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異世界放浪記 狐人の錬金譚  作者: 日比野 麻琴
第1章 迷宮都市細腕繁盛記
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28 茜の迷宮探検記 5

 「みんな無事か?」


 最後まで戦闘をしていた九重さんが、戻って来て皆に声を掛ける。


 「はい、俺達は傷一つありません。」


 「俺も、平気です。といっても、師匠が、敵を全部潰しちまったから、何もしてねぇけど。」


 「私達も、無事です。もっとも茜さんやお妙さんにも手伝って貰っちゃいましたけど。」


 「そうか。無事で何よりだ。茜殿も妙殿もすまない、合力ごうりき頂いて助かった。」


 「私は、魔法を放っただけだけど、お妙ちゃんは、強そうな男の人と槍を交えたのだからすごいよね。」


 「いえ、私もみんなが一生懸命戦ってたので、必死に動いただけです。」


 「そうか。みんな本当に無事で何よりだ。それと倒した連中に心当たりがある者はいるか?すまないが、休む前に襲って来た奴ら全員の面通しを頼む。」


 「「はい。」」


 


 ここに居る全員が敵の顔を確認したが、誰も知っている者は居なかった。


 「一人くらい生捕りにするべきだったか?」


 「師匠、これから第十層攻略です。帰り道なら兎も角、今は余計な人員を連れて行く余裕はありませんよ。もっとも、相手の党首はすぐ殺さないで尋問位するべきでしたが。」


 「そうだったな。あとはこいつらの天幕に何か身元が分かるような物があるかだが、探索者証も持っていなかったし、期待できないか。」


 「でも、師匠、探索者証が無いと出る時怪しまれるでしょ?そしたら、俺達がもしやられてたら、真っ先に疑われちまうのでは?」


 「採集している探索者に協力者が居れば、入った時に預けて、出る時返して貰えればいい。ただ、今回みたいに死んじまったら、未帰還者から足がつくがな。」


 「なるほど。なら、最悪戻った後、探題府で調べれば、敵が誰だかわかるのか。」


 「細工をされてなければだがな。」


 「つまり、それも誤魔化す方法があるわけですか?」


 「そういうことだ。ただ、今回は勝つつもりで襲って来たから、そこまでしているかは疑問だがな。」


 結局、連中の天幕を見つけて、捜索をしたがやはり身元が分かるような手がかりはなかった。

 死体は、寝る場所の周りにそのままという訳にも行かないので、右耳を切り取った後、別の通路の突当りにまとめて、匂いが出ないように、氷結魔法をかけて、捨て置いた。

 死んだ魔物同様、迷宮が処理をしてくれるらしい。


 それと各自、自分達が使えそうな武器を予備の武器用に剥ぎ取り、薬等金目の物品を抜き取ったりもしていた。武器をなかなか新調することが難しい駆け出しの探索者には、襲われること自体は大変なことだったが、こうして勝てれば、結構美味しいことのようだ。

 そして、これ以上時間を取る訳にもいかないので、当面の危険は去ったと判断し、各自見張りと睡眠を取り、明日から、いやもう今日からの攻略続行に備えることにした。




 私は、いつもより早めに天幕を出る。やはり昨日の戦闘の影響もあってよく眠れなかったようである。

 ふと、目を移すと男の子たちの天幕が見える。昨日の戦闘で布がボロボロだ。襲って来た連中の天幕の布を持ってきたようだったが、大きさが合わなかったのか、雑に垂れ下げられている。

 そこから、九重さんが出て来て、こちらに気付くと近づいて来た。


 「おはようございます。九重さん。」


 「おはよう。茜殿。その様子だと、あまり寝れなかったようだな。」


 「ええまぁ、少しまだ興奮冷めやらないと言った感じです。しかし、そちらの天幕派手にやられましたね。」


 「まぁな。だが、ここが迷宮内で助かった。この季節だからまだいいが、野外だったら虫の心配もしないとだからな。」


 「あー、確かに。」


 うちの田舎だったから、冬でも野外で寝転がったりするとツツガムシに刺された子がいたからね。

 でも、迷宮内には普通の虫は居ないっため、天幕が破れていようがそこを気にしなければ問題ない。

 だけど、蚊みたいな血を吸う小型の魔物とかいたりする迷宮はないのかな?あったら、私は絶対に入らないけどね。うわぁ、想像しただけでぞわぞわする。


 「今は、気が高ぶっているから疲労をそんなに感じないだろうが、今日の夜も見張りをせずにゆっくり休め。明日が守護者の攻略予定だからな。その代わり、帰りの行程では、しっかり見張りをやってもらうぞ。」


