27 茜の迷宮探検記 4
今回も血生臭い表現があります。苦手な方はご注意を。
紫アメナメクジ討伐で多少時間を取ったが、それ以外は順調に進み、三日目は当初の予定どおり、順調に第九層の入口まで到着した。
今日の夕飯は、梅干しと味噌汁、もち米を竹皮に包み灰汁で煮た灰汁巻という保存食でした。
この保存食は、これも普段なら嵩張る上、値段も張る物なのであまり持ち込まれない保存食という事です。
でも、これは口の中のパサついたりしないので、非常に食べやすいし、腹持ちも良く、食感も味も美味しいので大変満足でございましたよ。
今回、私達が初めて迷宮に潜るという事もあって、色々飽きないように食べ物を用意してくれている九重さん、ありがとうです。
そして、寝る時間になりました。もし、誰かにつけられていて、それが敵意のある者だったら、襲ってくるのは今夜か明日の夜だろうという事でした。
感覚強化薬を使ってみた所、間違いなく私達の近くに数人の人がいるという事が確認された。
たまたま深層に向かう徒党がついて来ている可能性もあるが、前方で狩りをしながら進んでいる私達を追い越さずに、感知できるかできないかギリギリの距離でついてくるのは不自然だという事らしい。
おそらく、相手は、この徒党を狩ることを目的にしているのではないかという事だ。
しかし、物騒だねぇ。
でも、『光陰星霜』ってこの迷宮ではかなり名の知れた一門なんでしょ?
そんなのを襲うって、何か目的があるのかな。
確かに、迷宮に目的があって潜っている徒党なら、私達の情報を確認して目的地くらい聞いて来たり、若しくは私達の戦闘している隙に追い越して先を急いだりするはずだよね。
そんな訳で、休み時も今日は、すぐに戦闘に参加できるよう防具を着込んで休むように言われたのでした。
ただでさえ、寝づらいのに防具まで来ていたら、熟睡は出来ないね。
もっとも、襲われると言う時に熟睡してたら、まずいから仕方がないのだろうけど。
もし、熟睡してしまって、殺されでもしたら、みんなになんて言われるか。
そんなことを考えていると、お妙ちゃんは心配なのかこちらを見ているのに気づいたので、声を掛ける。
「大丈夫ですよ。今日は、九重さんと斥候の子、獣人の子が別々に感覚強化薬を飲んで見張りについてくれているから。
起こされたら、さっさとみんなの邪魔にならないようにしましょう。」
「でも、私達が戦闘に加わらずにいいのでしょうか。」
「魔物相手とはまた、訳が違うし、私達がやったことのない人を殺すのを躊躇したりして、逆に徒党が危険になったりしたら迷惑でしょ。
荒事に慣れてない私達は、邪魔するもんじゃないよ。でも、他の人達が危なくなったら、折角武器を持ってるんだから、その時は助けましょう。」
「はい!」
村でもお姉ちゃんをやってたからか、お妙ちゃんは本当に頑張り屋さんだね。
でも、私について来ただけのお妙ちゃんが、無理して危ない目に合う必要はないからね。
私達は邪魔にならないように、でも、危なくなったら助けるという指針を私が示し、やれることもあるんだよと安心して貰い、取り合えず一緒に寝ることにしました。
他の女の子は、一番危険のなさそうな最初の見張りについています。今日も危険なのでという事もあり、見張りからは私達は今日も外れています。
見張りが終わった女の子達が戻って来たのに気付き起きてしまってから、暫く経ち、再び眠りに就いた頃、静かに告げられた声で起こされた。
「皆さん。起きて下さい何者かが近づいてきているようです。」
天幕の外で見張りをしていた男の子が、私達にそう告げて来た。
私達は、起きると、それぞれ武器を取り外へ出た。
私達の天幕がを遮蔽物になるようにして位置取りをして、私とお妙ちゃんは、通路の行き止まりに陣取る。
その前に女の子二人が私達を守るように身を潜める。
九重さんと斥候の男の子が魔物除けとして使われている魔道具の灯りの前で見張りをしているように見せるため外套に敷布や肌掛けを詰めてそれらしく見せ、本人たちは、通路からの死角に身を潜ませる。
前衛の男の子三人も、自分達の天幕の陰に隠れて、待機している。
こうして、私達は、近づいてくる相手に気取られないように迎え撃つ準備を整える。そして、事前に配られた再生回復薬を飲んで置く。
この薬は、事前に服用しておくことで、軽度の切傷とかを治す効果があるとのこと。
また、体の代謝を魔法薬で活性化させるだけなので、事前に飲んで怪我とかしなくても体には影響はないそうです。
