32 春に祭典を 3
市が終わった後、街で有名な団子屋さんに立ち寄りお菓子をいくつか見繕い、お政さんの店へと戻った。
「ここが、お姉ちゃん達の働いているお店なんだ。何にもないね。」
お藤ちゃんが、お店に入るなりそう感想を漏らす。
そうなんだよね。お店持っている人相手の商売だから、店先に特に何か商品が置いてあるわけでないんだよね。
「ここは、何もないけど、錬金術を使う工房にはいろいろあるよ。見てみる?」
「えっ、いいんですか?お願いします。」
「わかった。ついておいで。お妙ちゃん悪いけど客間でお茶の準備お願いしていい?」
「わかりました。藤、茜さんに迷惑かけないようにね。」
「はーい。」
私は、お藤ちゃんに錬金工房の中を一通り説明し、いくつかサンプルで置いている物を見せてあげる。
お藤ちゃんは、それらを感心したように眺めていた。その中でひと際興味を引いていたのは、水晶で作った宝石のカット石の大型見本だった。
見た目綺麗だものね。高価なものだから上げられないけど。
そんな感じで一通り説明を終えて、客間に向かう。
中々反応が良かったわね。伝統工芸館の解説員みたいな説明も出来て、こっちも面白かったな。
客間に入ると、お妙ちゃんが既にお茶菓子を卓の上に置いて、お湯も沸かし終えていた。お茶の準備も、もう整っているね。
相変わらず、何をやっても完璧だねお妙ちゃん。
「あれ、お湯が火もないのに沸いている。」
お藤ちゃんが、部屋に入るなり、魔道具の湯沸かし器を見て驚いていた。
「藤、驚いたでしょ。このお家には他に勝手に洗濯をしてくれる魔道具とか、いろいろ便利なものがあるのよ。」
「へぇー。お姉ちゃんそんなのもあるだ。凄いなー。」
「まぁ、お藤ちゃん、お妙ちゃんも一緒に座って、お菓子食べながらでいいから、聞いて欲しいんだ。」
そうして、私は、お藤ちゃんに、錬金術で新しい野菜を作ってみたいので、その元になる種を村で集めて欲しいと言う話をした。
そして、欲しい種の一覧表を渡した。お妙ちゃんの家で作っていない種もあったので、それはお妙ちゃんとお藤ちゃんがどこの誰が作っているとか確認をしてくれていた。
あと、種を買おうとしたが、あまり売り買いする物でもないので、物々交換みたいな感じがいいと言われたので、お団子を後でいくつか買い込んでお藤ちゃんに持たせることにしました。
お妙ちゃんは、そんな高い物じゃなくていいと言ってくれたのですが、私は、他の物を思いつかなかったのでそのままおお団子買いました。
あと、お父さんやお母さんに野菜を試しに作る余裕があるか、他の人で手伝ってくれそうな人がいるかを聞いといて貰うようお願いしました。
種作りが成功したら、すぐ頼めるあてがどのくらいあるかの事前調査です。
ただ、成功しても錬金書庫さんに駄目だしされる可能性もありますけどね。
それで、種は明後日にここに持って来てくれると言う話になりました。
明日市で売れた分のお金を届けるついでに他のお家の種も貰って来るので、その次の日届けてくれるとの話でした。
私は、お藤ちゃんにそんな忙しくしなくても大丈夫だよと言ったのですが、なんでも、来週あたりから稲を育てる準備が始まるらしく、余裕のある今のうちに持ってくるという事だそうだ。
なら、その日はご両親に許可が貰えたら、その日は泊って行くように話しました。
それを聞いた、お藤ちゃんは、お母さん達に聞いてみるねと言い、嬉しそうにしていました。
それから、お土産を買って渡してから、お藤ちゃんを街の入口で見送りました。
そして、三日後、お藤ちゃんが再びお店にやってきました。
「こんにちは。お姉ちゃん。約束どおり来ましたよ。」
「いっらしゃい。藤。茜さんが待っているわよ。今呼んでくるから。」
店番をしていたお妙ちゃんは、そう言って奥に入ると私を呼んでくれた。
「お藤ちゃん、ようこそ。今日は泊って行けるの?」
「はい、両親が泊って来てもいいと言ってくれました。」
「よかった。よかった。」
私は、そう言ってお藤ちゃんの頭を撫でまわします。
「また、茜お姉ちゃん髪をくしゃくしゃにして。」
お藤ちゃんが、そう非難の声を上げる。
おっと、いけない、いけない。また、興に乗ってやってしまった。
「ごめん、ごめん。」
「それより、頼まれた物ちゃんと持ってきたよ。」
お藤ちゃんは、懐から布袋を取りだし、私に渡してくれる。
おう、これが、約束の物ですな。私は、それを受け取ると、お藤ちゃんにお礼を言い、声を掛ける。
「ありがとう。では、早速取り掛かってみましょう。お藤ちゃんはどうする?錬金の様子見てみる?地味だけども。それともお妙ちゃんと一緒にいる?」
「え、錬金術を見てもいいの?見たい、見たい。」
お藤ちゃんは、嬉しそうにそう言ってくれた。
