572.オーランドのアドバイス
雪上訓練を終えて野営地に戻った竜騎士たちは、もう昨日のようにのんびりできなかった。
「各自、騎竜のケアを済ませたら、学園生たちに引き継げ。エサやりは彼らに任せる。食事をしたらミーティングだ」
「任せて下さい!うわっ!」
グルルルゥッ!
不用意に近づいたグラコスがアマリリスに威嚇され、後ろに飛び退いた。
「気をつけろ!戦闘直後のドラゴンは気が立ってるぞ」
「は、はいっ!」
レインはアマリリスの首をなでた。
「すまねぇな。アルバーン軍の爆撃具の性能を確かめるために、わざと攻撃を受けさせちまった……グラコス、こいつのエサはミッラを多めに。それと鎮静効果のあるハーブも混ぜてくれ。乾燥させたものでいい」
「あ、はいっ!調整してきます!」
春から竜騎士見習いとして働くことになるから、グラコスの表情も真剣そのものだ。昨年の夏に職業体験をしたときより、ナイフを持つ手つきもさまになっていた。
ニックが竜騎士たちに声をかけて、スープを注いだカップとパンを配る。
「竜騎士のみなさんも食事を。あったかいスープができてます」
「お、すまねぇ」
レインはパンをかじって、湯気の立つスープをぐびりと飲んだ。野営地の食事は一瞬で終わる。ヤーンはペロリと唇をなめた。
「いいな。サラッとして塩気もある」
「おかわりありますよ」
ニックの前に空のカップがまとめて突きだされた。
さっさと食事を済ませたライアスは、副官デニスとカーター副団長を囲んでいた。
「弾道や飛距離の計算はできたか?」
「もちろんです。射出角から到達高度、噴射速度も割りだしておりますぞ」
「すごいですね」
「なに、竜騎士団にはいろいろ素材の都合をつけてもらいましたからな」
感心するデニスにそう言って、カーター副団長はギラギラと目を光らせた。
「軍用魔導車の性能もですが、爆撃具の性能も気になりますな。火薬の調合で爆発力を高めて内部に散弾をしこめば、高い殺傷能力を有します。『竜殺し』の兵器を開発している……というウワサも嘘ではないかもしれません」
「そうか……」
「ですが、魔道具に頼るのは〝魔力のアルバーン〟らしくないですな。アルバーン公お抱えの錬金術師とは何者なのでしょう」
「アルバーン領内のことは俺もあまり……王城では何かつかんでないのか?」
オーランドが首を横にふる。
「先代のアルバーン公はグレンを師団長とする錬金術師団を毛嫌いしていたと聞く。錬金術師が活躍するようになったのは、ここ最近だろう」
ライアスは顔をくもらせた。
「おそらくレオポルドも知らないな。魔術学園に入学してからは戻っていないし」
竜騎士団による雷撃で、軍用魔道車は走行不能となり、今日の訓練は終了した。
けれど訓練でアルバーン軍が使用していた爆撃具は、思ったよりも高性能だった。先手必勝で奇襲をかけられたら、ドラゴンたちの被害も大きいだろう。
「生物ではないから、気配に敏感なドラゴンでも感知しにくい。まさかこのエクグラシアで、『竜殺し』が開発されているとは思いますまい。遮音障壁をめぐらせて頂いても?」
カーター副団長の言葉に、ライアスがさっと応じる。副団長はアマリリスの翼から回収した、爆撃具の破片を机に広げた。
「魔道具の作りかたにはクセというか、個性がでるものです。他国で開発した新型爆撃具をドラゴンで試すとしたら……エクグラシアに持ちこむのが手っ取り早い」
「なんだと⁉️」
顔色が変わったライアスを抑えるように、カーター副団長は手を挙げた。
「まだ、そうと決まったわけではありません。足がつかないよう、国外から部品を取り寄せた可能性もあります」
「国内で作られたものではない、部品が使われているということだな」
こくりとうなずき、副団長は顔をしかめた。
「アルバーン公爵から要求されている、魔導装甲の技術供与と引き換えに情報提供を求めることもできますが……」
「いや、それはまずい。我々が警戒していることが伝われば、相手も慎重になるだろう。先にこちらで開発の拠点や、携わっている錬金術師の正体を探ろう」
「お任せします。私はただの技術屋にすぎません」