 「わかりました。」


 「いい返事だ。素直なのはいいことだ。」


 「だって、私の師匠ですから、逆らいませんよ。ね。師匠。」


 「茜殿、その師匠と言うのは、やめて貰えないか。」 


 「でも、私の剣の師匠じゃないですか。」


 「だが、茜殿の腕で師匠と言われてはだな。教える技量が大したことないのではと思われるからな。」


 「ひっどーい。」


 「文句を言うなら、少しは上達しろ。後な、明日の戦い。上位の攻撃魔法は使わないでくれ。」


 「えっ、なぜです。」


 「今回の攻略に来た連中には油断に繋がるから、言ってはいないが、実は最初の守護者はそれほど強くない。もちろん、油断して一撃喰らえば死ぬことだってあるがな。」


 あれだね。教え子に危険な目に合って欲しくない、だけど簡単に倒してしまっては今後のことの油断にもなるから、うまく調整しようという事だね。


 「わかりました。で、どの程度に?それともう一人の子には言わなくていいのです?」


 「そうだな。『土砕槍』とか『風牙槍』程度の魔法を二回までだな。それ以下の魔法はそれほど傷をつけられないだろうから、いくら撃っても構わない。もう一人は、徒党員に補助魔法を掛けたりしてもらうので、まだ魔力もあまりないし、大きいのは撃てないから平気だ。」


 「わかりました。では、開幕に大きいのを二発撃って、後は相手の気を散らすように魔法を撃ちこみます。」


 「ああ。頼んだぞ。」




 その後、朝食を済ませて、私達は迷宮探索を再開した。

 第九階層に来ると紫アメナメクジも集団で動き回るようになってきた。


 私達は、その巨体の集団の横を通り抜ける。紫色の軟体を収縮せながら、悠然と移動して行く。本当に迷宮の魔物なのに襲ってこない。

 もっとも、こんなの複数体襲ってきたら、戦闘が大変だから、襲ってこないのはありがたいことだけどね。


 もちろん、その他の魔物とは当然戦闘になるが、第八層のまで難なく倒してきた私達が苦戦するような敵はおらず、問題なく倒して行く。

 このころには、他の子との戦闘にも慣れ、他の子がどう動くかといった動きも分かるようになってきた。なので、私も、迷いなく魔法を使えるようになっていた。

 順調、順調。


 「よし、この先で少し休憩にするぞ。」


 私達が、今日三回目の戦闘を終えると、九重さんがそう言葉を掛けた。

 休憩場所に着くと、二人が見張りを行い、それを背にするようにして、私達が休憩を取る。

 戦闘で魔法を使えない子が、生活魔法で水を作り出し、薬缶に入れ、各自でそれを飲む。


 魔法で水が用意できるから、いいけど、もし魔法で水を用意できないと、ここまで来るのに、どれだけ水を用意して運ばないといけないか、考えただけでも大変だね。

 まぁ、戦闘の事を考えると生活魔法も、そう無闇に使えないけども。

 でも、使えるのは便利だよね。


 そう言えば、この間考えてたマジックバックのような物、マジックバック、アイテムボックス、ストレージ、魔法袋等、錬金書庫でいろいろ調べたけど、どれも該当するものがなかったな。錬金術じゃ作れないのかな?戻ったらお政さんに聞いてみようかな。


 「何か、考え事ですか?」


 私が、そんなことを考えているとお妙ちゃんがそう尋ねて来たので、お妙ちゃんや周りの子にも、いくらでも収納できる袋のような物があるか聞いてみたが、いずれも知らないとの返事だった。

 この世界には、やっぱりないのかな?あったら絶対に欲しいな。生活が楽になるよね。


 休憩も終わり、再び探索が開始される。

 その後も順調に進むことができ、皆昨日の夜の疲れなどないかのように、敵を倒して行く。

 そして、第十層の守護者の部屋の前に辿り着いた。


 一応、万全を期して、翌朝に挑むため、今日は近場に野営地を設けて、休む事となった。

 そして、夕飯までの間は、薬師の女の子に頼まれて、錬金術で薬材をいくつか作ることとなった。

 作る薬は、回復薬、再生回復薬、魔力回復薬だそうだ。

 頼まれた薬材は基本材料はほぼ同じだけど、液体なうえ、薬効が短いので直前に作った方がよい物ばかりだった。そんな薬の薬材なので、滅多に作らないけど、そう言えば『光陰星霜』に頼まれて最近作ったな。


 そう思ってたら、一応、地上からこれらの薬は持ってきたが、そろそろ効果が半減している頃なので、明日に備え、作り直すそうだ。

 つまり、地上で作ったのも、私達の為の物だったのね。お政さんも、知っていたら、そう説明してくれればいいのにね。でも、迷宮に潜る前に一度作ったおかげで、流れるように作ることができたよ。


 その後、薬師の子が出来上がった薬を詰め替えていたが、古い再生回復薬は勿体無いと、男の子達が飲んでいた。夜襲の時使った残りだけど、いくら体に影響ないとはいえ、昨日の夜飲んで、今飲んで、明日の朝も飲むけど、本当に大丈夫なのかな?

 

次回のあらすじ


 茜達は、ついに迷宮守護者との戦闘になりました。茜は、九重さんとの位置合わせどおり、魔法を使ったのですが。

 次回 第29話 茜の迷宮探検記 6、是非読んでください。

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