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異世界放浪記 狐人の錬金譚  作者: 日比野 麻琴
第1章 迷宮都市細腕繁盛記
20/77

20 星の細工は誰の物 3

 中に入ると、作業場ではなく、打ち合わせ用の場所になっているようで、様々な材質で作られた同じような髪飾りの見本や、色々な意匠が施された金細工、銀細工の見本が並べられていた。


 「では、こちらにお座りになり、少々お待ち下さい。」


 小夜さんは、お茶を出して、そう言うと奥に下がって行った。

 私達は、中に飾られている様々な見本を眺めながら、しばし待つことになった。


 「お待たせしました。この工房の工房頭補佐を務めて居ます。みやつこ 惣弥そうやと申します。」


 「よろしくお願いします。私は、九重 茜と申します。」


 私が名乗ると、お妙ちゃん達も続けて名乗った。


 「それで、本日は、職人を紹介して欲しいとのことでしたが、どのような仕事でしょうか?」


 「その前に、造さんでよろしいでしょうか?」


 「ああ、工房頭も造ですので、私のことは惣弥とお呼びください。」


 「わかりました。惣弥さん。では、私も茜とお呼びください。」


 「では、茜様と呼ばせていただきます。」


 茜様は、こそばゆいけど、まぁ私は客だし、いきなり崩して呼んで下さいとは言えないよね。では、本題に入る前に、少し相手に解れて貰いましょう。


 「はい、よろしくお願いします。本題の前に興味があるかわかりませんが、こちらで修行をしておりました善吉さんのおよそ一年前の作品ですが、ご覧になりますでしょうか?」


 そう言って、私は、九重さんから預かった髪飾りを包みから取り出し、包みの上に置いて差し出す。

 それを惣弥は、包みごと丁寧に持ち上げ、繁々と眺める。


 「これが善吉の作ですか。中々丁寧に作っている。私の一つ下の弟弟子でしたが、少し緩いところが昔からありまして、独り立ちして遠方に行ってから手紙一つよこさない奴でしたから、心配していたのですが、この髪飾りを見て、しっかり仕事をしているのがわかり、安心しました。後で、工房頭にも見せてよろしいでしょうか?」


 「ええ、構いません。それでは、作って頂きたい飾りをお見せしますので、これで髪飾りや髪留めのような物を作るのを任せられそうな職人を紹介していただければと思います。」


 私は、そう言って小さな巾着を取り出した。


 「失礼します。」


 惣弥さんは、そう言って巾着を受け取ると、布を取り出し、その上に中身を取り出した。


 「これは、玻璃?いや、石か?」


 うん、玻璃?確かガラスのことだっけ?まぁ、正解だけ伝えておこう。


 「これは、金剛石、宝石の一種です。但し、錬金術で作った物ですが、本物の金剛石と同じ成分で造られています。」


 「鑑定の魔道具で確認させていただいてよろしいですか?」


 ここにもあるんだ、鑑定の魔道具。まぁ、大きな工房だし当然と言えば当然なのかな?とすると結構出回っているのかな?

 あ、そう言ったことは後回しにして、返事をせねば。


 「ええ、構いません。どうぞ。」


 惣弥さんは、小夜さんに鑑定の魔道具を持ってくるように頼み、それが来ると、鑑定を行った。

 

 「成程。中々お高い物ですな。」


 やっぱり、高い部類の材料になるのか。となると、数を捌くのは難しいか?まぁ、その前にまずは職人の確保だね。


 「どうでしょう。どなたか紹介できますか?」

 