むしろ、飲むことによって慰労回復効果があるそうです。便利な薬です。
少し時間を遡る。
「よし、ここまで来れば徒党は少なくなる。これが終わって戻っても、途中で俺達に会う徒党に遭遇する可能性もなくなるだろうし、ここで仕掛けるぞ。」
「でも、本当にいいんですかい?揉め事を起こしちまって、旦那からは目立つなと言われているんでしょ。」
「なに、ばれなきゃ構わないだろ。それに向こうはこの迷宮の第十階層の攻略を目指す、素人に毛の生えた連中だ。そんな連中に夜襲を掛けるんだあっという間に終わるさ。」
「なるほど。」
「確かに数もほぼ同数で、俺達と遣り合うんだ。相手は素人に毛が生えた程度だろ。正面から戦っても問題ないくらいだな。」
「そう言うこった。」
「よし、深夜の二時頃に仕掛けるぞ。それまで仮眠を取っとっけ。」
彼らは、『光陰星霜』に解体された、『薬理採里』の替わりに他の迷宮から来た一門衆の実戦部隊だ。
以前から、『光陰星霜』の動向を探っていて、彼らの若手徒党が、第十層攻略を行うため迷宮に潜ると言う情報を聞きつけて、『光陰星霜』への意趣返しのため、彼らを襲おうとしていたのだった。
「よし、時間だ。全員準備はいいな。」
「へい。」
「まずは気取られないように近づき、向こうの見張りを魔法と弓矢で仕留めるぞ。」
「おう。」
「隊長さんよ。向こうの小娘どもはどうしやす。」
「しょんべん臭いガキの女共だぞ、好きにしたらいい。ただ、魔法を使えるのが居るから油断はするなよ。」
「勿論ですよ。こっちも素人じゃないんですぜ。」
「よし、行くぞ。狩りの時間だ。」
「「おう!」」
男達は総勢十二名。ゆっくりと音を立てないように私達との距離を詰めて来る。
ある程度近づき、通路の曲がり角の所で先頭を歩いている男が、手で止まるよう指示を出す。
そして魔法使いと弓使いが先頭の男に並ぶよう前に出る。
距離は約60メートル程、少し距離はあるが、魔物除けの灯りのおかげで、見張りの二人はよくわかる。
逆に向こうからは、魔物除けの灯りが届かず、迷宮の明かり照らされてはいるが、凝視しないと気付けない微妙な距離だ。
男達は、目標を目視で確認すると、魔法を発動状態にしたり、弓を番えて弦を引き絞ったりして、攻撃準備を整える。
お互いが目で合図をして、見張りが居る通路に踏み出し、魔法を放ったり、矢を射かける。
魔法は、発動がばれないよう、単純な魔法弾が放たれ、矢も距離を飛ばしても失速しないよう遠的矢が放たれた。
魔法が着弾する寸前に、相手が動いて躱そうとしたように見えたが、避けきれずに当たり、体勢を崩しながら倒れた。
矢も一本は、失速して手前に突き刺さったが、残りの二本はそれぞれに命中し、見張りは倒れ込んだ。
「ははっ、やったぜ!」
「誰だよ。この距離で外している奴は。」
「おめえじゃねえのか。」
「俺の矢は、しっかり相手の首元付近に命中してるよ。」
「うるせえぞ!まだ、敵はいるんだ。さっさと天幕の中の奴も始末しろ。それと見張りの生死の確認もしとけ!」
弓を射た連中の会話を、党首が窘める。そして次の指示を出した。
「「おう!」」
党首の指示を聞き、声を押し殺して、そう返事をして、行動に移る。
弓使いの三人は、武器を小刀に換え倒れた見張りの生死を確認しに向かい。
残りは、魔法使い一人と近接戦闘職三人の四人一組に分かれて、二つある天幕に向かう。
党首は、打ち漏らしたり、気付かれて先頭になった所に援護に回れるように後方に待機して、ゆっくり近づく。
倒れた見張りの生死を確認しよう向かった男達は、小刀で仰向けに寝かそうと、背中に突き立てて裏返そうとした。
刃物を突き刺す感覚がやけに軽い。慌てて小刀を引き抜き、足で倒れている男を裏返す。
死人ではなく、外套に詰め込んだ敷布が顔を出す。
「わ、罠だ気を付けろ!」
男の一人がそう叫ぶが時すでに遅く、すでに各所で戦闘になっていた。
大き目の天幕に近づいた男達は、剣や槍を振り上げ突き刺す。しかし手ごたえはない。そこで何度か場所を変え突き刺すがやはり、手ごたえがない。おかしいと気付いた時に、後方で声が上がる。
「わ、罠だ気を付けろ!」
その声に注意を向けて振り向いた瞬間に、天幕を切り裂き、『光陰星霜』の徒党員が切り込んできた。
「な!」
槍を持っていた男は、慌てて槍で防ごうとしたが、槍の太刀打ちと言う補強されている部分で受けることができずに、槍ごと頭を斬りつけられてしまった。
