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魔術師の杖  作者: 粉雪@4/14『魔術師の杖』コミックス1巻発売
第十三章 ネリアと死霊使い

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571.雪上訓練

コミックス発売!ありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

「行くぞ!」


 ライアスが乗るミストレイを筆頭に、ドラゴンたちは拠点を飛び立った。雪で覆われた大地にくっきりと影を落とし、ほんのひと飛びで訓練地についた。


 天空を支配するドラゴンに、対抗できる者は地上にいない。けれど今回の訓練には、アルバーン領からも軍用魔導車や、私兵団の魔術師などが参加している。


「うひょお、あいつらドラゴンと戦う気満々だぜ」


 凍てつく寒さのなか、ヤーンがヒュウと口笛を吹けば、ベテラン竜騎士のレインも渋い表情だ。


「対抗戦で錬金術師団が勝利したことで、竜騎士団の威信が揺らいでいる。アルバーン公は対ドラゴン戦を見すえて、私設軍を強化するつもりだ」


「団長、今回の訓練は公爵と腹の探り合いになります。地上に降りても気が抜けませんよ」


 副官デニスの注意に、ライアスもうなずいた。


「わかっている」


 アルバーン公爵をなだめるのに、いちばん簡単なのはライアスが公爵家に婿入りすることだ。


 そうすれば公爵は牙をむくこともなく、これまで通りエクグラシアに忠誠を尽くすだろう。だが……ライアスは地上に展開するアルバーン軍を見下ろした。


(タクラから戻らないということは、サリナ嬢も俺との婚姻に気が乗らないのだろう)


 とはいえ政略結婚は愛がなくて当然だし、次期公爵になる彼女にとっても、竜騎士団長との婚姻が助けにはなる。


 敬意をもって接し互いに尊重し合えば、きっといいパートナーになれる。頭ではわかっていても、ライアスは困惑していた。


(自分を好いてない相手に、夫としてふるまうのか……)


 レオポルドの許嫁として育てられた少女に、ライアスとてどう接していいかわからない。親友の婚約を彼女自身はどうとらえているのか知らないが、結婚相手の視線がまたも親友に向くのは、彼としても避けたかった。


(俺だけを見てくれる人がいい)


 政略結婚なら跡継ぎをもうけたあとに、互いに愛人を持つことも許される。けれどライアスには家で待つ妻のベッドに、他の男がいることなど受け入れられそうにない。


 頭では利の多い婚姻だとわかっていても、感情がついていかない。それならば心を殺してしまったほうがいいのだろうか。


 ミスリル鉱石が採れるモリア山を持つアルバーン領は、エクグラシア国内でも要所だが、寒さが厳しく人が暮らすには適さない土地だ。


 その厳しい環境に適応するため、もともと魔力持ちが生まれやすく、〝魔力のアルバーン〟と呼ばれるほど、公爵家も魔力に重きを置いている。


 生まれる子どもたちだって、強い力を持つだろう。けれど親友はそれを嫌ったのではなかったか。


「団長」


 水色の髪をしたアベルはアルバーン領の出身だ。


「昨年の対抗戦に参加した魔術師二名が、アルバーン軍に加わっているそうです。敗戦の責任を取らされて、塔からモリア山の山番に追いやられたとか。ええと夫婦で……たしか名前はマイクとカイラ」


「なんだって?」


 昨年の対抗戦で、錬金術師団のタコ型オートマタにより竜騎士団は総崩れになったが、魔術師団も惨憺たるありさまだった。


 カイラはレオポルドも認めるほどの炎魔術を使う魔女だが、錬金術師団を前になんと夫マイクの浮気がバレて、夫婦喧嘩が勃発したらしい。


 それがきっかけで、塔の魔術師たちがヘリックスに蹂躙された。


(あれはひどかった……)


 マール川で間抜けな姿をさらしたあのヘリックスが情け容赦なく、魔導大国エクグラシアでも頂点に立つ精鋭といえる塔の魔術師たちを、ねっとりとした腹足で踏んでいく。


 予想外の襲撃に美形ぞろいで知られる魔術師たちは、ヌメヌメてらてらした粘液まみれになり、見るも無残な姿をさらした。


(ネリアはかわいらしい女性だが、師団長となると本当に恐ろしい……)


