表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/17

最強の事務官vs最大手ギルド

※痛快リーガル・ファンタジーです。

『サタン・クレジット』のオフィスを出た瞬間、

ようやく、肺の奥に溜まっていた空気を吐き出した。


手の中には、まだインクの匂いが残る一枚の書類。


――和解成立通知書。


「……終わり、ですね」


ぽつりと呟く。


金貨六百万枚の債務は、完全に消滅。


それどころか。


端末がチカチカと光る。


【入金確認:金貨一〇〇,〇〇〇】


「……事務手数料、回収済み、と」


私は軽く肩を回した。


「ふぅ……やっと、

不毛な金利計算から解放されました」


夕焼けに染まり始めた王都の街並み。


ほんの一瞬だけ、立ち止まる。


――でも。


休憩、終わり。


◇◇◇


事務所の扉を開けると。


「……あ、リィン。おかえり」


そこには――


パンツ一丁の勇者がいた。


毛布ぐるぐる巻き。


湯気の立つカップを持って、ちびちび何か飲んでいる。


「……何してるんですか」


「いや、このコーヒー、マジで苦ぇ……」


ルル製・地獄仕様だ。


「で、どうなんだ? 俺」


ゼクスが恐る恐る聞いてくる。


「魔界の炭鉱、行かなくていいのか……?」


「ええ」


私はバッグを机に置いた。


「債権放棄、取り付けました」


「マジか!!」


「その代わり」


一拍。


「あの聖剣と鎧は没収です。

不当利得の証拠として」


「いいいいい!!」


即答。


「むしろ助かった! あれ拷問器具だろ!?」


バンバン床を叩く。


「やっぱこれだよな! 革鎧! ボロ剣!」


……さっきまでパンツ一丁だったくせに。


でも、その顔は――


完全に安堵していた。


「……はぁ」


小さく息をつく。


バカはバカなりに、理解していたらしい。


自分が“売られる寸前”だったことを。


「リィンちゃーん!」


そこへシャロンが飛び込んできた。


「お疲れ様! これでまた黒字よ黒字!」


目がキラキラしている。


「ね、今夜打ち上げ行きましょ!

王都一高い焼肉店『ドラゴン・カルビ』予約済み!」


「却下です」


即答。


空気が、凍った。


「……え?」


「シャロンさん」


私はゆっくり振り向く。


「忘れたんですか?」


一拍。


「明日の朝、何が来るか」


沈黙。


全員の視線が、自然と一点に集まる。


机の上。


黒い封書。


――エデンからの買収通告。


「……忘れるわけないじゃない」


シャロンが唇を噛む。


「でもさ、お金あるし……なんとかなるでしょ?」


「逆です」


私は首を振った。


「お金があるから、狙われたんです」


「ルルさん、スクリーン」


「……表示します」


壁に光が走る。


業界シェアグラフ。


圧倒的に大きいのは――エデン。


その端っこに、小さな点。


ラスト・リゾート。


だが。


「……何これ」


シャロンが息を呑む。


その点が――


直角に近い角度で跳ね上がっていた。


「魔王軍との和解」


「魔界金融への制裁」


「短期間での巨額キャッシュ」


私は淡々と並べる。


「そして、魔界とのパイプ」


にこり、と笑う。


「そりゃ目立ちますよね」


ゼクスが低く言った。


「……リィン」


珍しく真顔だ。


「これ、最初から狙ってたのか?」


「まさか」


即答。


「私はただ」


肩をすくめる。


「有給を守るために、目の前のゴミを処理しただけです」


一拍。


「……結果、大元が出てきただけ」


その瞬間。


――カチャ。


扉が、静かに開いた。


ノックなし。


音も、ほとんどない。


入ってきたのは――


“別格”。


純白の装備。


国宝級の輝き。


空気そのものが重くなる。


「――久しぶりだな、リィン」


中心に立つ男。


見間違えるはずがない。


「……シグルド様」


かつてのリーダー。


私を“荷物”と呼んで切り捨てた男。


「明日の九時では?」


「前倒しだ」


即答。


「君たちが妙な工作を始める前にね」


ドン。


机に叩きつけられる書類。


営業停止命令。


王宮+神殿、二重封印。


「本日より」


シグルドが言い放つ。


「ラスト・リゾートは我々の管理下に入る」


「拒否権はない。王命だ」


シャロンが息を呑む。


社長が椅子の下で震える。


そして――


視線。


昔と同じ。


見下す目。


……だけど。


「……王命、ですか」


私は一歩前に出た。


「随分と丁寧な根回しですね」


足元にピートがすり寄る。


軽く撫でる。


そして。


引き出しを開ける。


取り出すのは――


有給休暇申請書。


「シグルド様」


静かに言う。


「一つだけ、計算違いをしています」


「ほう?」


「圧倒的な武力と国家権力に勝てる、とでも?」


「ええ」


私は頷いた。


「あなたたちは」


紙を持ち上げる。


「私を“追放”した」


ビリッ。


真っ二つに破る。


「……!」


空気が揺れる。


「私はもう」


破れた紙を床に落とす。


「あなたたちの不祥事を揉み消す必要がない」


一歩、詰める。


「明日、監査に来るならどうぞ」


静かに笑う。


「ただし」


一拍。


「覚悟してください」


まっすぐ見据える。


「あなたたちの“裏帳簿”」


「全部、覚えてますから」


シグルドの表情が変わる。


完全に。


「……リィン」


低い声。


「何をする気だ」


「簡単です」


私は答えた。


「ブラック企業の解体」


「事務手続きで」


「何だと!?」


空気が張り裂ける。


夕闇の中。


視線がぶつかる。


火花が散る。


「……定時退社は諦めました」


小さく息を吐く。


そして。


「――徹底的に監査します」


静かに、宣言する。


勇者の不祥事も。


魔界の借金も。


全部、前座。


ここからが本番。


最強の事務官 vs 最大手ギルド。


王国を揺らす“訴訟戦争”が――


今、始まる。


「さあ」


眼鏡を押し上げる。


「完膚なきまでに、お掃除しましょうか」

※次回へ続きます。

※現在、順次文章をスマホ最適化しています。内容に変更はありません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