42 佐加里騒乱 5
九重は、実戦部隊の隊長と渡り合う。
光悦の懐刀だけあって、剣の技量もどこぞの道場でしっかり習った物のようだ。
人や魔物相手にただ漫然と振り回す喧嘩流儀の物ではない。
「そんな小太刀で俺と切り結ぶつもりか。そっちの太刀は飾りか?さっさと抜きやがれ。」
隊長は、九重の小太刀による近接的な動きに戸惑いながらも、何とか対応し、そう挑発した。
「ああ、こっちの太刀はその通り飾りだ。気にするな。」
九重は相手の挑発を素直にそう受け流し、斬りかかる。
隊長は、それを使い慣れていない魔剣を得物にしているとはいえ、普段の得物より格段に上の性能を持っている得物だ。
そこまで、今までの得物と扱いに差が出るとは思わない。
いや、寧ろ剣の動き自体は、今の方が上であるはずだ。
でも、なんでだ?相手の間合いの方が狭いから、俺の方が有利に立ち回れるはず。
なのに、なんでこう、俺が後手後手にまわっているんだ?
九重は体を大きく使うように見せて、実のところ最速の軌道で斬りつけるという小太刀流の極意ともいうべき、動きで相手を翻弄しているのだ。
しかも、周りの乱戦も利用し、剣先を読まれないように剣を繰り出してくる。
そればかりか、乱戦中の味方を助ける動きもし、周りの敵を切り伏せながらだ。
隊長は、たまらず乱戦を避け、庭先の方に体を逃がしていく。
光悦と番頭もそれに守られるようにして、庭先に足を進める。
「誰かと思えば、光悦の旦那じゃないか。」
庭先に逃れるように光悦が進むと、そう声がした。
声の方を見るとお政さんが、廊下に仁王たちしていた。
いくら魔法使いとして腕が立つとはいえ、そんな堂々としていて怖くないのでしょうか?
「ほう、錬金屋のお政か。『光陰星霜』の筆頭はどこだい。」
向こうもお政さんを知っているらしく、そう声を掛けて来た。
「仁藤の旦那なら、正門に陣取ってるよ。」
「ほう。小細工で裏から入ったのが、裏目に出ましたか。まさか筆頭自ら陣頭に立ってるとは。」
「あんたみたいな。小物と違うってことさ。で、どうすんだい?」
「言ってくれますね。私の失脚の原因は確かに部下の暴走で『光陰星霜』が私の傘下の獣人を一門に引き入れたり、『光陰星霜』の一門員を迷宮で襲撃して失敗したのが原因です。ですがそれを招いた『光陰星霜』に一矢を報わさせていただきます。」
ん?この人がサキちゃんのお母さんに変な物を飲ませたり、一門衆の昇進のための迷宮探索で襲われた原因を作った人な訳だ。
なんか、主原因が『光陰星霜』さんになってるけど、元は私の我儘が一因だよね。
「よくわかんないが、わたしはあんたが気に入らないことだけはわかったよ。」
お政さんはそう言うと、魔法を話していた男に放った。
光悦は、咄嗟にそれを避けると何やら取り出し、それを飲み込む。
隣にいた男もそれを見て、覚悟を決めるように同じく何かを飲み込んだ。
「光悦様!」
九重さんと対峙していた隊長は、それを見て叫ぶ。
そして、九重さんを見据えながら、同じように何かを飲み込んだ。
三人は苦しみながらも体の形状が変化していく。
形状が変わって行く光悦にお政さんは魔法を直撃させる。
光悦の体が切り裂かれるが、そのまま体が二つに分かれることはなく、まるで粘液でくっつくように体が元通りになって行く。
「なんだい、ありゃ、気持ち悪いね。」
それを見たお政さんは、風の魔法で切り裂くのをやめ、今度は火の魔法を叩きつける。
炎が直撃して、炎を上げるが、やはり元通りに戻って行く。
光悦の体はただその間も変化は続け、大きさは三倍ほどに大きくなり、体の色もくすんだ緑色に変化し、風体も人とは思えない爛れた姿になった。
そうして、三人の人間がまるで三匹の魔物のようになった。
「茜。とりあえず、魔法を何でもいいから撃ち込むよ。」
お政さんは、それに混乱することなく指示を飛ばす。
そうだね。魔法を受けて元通りになるけど、弱点はあるはずだよね。
