31 春に祭典を 2
「お妙ちゃん、これが欲しい物リストなんだけど、お妙ちゃんの村にある?」
「欲しいもリスト?また変な言葉が、……。それにいつにもまして、気持ちが妙に高ぶってません?」
そう言いながらも、お妙ちゃんは、私の圧に押されて、大人しく紙を受け取る。
でも、これも不思議よね。
私が話している言葉、書いてる文字は日本語なのに、こっちの人には話はちゃんと通じるし、書いている文字も読んでもらえる。
その逆も、然り。まぁ便利なのでいいのですけども。
そのおかげで、獣人同士で話しているときの言葉も分かったりしちゃうのだけど。その時に私が話すと、向こうは公用語に聞こえるのか、獣人語に聞こえるのかな?
あ、思考が飛んじゃった。
「こんなに沢山作るのですか?大体は、ありますがいくつかはないですね。」
「手に入らなものも、どうにかできないかな?」
「うーん、市に来て売っていた人に頼み込んでみるくらいしか?誰が売っていたとか覚えています?」
「いえ、覚えてないです。」
「それなら、それらは売っているのを見つけた時に、交渉するしかありませんね。」
「そうなるよね。それだとすぐには無理だよね。」
「いいじゃありませんか。うちの村の種でできるか確かめてから、集めても。そのほうが無駄になりませんよ。」
「そうだね。種をたくさん作っても育てられないよね」
「じゃあ、明後日が月の大市ですから、妹が来てるはずなので、一緒に行きましょう。」
「うん、でもそう言えば、妹さんに今まであってなかったけど、どうしてだろ?」
「茜さんは、野菜とか生鮮品しか見てないからですよ。私も、妹も木工細工や編み物、織物とかを売りに来ていたのです。」
「そうか。あー、そう言えば何度か、そっちにも行こうと誘われたよね。ごめん、そう言う事だったのね。」
「いえ、いいんです。ただ紹介するのも何だか気恥ずかしかったので、いろいろ商品を見るついでと考えていたから……。」
お妙ちゃんは、そう言ってうつむいてしまった。
「そっか、気付けないでごめんね。明後日は一緒に会いに行こうね。」
そう言って、お妙ちゃんの頭を撫でてあげたのでした。
こういったこともしてみたいと思っていたが、なんか恥ずかしいな。
待ちに待った大市の日、私達は足取り軽く、市へと向かいました。
春先の市なので、出ている青果は少ないですが、山菜がいくつか売られていたので、それをいくつか買い込んでから、お妙ちゃんの村の品が出ている工芸品等が売られている区画に向かいました。
工芸品を売っているのは、むさいおっさんが多いかと思ったが、意外や意外若い子が多かった。
お妙ちゃん曰く、市に来るのは村の農作業の人手に影響しない若い女性が多いそうだ。普通は二、三名で売りに来るらしいが、お妙ちゃんの村は、耕作できる農地も少なく、人が少ないそうなので、売り子は一人だけだそうだ。
そうなると、野菜の委託生産は難しいのかな?
「ねぇ、お妙ちゃん。私の作った種でできた野菜を作って貰う事、お妙ちゃんの村でお願いできるかな?」
「どうでしょう?私の家族だけに頼むならそう難しくはないですけど、それ以外もですと村長さんに話さないといけないかなと思います。」
「そうなるよね。それに頻繁に見に行く必要もあるしね。」
そんな話をしながら歩いていると、お妙ちゃんに声が掛かった。
「お妙お姉ちゃん。」
声の方を見ると、お妙ちゃんより少し若い女の子が、手を振ってこちらを見ていた。
「あれが、お妙ちゃんの妹さん?」
「ええ、そうです。行きましょう。」
そう言うと、お妙ちゃんは、妹さんの方に向かっていったので、私も少し遅れて後を追う。
2人は、仲良く2、3言葉を交わしている。家族のことを話しているようだ。
仲が良さそうでいいことだ。そんなことを思いながら、私はお妙ちゃんの後ろに控えていると、妹さんがこちらに気付き、声を掛けて来た。
「あの、もしかして茜様ですか?」
え?茜様って何、お妙ちゃん、妹さんにどんな話をしているの?
「あ、え、はい、茜です。あなたが、お妙ちゃんの妹さんね。よろしく。」
「はい、藤といいます。茜様。」
「お藤ちゃんね。あと茜様はやめて、お姉ちゃんのお友達だから、茜と呼んで。」
「でも、お姉ちゃんの命の恩人だし、お姉ちゃんがいまのお店で働けてるのも茜様のおかげ出すし、なにより、お武家様の奥方の妹さんですよね。そんな風に呼んだら失礼ではないです?」
うーん、恩人と言っても、主に助けたのは竜馬さんと九重さんだし、私に会いに来たのがきっかけとは言え、お店で雇ったのもお政さんだし、最後のは、もっともらしいけどそれは、お藤ちゃんには言えないけどそれは設定ですからね。
「いいのよ。私はお妙ちゃんのお友達だから、妹のお藤ちゃんも友達だよね?だから、様付けで呼ばないで、いい?」
私が改めて、そう言うと、お藤ちゃんはどうすればいいか困ったような顔をして、お妙ちゃんを見る。
お妙ちゃんは、優しく微笑んで、うなづいた。
なんかいいなこういう雰囲気、本当に仲の良い姉妹って感じで。
「わかった。じゃぁ、お姉ちゃんのお友達なら、茜お姉ちゃんと呼んでもいい?」
来ました。サキちゃんに続いてお姉ちゃん呼び。いいとも、いいとも。
「うん、もちろんだよ。お藤ちゃん。」
そう言って、お藤ちゃんの頭を撫でまわしてあげる。
「やめてよ。茜お姉ちゃん。恥ずかしいよ。」
「良いではないか。よいではないか。」
そう言って、更に撫でまわしていると、お妙ちゃんが、私の着物の袖を引っ張る。
お妙ちゃんの方を見ると、恥ずかしそうに下を向いている。そして、周りを見ると周りの人も、困ったような顔をしてこちらを見ている。
うわ、めっちゃ注目されている。
私も恥ずかしくなって、撫でまわす手を引っ込めた。
そして、お藤ちゃんに謝った。
「ごめんね。やり過ぎた。」
「本当ですよ。もう。」
そう言って、お藤ちゃんは、頬を膨らませながら、髪を整えている。
私も優しく乱れた髪を手で梳かしてあげる。
「あの茜さん。お藤に話をしにきたでは?」
「あ、そうだった。」
「なあに?」
「ここじゃ、なんだから、私達のお店で話をしましょう。お菓子を買って食べながら話しましょう。」
「やったぁ。」
そうして、私達は、市の閉じるまでお藤ちゃんの売り子を手伝った。
売れ残りが出たら、それは荒物問屋さんに持っていくと市より安い値段だが引き受けてくれるらしい。
持って帰るより、お金にした方が帰りも楽になるし、村の人も全部売れた方が喜ばれるからだそうだ。
そういった事情もあり、市の最後の方は、少しでも安く買おうとする人も多く、時間いっぱいまで盛況だった。
それでも売れ残ってしまっていたけどね。
次回のあらすじ
茜は、お妙ちゃんの妹のお藤ちゃんに頼んで、種を持って来て貰い、いよいよ向こうの世界で作られている野菜の種を作ることになったのですが。
次回 春に祭典を3 是非読んでください。
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