「そうか、そうか。では、お妙ちゃん、お藤ちゃんを借りるね。」
私は、お藤ちゃんの回答に満足し、気分が高揚したままそうお妙ちゃんに声を掛けて、錬金術の工房に向かった。
「ええ、お願いしますね。藤も大人しくしてるのよ。」
お妙ちゃんは、そう言って、帳場での作業を続けていた。
工房には、お政さんがいて、薬問屋に卸す薬の加工をしていた。
「お邪魔しますね。」
「おや、茜、そっちの可愛いお嬢ちゃんが、お藤ちゃんかい?」
お政さんは、私の横にいるお藤ちゃんに気付き、そう尋ねた。
「はい、そうです。えーと、こちらがお妙ちゃんの雇い主のお政さんだよ。お藤ちゃん。」
私は、肯定し、お政さんを不思議そうに見ているお藤ちゃんにお政さんを紹介した。
そう言えば、この前来た時は、勝手口から出入りしたから、お政さんに会っていなかったね。
「あ、姉がいつもお世話になっています。お藤と申しますよろしくお願いします。」
「ほう、ちゃんと挨拶できて偉いね。私がここの店の主のお政だ。よろしくね。うん、それにしても雰囲気や顔もお妙に似ているね。」
「だよねー。あ、お政さん、錬金やっているところお藤ちゃんに見せるからよろしくね。」
「ああ、気を付けてやるんだよ。しかし、種から別の植物の種を作るなんて変な事考えるね。茜は。」
「そうですかね。あまり変な事でもないような。普通ですよ。普通。」
向こうでも、魔法はなくても、遺伝子操作で、病気に強くしたりとかいろいろなことが行われてたんだし、珍しくもないですよ。まぁ、正確には種をいじってる訳じゃないけど、似たようなもんでしょ。
「まぁ、いいやね。お藤ちゃん気を付けて見ているんだよ。」
「はい。」
という訳で、私も錬金術の準備をします。と言っても、今回は私の知識を利用するので、準備する物はあまりないのですがね。
まずは、錬金釜に魔力を流し込みます。それと種と錬金生成素材。これだけで準備完了です。
では、まずはトマトを作りましょう。
イタリアでは、これのおかげで食生活が急変してトマトまみれになりましたからね。ということで加熱調理用のトマト、サンマルチアーノとかだっけ?しかもここの気候風土でも実割れしないよう作りやすくしちゃいましょう。
錬金釜に、茄子の種、錬金生成素材、これを掻き混ぜて、錬成!っと。
「出来ました。まずはトマトの種です。」
「あれで終わりなのです。」
あ、お藤ちゃん、やっぱりもっとすごいの想像してたんだね。ごめん、でもこれで終わりなんだよ。
「うん、そうなんだ。まずはちゃんとできてるか鑑定してみよう。お政さん、また魔道具お借りしますね。」
そう言って、鑑定の魔道具を取ってきて、調べてみる。
名称 とまとの種(長形種) 区分:種(食用及び薬用) 価値:- 品質:優
うん、この情報だけじゃ、よくわかりません。多分一応成功です。うん、トマトはひらがなになっちゃうのね。まぁいいけど。食用だけでなく薬用?確かに体よい成分が含まれてますが?
勿論それだけでなく、トマトは生薬としても使われているので、その効果を読み取って表示してるのだが、茜はわかっていないだけである。
でも、この情報をお藤ちゃんに見せても、何のことだかわからないから、流石、茜お姉ちゃん!とはならないですよね。
「どうやら、成功したようです。錬金書庫に登録してみますね。思った以上に、魔力は使うみたいです。」
「おめでとう。そうかい。いい結果が出るように祈っとくよ。」
「はい。ありがとうございます。お藤ちゃん、種をこれで見てごらん。こっちが元の種で、こっちが錬成で作った種だよ。」
そう言って、魔道具と2種類の種をお藤ちゃんに渡す。私はお藤ちゃんが、種を見ている、その間に錬金書庫に登録をしておく、これで結果が出るのを待つと。
「あ、種の形が違うんだね。これで覗くんだよね?」
そう言いながら、お藤ちゃんは、魔道具で2種類の種を見比べています。最初は面白そうに覗いていたが、文字情報だけで、何がどう違うのだからだかわかりません。だんだんどう反応していいかわからなくなったようで、こう言ってきました。
「これじゃなんだか分かんない。」
ですよね。仕方がないので、ここはお藤ちゃんに喜んでもらうために、久しぶりに金剛石を作ってみました。
こちらは、真っ黒な粉が綺麗な石に変わるので、変化が分かりやすく、大変喜ばれました。
それに、女の子は綺麗なものが好きなのですからね。
次回のあらすじ
茜は、お妙ちゃんの妹のお藤ちゃんの持って来た種で錬金術を行使しても問題がなくなったので、いろいろ種を作り、お妙ちゃんの村に向かうのでした。
次回 春に祭典を4 是非読んでください。
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