私もお政さんに倣い、魔法を色々撃ち込む。
だが、どの属性の魔法を撃ち込んでもまるで効果がなく、元通りに再生していく。
そして、魔物になった二体は、私達をあざ笑うように近づいてくる。
私達はそれを阻止しようと、足元に沼を作ったり、風魔法で足を切り刻んだりと、近づけまいと努力するが、あまり効果的に足止めできず、接近を許していく。
九重さんも、対峙していた男が何やら飲み込んで苦しみだしたのを見て、攻撃に転じる。
形状が変化し、動きがままならない隊長を斬りつけるが、やはり血を吹き出すそばから、傷口が嘘のように塞がって行く。
だが、男が武器を構えようとする先から、構わずにどんどん切り刻んで行く。
隊長は切り刻まれた傍から再生していくが、休むことなく切り刻む九重さんの剣に再生が追いつかずに攻撃する暇もなく、一方的に攻撃を受ける。
やがて隊長だった魔物の首が地面に落ち、再生がやみ、力なく倒れ込んだ。
「魔物にならない方が剣の腕から言って、強かったようだな。」
九重さんは、隊長だった魔物にそう言って、その死体に目を向けることなく。
すぐさま、私とお政さんと光悦と番頭だった魔物の間に割って入って行く。
魔法を受けても何事もなく元に戻て行く二体の魔物に距離を詰められそうになっていた私達は、九重さんが間に入ってくれたことに安どの表情を浮かべる。
「随分力業で、仕留めたようだね。でも、助かるよ。」
「ありがとう。九重さん。」
ただ、九重さんも二体の魔物を相手に問答無用で切り刻むのは難しいみたいで、相手の足止めで手一杯のようです。
竜馬さんは、裏口の防戦に参加し、こちらにこれ以上敵が来ないようにするのがやっとのようです。
お妙ちゃんは、お藤ちゃんを抱えて屋敷の奥に下がって貰っています。
私達も魔法を九重さんに当らないよう放ちますが、手数的にはそれほど役立っていません。
このままではかなり厳しいです。
そんな時です。
「騒がしいと思って来てみれば、客人。なんだいこりゃ?とりあえず加勢する。」
仁藤さんが魔物になった二体を見てそう言いいながら、こちらに現れました。
どうやら、私達が魔法が放っているのを知り、こちらの様子を見に来てくれたみたいです。
「仁藤の旦那。正門の方は平気なのかい?」
お政さんは、正面門の様子を心配してそう尋ねます。
「ああ、骨のありそうなのはいなかったんでな。筆頭補佐に任せて戻って来たてところよ。こっちはなんか面白そうだな。」
仁藤さんはそれにこう答えますが、九重さんは、仁藤さんが来たことで余裕が出来たようで、それをやんわりと否定します。
「そうでもいないですよ。丈夫なだけが取り柄って感じです。」
「九重がそう言うなら、つまらん敵なのか?まぁいいや。向こうで相手してる奴らよりはマシだろうよ。」
九重さんと仁藤さんで、魔物になった二体を相手します。
一体一になってからは、魔物の攻撃はなりを潜める形になっていきます。
魔物も何とか攻撃を試みますが、仁藤さんは遠距離から馬上刀の斬撃を浴びせ、九重さんは脇差による近接攻撃で手数を稼いでいきます。
こうなると、私達の魔法の援護はかえって邪魔になりかねないので、補助魔法を掛け、二人の強化だけに留めます。
やがて二体の魔物も再生が追いつかず、手足がもがれ、首を刎ねられ、ついに力果てました。
「蓬莱屋光悦。討ち取ったり。」
お政さんは、魔法に声を乗せてそう叫びます。
他の場所での戦闘も、その声を聞いて終わったのでしょうか。刀を交える音や掛け声が鳴りを潜めます。
こうしてこの騒動は、終焉を迎えたのでした。
今年はこれで最後の投稿になります。皆さま良い年をお迎えください。
自分も最後にコロナにかかってしまいましたが、来年も引き続き投稿していきたいと思います。
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