声に振り向いていた男も、すぐさま剣で応戦しようとしたが、肩口を槍で突き刺され、体勢を崩し、そのまま倒れこんでしまい。その後ろにいた魔法使いもあまりに距離が近すぎたため、魔法を放つ前に、倒れ込んだ男から槍を引き抜く際に石突で鳩尾を叩かれ、頭が下がった所を、今度は槍先で首元を突かれて、絶命した。
最後の男は、刀で、『光陰星霜』の子の剣を受けきっていたが、数度切り結んでいる間に、周りの男が隙を突かれる形で、次々と殺され、ついには三対一となり、格下の『光陰星霜』の男の子達相手であったが、多勢に無勢、防ぎきれずに倒された。
もう一つの天幕に向かった男達は、天幕に近づく途中、一人の男が足元の異変に気付き。止まるよう声を掛ける。
あ、魔法使いの女の子が仕掛けた『底なし沼』の魔法が気付かれたわね。
なら、茜は、咄嗟に『硬直の砂塵』という全体麻痺の魔法を男達に向かって仕掛ける。
二人が抵抗に失敗して、そのまま前に倒れ込み、沼に体を沈める形になった。
向こうの魔法使いは私に気付き、私に魔法を放とうとしたが、逆に私の前に潜んでいた魔法使いの女の子に魔法を撃ちこまれて倒れる。
残った男は、沼を回避してこちらに向かってきたが、目の前に立ち塞がったお妙ちゃんと、横から近づいて来た薬師の女の子からの攻撃に挟まれた。
不利な戦闘になりながらも、持ちこたえ、反撃の糸口を探そうとするが、魔法使いの女の子が同士討ちを避けるため、攻撃魔法でなく『低速化』の魔法を男に決め、相手の動きをある程度封じることに成功した。
そこで、勝負あり、お妙ちゃんの槍が肩口に突き刺さった。
男は、その槍を引き抜こうと両手で槍を掴み、隙だらけになった所に、薬師の女の子の攻撃が首元に決まり倒れたのでした。
私は、初めて人に向かって魔法を行使したが、咄嗟のことでもあり、使った魔法が麻痺の魔法だったこともあり、余り人に対して魔法を使ったという実感が湧かなかったのが幸いでした。
見張りに近づいた三人も、相手が罠を張っていると気取り、慌てて三人が背中合わせになり、周囲を警戒する体勢を取る。
そこへ、九重さんが『鎌鼬』の魔法を放ち、一人の腕を切り落とす。
「うわぁぁぁ。」
大きな叫び声を上げ、腕を切られた男は、倒れ込む。
その男が倒れ込んで開いた隙を目掛けて、九重さんは切り込み、あっという間に残りの2人を切り伏せると、最後に痛みで倒れている男の息の根も止めた。
「嘘だろ。幾らやり手の一門とは言え、俺らがあんなひよっこどもに簡単にやられるなんて……。」
後ろで一部始終を見ていた敵の党首は、救援に駆け付ける事も出来ずに徒党員が殺されるのを見て、思わずそう呟く。
しかし、すぐに九重さんが向かって来るのを見て、気を集中させ、太刀を抜き構える。
九重さんは、近づきながら得意の風魔法を放つが、敵の党首はそれを冷静に捌き躱す。
それでも、九重さんは、それに動じることなく、さらに数度魔法を放ちながら、距離を詰めて行く。
それを相手が全て捌き切るが、すでに九重さんは、斬撃を加えれる距離に入っていた。
くっ、速い。
九重さんの一撃を何とか太刀でいなそうとしたが、九重さんは、自分の小太刀を受け止めた相手の太刀の勢いを利用して、体を捻ると更に一撃を浴びせてくる。
敵は、その一撃を再び太刀で受け止めれないと諦め、一撃を避けるため、後ろに跳び大きく後退する。
こいつの太刀筋は、魔物相手のもんじゃねぇぞ。人相手のもんだ。まずいぞ。ここで逆に俺達が全滅でもしてみろ、上からの命令を無視した上での刃傷沙汰、一門にも迷惑を掛けちまう。
「くっそ!」
敵の党首は、そう言って、今度は自分から仕掛け、太刀を下段から足を切り払う様に振り抜く。
だが、太刀筋を読み、九重さんは、それを飛び越えるように躱し、相手の懐に入ると腹部を斬りつけ、小太刀に着いた血を魔力を通して払うと鞘に納める。
それと同時に、敵の党首は、大きな音を立てて倒れ込んだ。
相手だって、私達を余裕でねじ伏せられると思って襲って来たそれなりの手練れの筈なのに、九重さんは明らかに力量差を持ってそれをねじ伏せていた。
九重さんて、もしかしてめっちゃ強いの?
こうして、不意に襲われことによって始まった迷宮内での対人戦闘は終わったのでした。
次回のあらすじ
茜達は、野営中にあった対人戦の後も第10層目指して、探索を続けるのでした。そして、ついに第10層の守護者が居る場所に辿り着いたのでした。
次回 第28話 茜の迷宮探検記 5、是非読んでください。
よろしければブックマーク、評価、ご意見、感想などよろしくお願いします。




