの監査は、うちの会議室でやりましょう」


書類をトントンと揃える。


「残業代は、もちろんエデン持ちで」


にこり。


「一〇〇%上乗せで」


ハンスの手が震える。


完全に、崩れた。


「……リィン」


ぽつりと、ゼクス。


「お前……魔王より怖えよ……」


◇◇◇


戦いは終わった。


事務所には、静寂と焦げた紙の匂い。


エデンの精鋭たちは、完全に戦意喪失。


ハンスは――


「計算が……合わない……」


それだけ呟いて、運ばれていった。


そして。


シグルドだけが、最後に振り返る。


鋭い視線。


「……覚えておけ」


低く。


「これは宣戦布告だ」


一歩。


「エデンの総力で、お前たちを潰す」


ドアの前で止まる。


「業界から、完全に消してやる」


「ええ」


私は軽く一礼した。


「楽しみにしています」


顔を上げる。


「次はもう少し、“まともな会計”を

覚えてから来てください」


バタン。


ドアが閉まる。


――その瞬間。


空気が、一気に緩んだ。


「はぁぁぁぁぁ!!」


アルベルト社長が机の下から這い出す。


「終わったぁぁぁ!!」


「ふー……」


ゼクスが剣を収める。


「結局、俺の出番なしかよ」


「リィンちゃぁぁぁん!!」


ドン!


シャロンが抱きついてきた。


バニー姿のまま。


「勝ったわよぉ!! 大勝利!!」


耳は折れ、衣装はボロボロ。


でも顔はキラキラだ。


「ねえねえ!」


ぐいっと詰め寄る。


「これ! このスーツ!」


期待の目。


「経費で落ちるわよね!?」


私は無言で書類を取り出す。


カチリ。


公印を構える。


――ポン。


「認めます」


「やったぁぁぁ!!」


「ただし」


ピタッ。


シャロンが固まる。


「これは“会社資産”です」


「……え?」


「本日より金庫管理」


淡々と。


「私物利用は禁止」


「そんなぁぁぁ!?」


「貸出は許可制です」


「えええええ!?」


「あと」


追撃。


「自撮り・SNS投稿は禁止。機密情報です」


「私のバニーがぁぁぁ!!」


崩れ落ちるシャロン。


「ルルさん」


私は振り向く。


「解析終わったら分解してください」


「了解……です」


ニヤリ。


「パーツ再利用して……シュレッダー作ります……」


「やめてぇぇぇ!!」


シャロン絶叫。


私は無視。


デスクを整え、業務日報を開く。


さらさらと書き始める。


エデンは退けた。


だが、これは序章。


次はもっと面倒になる。


王宮か。


兵糧攻めか。


どちらにせよ――


「……有給、遠いですね」


小さくため息。


足元。


ピートがバニーのしっぽを咥えている。


満足げに、ゴロゴロ。


「ニャーン」


「はいはい」


私は抱き上げた。


「残業代で、いいご飯買ってあげる」


窓の外。


王都の夜景。


かつて私を“無能”と呼んだ連中が――


今、震えている。


事務の力。


管理の力。


そして。


絶対に折れない、定時退社への執念。


「さあ」


振り返る。


「明日から、エデン関連の“資料作成”です」


にっこり。


「遅刻は認めません」


「えええええええ!!?」


悲鳴が響く。


私は、静かに笑った。


戦争は、これからだ。

※次回へ続きます。

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