「いや、今回の雪上訓練に参加してくれて助かった。礼を言うぞ、カーター副団長」
ライアスが素直に感謝すると、副団長は驚いたように目をみはり、それからぶつぶつと続けた。
「単純に見合いのつきそいかと思いましたが、いろいろときな臭いですな。もしかしたら、向こうは慌てているかもしれません」
「慌てる?」
「アルバーン領でひそかに開発と研究を進めるつもりが、公爵のひと声で雪上訓練の実施が決まったのです。命令には従うしかないが、本来は隠しておきたかったでしょう」
「雪上訓練は相手にとっても、予想外だったというわけか……」
ライアスはアゴに手をあて、考えこむようにつぶやくと、デニスを振り向いた。
「デニス、アルバーン公爵からの晩餐の誘いは断ってくれ。竜騎士団のダメージを大きく見せて、手が離せない状態だと思わせろ」
「はっ」
「ふむ。情報操作をするならば、学園生たちにも徹底しておくことですな。彼らにとっては竜騎士たちより接触しやすい」
「わかった。それも含めて食後はミーティングだ」
打ち合わせを済ませてライアスが遮音障壁を解除すれば、オーランドは備品のチェックをしていたメロディとカディアンのもとへ向かう。
「助かります、オブライエン女史。私ひとりでやるつもりでしたが」
栗茶色の長い髪を綺麗に巻き、猫目がちな緑の瞳をしたメロディは、さっと彼に作成したリストを差しだした。
「壊れたものは修理が必要なのと、破棄して補充するものにわけて、リストを作りました。シャングリラに帰ったらすぐに作業にかかれます」
「手際がいいですね」
オーランドが感心すると、メロディはにっこりする。
「ひとりで魔道具店を切り盛りしていますもの。父も魔道具師でしたし、手伝いも小さいころからやらされていました」
カーター副団長がうれしそうに彼女へ話しかけた。
「いや、私も助かりましたぞ。メロディさん、竜騎士たちと学園生は食後にミーティングがあるようです。グリドルを用意してたこパの準備をしましょう」
「まぁ!副団長のたこパ!楽しみにしてましたわ!」
「はっはっは!ダシは持参しておりますぞ。これぐらいの楽しみはいいでしょう」
一瞬だけライアスは彼女に目を留めて、それから首を振って歩きだした。あとにオーランドが続く。
「どうした、ライアス」
「なにが?」
兄のオーランドは銀縁眼鏡のつるをくいっと持ち上げる。
「彼女を見ていたろう」
「それは……民間人の彼女がひとりいるだけで、殺伐とした野営地の雰囲気がやわらぐなと思って……」
「彼女を見てホッとしたのか?」
「まぁな。なんだよ……」
つい、弟の口調に戻ったライアスに、オーランドはふっと笑った。
「おまえも彼女みたいなタイプがいいんじゃないか?」
「え……」
驚いたように兄を見返す弟に、ふたつ年上の兄は淡々と続ける。
「学園生たちの面倒もよく見てくれるし、竜騎士団のやつらにも評判がいい。あのカーター副団長とだってうまくやっている。それに仕事ぶりもきちんとしていて信頼できる」
「な、なにを……それに俺はサリナ嬢と……」
思いがけない兄の言葉に動揺したライアスに、オーランドは冷静にたたみかけた。
「そうだな。だからアルバーン領にいる間に結論をだせ。公爵の配偶者となれば、貴族の社交に年中つき合わされる。おまえはレオポルドほど辛抱強くない。自分に務まると思うか?」
ライアスは拳をぎゅっと握りしめた。兄の指摘はもっともで、彼には返す言葉がない。
「それは……だが、彼女だってそんなことは……」
振り返ればメロディは、カーター副団長とたこパの準備を始めていた。グリドルは彼女の店でも扱っているから、会話も弾んでいるようだ。彼女の眼中に自分などないように思える。
ライアスの耳に、オーランドのため息が聞こえた。
「話をするぐらいしてみろ。おまえは女っ気がなさすぎる」
お兄ちゃん!
本日、渋谷〇〇書店で『魔術師の杖』全巻10冊お買い上げされた方に、本につけている手作りSSを選んで頂きましたが、同じものを2つずつ取られていたようで。
私も気づかず袋にそのまま入れてしまい……もし同じSSが欲しかったとかじゃなければ、ご連絡頂ければ未読のと交換しますm(_)m