 「これほどの物となると、どうでしょう?私共に任せていただくという訳には行きませんでしょうか?」


 「惣弥さんの所でですか?でも、いいんですか?」


 「勿論です。工房頭とも相談にはなるのでまだ何とも言えないですが、出来れば私が手掛けたいと思っているくらいです。」


 「お妙ちゃん、どうしよう?」


 「私に聞くのは、どうかと思いますよ。でも、私の意見を言わせて貰えるなら、それがいいと思います。」


 「どうして?」


 「惣弥さんがいる前で、言うのもあれなのですが、その金剛石、結構な値段しますよね。

 多分材料を揃えて、売り物になるまでにかなりの日数が掛かるでしょうし、他の使う材料だって軒並み高い物になってくると思うのです。

 つまり、持ち込みで作るだけなら、前金を多めに貰えば済みますが、継続的に作るとなると、それだけ資金に余裕がないと作って売れるまで資金に余裕がある工房じゃないと受けられないと思うのです。」


 「なるほど。確かに金銭に余裕がないと、生活できないという事になりかねない訳ね。」


 「当然、そう言った問題もありますが、これだけの物で作品を作ってみたいと言う純粋な職人としての気持ちが上回っているのも事実です。どうでしょう。茜さん。」


 「わかりました。そこまで言っていただけるなら、お願いします。」


 「ありがとうございます。それでは、よろしくお願いします。」


 その後、工房頭も交えて、金剛石を卸す数や取引価格を決め、作る細工品の数や卸し先は工房に任せると取り決めをした。ただし最初の五個は髪留めを作って貰うことにして、それは私が買う事にした。

 それぞれ一通持つ形で、それを証文にする。


 その後、私は、工房頭に九重さんから預かった善吉さんの髪飾りの評価やこの工房に居た頃のやんちゃ話などを聞かされたりしました。

 お妙ちゃんとサキちゃんは、サキちゃんがあの場にいるのに飽きてきたこともあり、証文作成が終わってから、席を外して貰いました。

 私と惣弥さんも、用件が済んだのでさっさと席を立ちたかったのですが、そう言う訳にもいかず、話の聞き役になりました。

 まぁ、惣弥さんは、私のように面倒だからというより、新しい宝飾を使ったデザインを考えたりしたかっただけでしょうけど。


 そんな話も終わり、工房から出ると、お妙ちゃんとサキちゃんは、見慣れぬ子どもと一緒に遊んでました。


 「終わったよ。その子は?」


 「お疲れ様です。茜さん。この子は、ここに来た時に話していた惣弥さんのお子さんの綾さんです。」


 「そう、綾ちゃん帰って来たから、遊んでたの。」


 「こんにちは、お姉さん。綾と申します。」


 「あら、丁寧にどうも、私は茜と言います。よろしくね。」


 「お話おわったのですね。サキちゃん、帰っちゃいますの?」


 綾ちゃん、まだ遊びたいんだね。お政さんには悪いけど、小さい子が遊ぶのを邪魔しても悪いしね。さっきまで、さっさと話を切り上げて帰りたいと思っていた人の思考とは思えないぐらいの変わり身で、綾ちゃんの問いにこう答えた。


 「まだ、時間があるから、もう遊んでても少し平気だよ。」


 「良かったです。続きをしましょう。サキちゃん。」


 「うん。続きしよ。」


 二人は、そう言って、さっきまで遊んでいた続きを始めた。私は邪魔にならないように少し離れて、その様子を眺めることにした。

 お妙ちゃんは、それを見て、二人の遊びから離れて、私の所に来る。


 「いいのですか?こんなとこでゆっくりしてしまって?」


 「いいの、いいの。子供の遊びの邪魔しちゃ、無粋ってもんしょ?」


 「まぁ、私も下に妹と弟がいるので、つい甘やかしちゃう気持ちもわかりますが、それでもちょっと優しすぎますよ。」


 「いいなぁ、私は、お兄ちゃんしかいないから、子供に甘えられるとつい、可愛くてね。」


 「なら、茜さんも、一緒に相手をしましょ。」


 そう言って、お妙ちゃんは、私の手を引っ張ってサキちゃん達の元に連れて行った。

 それから、一刻ほど遊んで、工房を後にした。


次回のあらすじ


 茜は、錬金屋の仕事をこなしながら、工房への金剛石の納品も続けていました。ある日もいつも通り工房に納品に向かうのですが…。

 次回 第21話 星の細工は誰の物 4、是非読んでください。

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