表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/58

監査に来たので“逆監査”して全員潰します

痛快リーガル・ファンタジー

「いいえ。それは――ただの飲み代ではありません」


私は一歩も引かず、ハンスの目をまっすぐ見返した。


「『魔王軍幹部との経営統合に向けた、

非公式・戦略的会食』です」


「……は?」


空気が、止まる。


私はそのまま、淡々と続ける。


「ハンス様。あなた方は、いまだに『魔王軍との戦争』を

前提に、すべてを計算している」


「な、何だと……!」


「しかし、わが社は違います」


一拍。


「すでに、彼らを『買収対象』として査定しています」


「――っ!?」


「そのための接待です」


私は、領収書を指で弾いた。


「それを“浪費”と断じるのは……少し、視野が狭いのでは?」


「ぐ……ぬ……!」


ハンスのこめかみに青筋が浮かぶ。


エデン監査チームが、完全に詰まった。


どの支出もおかしい。常識外れだ。

なのに――否定しきれない。


全部、理屈が通ってしまっている。


「……ハンス。もういい」


低く、冷たい声。


シグルドだ。


「こんな茶番、付き合う価値もない」


彼の手が、ゆっくりと腰の聖剣にかかる。


「事務の小細工など、力の前では無意味だ」


空気が、凍る。


「リィン。ここで君を『公金横領の現行犯』として拘束する」


剣が、わずかに抜かれる。


「……事務所ごと更地にする。それが一番効率的な監査だ」


「――あら」


私は、静かに公印を手に取った。


「ついに“手続き”を放棄するんですね」


ルルが背後で、静かに詠唱を始める。

ゼクスが、錆びた剣を構える。


そして私は、やさしく言った。


「シグルド様」


「……」


「『監査を暴力で行った』という記録が残れば、

エデンの信用は地に落ちますよ?」


「……死人に口なしだ」


即答だった。


「記録は、我々が書く」


そして――


「行け!!」


その瞬間。


エデンの精鋭騎士たちが、一斉に踏み込んできた。


狭い事務所に、殺気が溢れる。


「シャロンさん」


私は振り返らない。


「――経費分、働いてもらいますよ」


「やってやるわよぉぉ!!」


半泣きの絶叫と同時に。


バニースーツの耳が、ビクンと跳ねた。


次の瞬間――


キィィィィィン!!


空間を裂くような高周波が炸裂する。


「な、なんだこの音は!?」


「頭が……割れる……!」


それは音じゃない。


“規約違反アラート”を魔法で増幅した、精神攻撃。


合法的な嫌がらせの極致。


「集中力が削がれる……!」


「当然です」


私は冷たく言い放つ。


「あなた方の装備維持費、正しく計上されていませんからね」


「なっ――!?」


騎士たちの動きが、一瞬止まる。


その隙。


私は机の上の領収書の束を掴んだ。


バサッ。


紙が舞う。


――ただの紙じゃない。


「証拠書類による、防御壁エビデンス・シールドです」


剣が振り下ろされる。


だが――


ガキン!!


紙で、止まる。


「バカな!?」


「“証拠”は、最強の盾ですから」


私は一歩踏み込んだ。


「ふざけるなァ!!」


騎士の一人が盾で突っ込んでくる。


私は、その盾を軽く叩いた。


「その盾」


ピン、と弾く。


「ミスリル“風”塗装ですね?」


「な……に……?」


「昨年度の装備更新費。純ミスリルで申請されていましたが」


にこり、と笑う。


「差額、どこに消えました?」


「――っ!?」


動揺。


一瞬。


十分だ。


「判定――却下」


ドゴォッ!!


公印が炸裂した。


重装騎士が壁に叩きつけられ、沈む。


「な……っ……!」


「事務処理、完了です」


私は淡々と手を振った。


「次、いきましょうか」


「リィン……貴様ァ!!」


シグルドが踏み出す。


だが、その前に。


「ルルさん」


「……了解……」


壁一面に、魔導映像が展開された。


赤。


赤。


赤。


「な……これは……」


そこに映っていたのは。


エデンの裏帳簿。


不正買収リスト。


偽造契約書。


全て。


「なぜ……それを……!」


ハンスが絶叫する。


私は肩をすくめた。


「簡単ですよ」


一歩、詰める。


「そのシステム、誰が作ったと思ってるんです?」


「……まさか……」


「ええ。私です」


静かに、告げる。


「自分の作った“計算式”を解くのに、鍵なんていりません」


沈黙。


完全な沈黙。


私は、そのまま前に出る。


一歩。


また一歩。


「ハンス様。シグルド様」


コツ、コツ、と靴音が響く。


「これ以上、続けますか?」


誰も動けない。


「監査、続行でもいいですよ?」


さらに一歩。


「その場合――」


眼鏡を、クイと上げる。


「“そちら側”の監査になりますが」


シグルドの顔から、完全に笑みが消えた。


「……リィン」


低く、絞り出す声。


「お前、自分が何をしているか分かっているのか」


「ええ」


即答。


「分かっています」


そして、静かに言い切った。


「――大掃除ですよ」


事務所の空気が、ピリつく。


「ブラック企業の解体手続き」


公印を構える。


「今から、私が代行します」


その瞬間。


空気が、戦場に変わった。

※毎日12時30分更新予定

※タイトル・あらすじ・第1話~第13話を大幅改稿しました

※次回へ続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