 暴走したミストレイを手のひらで転がし、ライアス自身もオドゥからいいように踊らされた。


 あれですっかり腰が引けてしまったライアスだが、レオポルドは気にしなかったのだろう。


 そのあと彼女は国王も臨席する師団長会議で、魔術師団長であるレオポルドに公開プロポーズをして、婚約が成立したことになっている。


 けれどその場にいたライアスにはよくわかっている。ネリアは慌てていた。


(あれは彼女のうっかりを逆手に取って、レオポルドが一気に距離を詰めただけだ)


 だが秋の惨敗から立ち直れていない魔術師のなかには、ショックのあまり職場放棄してしまう者も現れたという。


 アベルが心配そうに声をかけてくる。


「あの、団長。俺もこの土地出身だからわかるんですが、アルバーン領のやつらの気質は基本的に狩人です。スキあらば一気に間合いを詰められるので、スキを見せないことです」


「ああ、よくわかっている」


 レオポルドの気質もまさにそれで、だから彼もアベルの助言はよく理解できた。


「スキを見せないか……まさにそれだな。アルバーン公爵が余計な野心を抱かないよう、ドラゴンたちの恐ろしさを知らしめろ!」


「「「「おおっ!」」」」


 ギャオオオオォゥッ!


 ドラゴンが咆哮をあげ、軍用魔道車へと突っ込む。


 魔術師が防壁の魔法陣を展開し、魔導車からも錬金術団の爆撃具を模したものが射出された。


 竜騎士たちが風の盾を形成するが、爆散した爆撃具から飛び出した鋭い破片が、いくつかドラゴンの翼の薄い部分を突き破る。


 白竜が鋭い悲鳴をあげる。


「アマリリス、翼に被弾!」


「くっ、新型か⁉️」


「上空に退避させろ!治癒魔法及びポーションを使用!」


「気をつけろ!魔術師の詠唱で気候が変わるぞ!」


 レオポルドのように広域魔法陣を使わずとも、戦場の天候を操るぐらいは塔の魔術師ならやってのける。


 彼らが得意なのは師団長のように嵐を打ち消すのではなく、むしろ現在の気象を増幅させることだ。


 ドラゴンが集う場は風の要素が増えるから、強風を喚びやすくなるし、冬であればより寒く吹雪を巻き起こすことができる。


 マイクという魔術師は増幅などサポート系の魔術が得意で、カイラともいいコンビだったらしい。


 ドラゴンたちも雪や寒さに弱いわけではないが、視界が効かない状態で爆撃具の射撃を受けるのは不利だ。


 最初の取り決めで『鉄槌』は使わないことになっていた。あるていどはこちらも、攻撃を受けることを覚悟しなくてはならない。


「ヤーン、マイクを狙えるか」


「やれるけどカイラが炎の渦でガッチリ守ってやがる。火傷必至だな」


「気をつけろ。アルバーン公爵の不興を買えば、彼らには後がない。何を仕掛けてくるかわからんぞ!」


 カイラはマイクをかばうように立ち、鬼の形相で炎の渦を作りだしている。


 浮気した相手に対する塔の魔術師の制裁は恐ろしい。パパロッチェンどころか永遠に姿を変えて迷宮に閉じこめられた者もいるとか。


 カイラは夫の浮気が原因で取り乱し、敗戦の原因を作った。


(そんな夫でも、あれだけ必死にかばえるのか……夫婦とはわからぬものだな)


 この場にそぐわないことを一瞬考え、ライアスは指示を飛ばした。


「俺がミストレイで突っこむ。攻撃が集中したら、各自雷撃の用意。ドラゴンの守りを盾に魔導車の動きを封じろ」


 そしてミストレイの巨体を見せつけるように、大きくゆっくり翼を羽ばたかせた。


 軍用魔道車がいっせいにミストレイへ照準を合わせる。


「竜王を堕とすのはお前たちではない!」


 ドラゴンを地に叩き落とす者……ライアスの脳裏に、勝ち気な赤毛の青年とふわふわとした赤茶の髪を持つ娘の顔が浮かぶ。


 そして深緑の瞳を持つ友人の姿も。

挿絵(By みてみん)

ひつじロボ先生とマグカン様のおかげで楽しいコミカライズになりました!

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