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それからの透の状態は、散々なものであった。あの後、寝落ちた透は全身が燃えるような熱さと怠さに苛まれ、三日ほど寝込んだ。それに加えて脚の怪我がひどく痛み出してきて、何度か麻酔を入れなおしてもらったが、それが効き始めるまでは体を丸めて、ずきずきと主張してくる痛さを、脚を押さえていないと耐えることができなかった。
体温が微熱ほどまで下がり、起きていられる時間が長くなってからは、るなは暇している透の為に本を持ってきてくれたり、余裕がある時には話し相手になってくれたりした。
そんな透のことを献身的に看病してくれたのは、るなだけではなかった。彼女以外にも、この部屋に出入りする人間が2人いた。そっくりな顔をしている彼女たちは、るなが忙しくしているときに代わりに来てくれることになっており頻繁にその姿を見ることは無かったが、代わりにるなが彼女たちについて軽く説明してくれた。
彼女たちはるなと共に暮らしている仲間で、どうやら双子らしい。そして、Lustaのキャストでもあるとのことである。記憶の底からLustaに客として訪れた日のことを引っ張り出してきて、ようやく、あの双子の背が低い方の子、が、顔の良いお兄さんの接客をしていた少女であるという事に気が付いた。
彼女らは気を使ってくれているらしく、透に薬や食事といった、必要なものを持ってきてくれる時以外は、透の部屋に長く滞在することは無かった。
でも、とてもいい子たちなのよ、と話してくれるるなの顔は、子どもを見守る保護者のようであった。
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「ごきげんよう、まだ磨かれぬままの原石の君。怪我の調子はいかがかしら?」
「こんにちは、診察に参りました~」
透の熱が完全に下がった頃。風変わりな話し方をする女性と、助手だと名乗る二人組が透の前に現れた。
「以前は貴方が夢の中を彷徨っている最中でしたから、この地に目覚めた貴方とは初めまして、ですわね。それでは改めて。わたくし、かの神の使いだと民に崇められた大魔女!このような形でお目見えすることになるとは思ってもいませんでしたが、会えて光栄ですわ、原石の君。……どうか以後、仲良くしてくださいましね?」
「私たちは、鉱物生物研究所から参りました。この方は宇崎真琴さん。真霞さんに会えてうれしいとおっしゃっています。そして、私は魔女様__真琴さんの助手の、上貂鈴音です。本日私たちは、真霞さんの診察の為参りました」
「えっと……よろしくお願いします……?」
鉱物生物研究所という、聞き覚えのない単語。透は首を傾げた。診察に来たというものだから、この人たちは医者であると思っていたのだが、どうやら違うらしい。そして、宇崎さんの言う「原石の君」というのは、自分のことなのだろうか。困惑している透を助けるかのように、2人の後ろからるながひょこっと顔を出した。
「この人たちは、真霞さんの治療をしてくれた方々なの。色々気になるでしょうけど、とりあえずこの人たちのことはお医者様だと思っておいて頂戴!後で説明するわ」
「るなさん!えっと、とりあえず分かりました」
「……“るなさん”?」
透がるなの名前を出した途端、真琴が首を傾げ、不思議そうな顔をする。それも束の間、何かに気づいたようにばっとるなの方を振り向き、こう言った。
「姫君、まだ真名も伝えていないんですの?というか、何もかも話していないのではなくって?どういうおつもりかしら?」
「真霞さんは、ひどい怪我をしていたの。貴方も知っているでしょう。大変な状態なのに、色々と訳の分からない説明をしたら、もっと混乱してしまうでしょう。今日あなた方がくるまでは、ゆっくり休むことに専念してもらえるよう、あえて何も説明しなかったのよ」
透の前で分からない会話がぽんぽん繰り広げられている。そして真琴の半歩後ろに控えている鈴音は何も言わず、その様子をにこにこと見守っている。というか、真琴の方をじっと見つめているといった方が正しいのかもしれない。
「とにかく!これからあなた方に真霞さんの診察をしていただいて、良くなっていたら全て説明するつもりだったのよ。専門家がいた方がいいと思って」
るなが透のことを保護してくれてから、もう2週間が経っている。今まで気にしていなかったが、よくよく考えてみると、透が何の対価も支払っていなのに、治療と受けていられるのは普通のことでは無いし、これだけの怪我をしているのに病院にいないのも不思議なことである。
「とりあえず、診察はじめちゃいますね~、診ないと何も進まないですし」
ベッドの方に移動してくださいね~と気の抜けた声で、鈴音が透を椅子から移動させた。
「傷を見たいので、ズボンの裾を捲ってください」
そう言われて、透は素直にズボンの裾を捲った。改めてみる自分の傷はとても痛々しくて、あまり見る気にはなれず、そっと顔を逸らす。鈴音は失礼しますね~とゆるく断りを入れてから、傷を優しく触ってみたり、透に足を動かしてみるよう指示を出したりした。その後ろでは、真琴が観察するかのようにじっと透のことを見ており、その二人の姿はまるで本物の医者のようだった。
「ん~、膿みや変な腫れは無し、発熱もなし。もう大丈夫だと思うんですけど、どうでしょう、魔女様」
「うむ、わたくしも鈴音と同意見でしてよ。喜びなさい!原石の君。じきに貴方は住家へと帰ることができるでしょう!」
「本当ですか……!よかったぁ……」
透はぱっと顔を明るくさせて、るなの方を見た。るなも、満足げな顔をしていた。
「宇崎さんがそう言うなら大丈夫そうね。透、今までよく頑張ったわね」
柔らかい笑みを浮かべながら頭をなでてくれる。その手つきの優しさがなんだかくすぐったくって、どこか懐かしくて。最近は頭をなでられてばかりだな、と思うのだった。




